第3話 横山秀夫『ノースライト』より
急坂を転げ落ちるような感覚が蘇る。穏やかな坂を二人で上がっていた頃の感覚も忘れたわけではない。結婚生活は十年で終わった。何がいけなかったのか、どこで間違ったのか、夫婦の間に起こった出来事は余さず言えても、一つ一つの出来事をどう解釈するかで真相は表情を変える。年を追うごとにわからなくなっていく。わからないまま置き去りにしてきた。
(引用ここまで 横山秀夫『ノースライト』新潮文庫 令和三年 30P)
□ □ □
渋いねえ。離婚かどうかはともかく、男女としての終わりを迎えた後、辿りがちな感情を見事に端的に描写してるね。そうなんだよねえ……どれだけ自問自答を繰り返しても明確な答えなんてなくて、やがて置き去りに……。どこかでこの小説を読んだ誰かが「あの別れの後に漠然と抱いてたモヤモヤした感情は、コレだ……」って深く頷いてそうだよ。自分の中の漠然としたあいまいな感情を見事に言語化してくれてるものに出会えると、悦びもひとしおだね。
横山秀夫さんは、前回に挙げた重松清さんとは真逆の硬質でタイトな文体だけど、これもまた惚れ惚れとするほどカッコいいね。キャリアの割に寡作だけど、だからこそ質の高いものばかりなんだろうと思う。読んだ後に「金返せー!」って思った事が一度もないよ。
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