第4話 桜木紫乃『起終点駅ターミナル』より

 最後の最後に真理子の背を押したのは、古びた恋の清算だった。好いた男の面影は薄れても、若かった自分の尻尾だけが四十を目の前にしてまだこの身から垂れ下がっている。久しぶりに「竹原基樹」と書かれた文字を見て、悔しいほどその尻尾の輪郭がはっきりしたのだった。

 


(ここまで引用  桜木紫乃『起終点駅ターミナル』 小学館文庫 2015年 11P)



          □      □      □

 


 桜木紫乃さんの文章は「女の艶」があるねえ。「女の艶」がありながら「女の甘え」を排した凛と背筋が伸びるような独特の言い回しに、いつも唸らされてしまうわ。引用したい文章が山ほどあるもんね。

 桜木さんは、たしか何かのインタビューで「原稿用紙100枚でかなりの事が書ける。400枚ならもう相当な事が書ける。それに値するものを書けているかと、いつも己に問いかける」みたいな事を話されてたんだけど、たしかにこの人の本は、内容の濃さの割にページ数は多くない。

 それは言葉のひとつひとつ、一行一行を大切にしてるからこそできる事なんだろうね。小説を書くにおいて、その姿勢の大切さはプロもアマチュアも関係ないから見習いたいね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る