鑑定してもらうのは当分先になるかも

「おめでとうございます!可愛い男の子が産まれましたよー!」


 彼女と心中したら何故か転生してしまった。

 

 転生ってトラックに跳ねられたり誰かを庇って死んだとか、不幸な死に方をしたらするもんだろ?

 自殺をして転生したとか聞いたことないぞ。それも心中して転生だなんて。

 

「あ、あの先生?本当に元気な男の子が産まれたんですか……?」

「そ、そのはずなんですがねぇ、全く泣きませんね」


 俺を抱いている、母親だと思われる人と医師らしき人がそんな会話をしている。

 産まれて直ぐに泣かない赤ちゃんは羊水を取らないといけないんだが、この医師は知らないのか……?

 まぁ詰まってないから良かったが。

 じゃあここで前世で唯一、自信があったことをひとつ披露しよう。


「オギャー!オギャー!」

「泣いてくれました!元気な男の子が泣いてくれました!」

「お、おめでとうございます!元気な男の子が産まれました!」


 ちょっと演技が下手すぎたか?

 母親らしき人はちょっと言葉がおかしくなっているが何も思っていなさそうだ、医師らしい人は不思議そうな顔をしている。

 まぁ産まれたのだからいいだろう。

 そんなことより、俺よりも泣いてるやつがいるんだが。


「うおぉぉ……!頑張ったなぁぁぁ!」

「も~そんなに泣かないの。ほら、あなたも抱っこしてみなさい」


 この2人が俺の父さんと母さんかな。

 てか、母さんめっちゃ可愛いな。

 茶色の髪が腰あたりまで伸びてて、今の笑顔がすごい似合ってる。そしてこの胸よ。

 父さんもイケメンだなぁ。

 金髪の髪はオールバックで前髪が少し前に垂れていて、これぞイケメン!って感じだ。そしてこの筋肉、パワー!とまでは行かないが良い細マッチョだ。

 サングラス掛けたらもっとかっこよくなるだろうなぁ。

 そんなことを考えながら俺の体は父さんに抱えられる。


「軽いなぁお前、しっかり食ってくれよぉ?」


 軽いの当たり前だろ、今産まれたんだぞ?

 てかいつまで泣いてんだ。

 金髪オールバックがギャン泣きって、ちょっとギャップ萌え?


「あ、あのすみません」

「はい先生、なんでしょう?」


 医師らしき人が母さんに質問をする。


「なんでこの子は黒髪なんですか……?」


 さっきから不思議そうな顔をしてたのは俺の演技が下手なのじゃなくて髪色のことか。

 いやまて、もしかして他の男との子供を産んだのか!?


「そのことですか。多分、隔世遺伝だと思います」

「隔世遺伝でしたか、どちらかのおじい様が黒髪なのですか?」

「えぇ、夫の曽祖父が黒髪でして」

「そういうことでしたか、申し訳ございません」

「いえいえ、お気になさらず」


 わぁ、俺って凄いんだな。。

 隔世遺伝って先祖返りとか言われてるやつだろ?

 転生系でよくある勇者の生まれ変わりとかかな!?

 勇者、目指しちゃおっかなぁ。


「そろそろ大丈夫?あなた」

「大丈夫だ、泣いてばかりですまない」

「いいのよ、すごくおめでたい事だし」

「すまない、もう1回泣いていいか?」

「なんでよっ」


 笑いながら言葉を返す母さんにつられて父さんも笑う。

 幸せな夫婦だなぁ。

 こんなの見てたら彩羽が恋しくなってくるな。


「子供が産まれてすぐに申し訳ございませんが、鑑定を致しますのでお子さんのお名前を教えて頂けますか?」


 医師は少し大きめな水晶を持って近づいてくる。

 その言葉を聞いて改めて実感する。

 本当に転生したんだな、それも魔法が使える世界に。


「ごめんなさい、まだ名前決まってないんです」


 ん?今なんて言った?


「この子が初めに発した言葉を名前にしようといまして、少し時間が必要なんです」

「そうでしたか、では改めてお越してくださいね」


 実は俺、鑑定されるのすごい楽しみにしてるんだよ。

 何魔法が使えるのかすごい楽しみにしてるんだよ。


「今、なにか言ったらいいんだどなー」


 それだ!父さんナイスアイディア!


「…………」


 話せねぇぇぇ!!この歳だとまともに声が出せねぇぇぇぇ!!


「この歳ではまだ言葉を発することは出来ないと思います」


 くそっ!今日のところは諦めてやる!

 だが1年経ったら話せるようになってるからその時に見させてもらうからな!!

 上手く使えない舌を口から少し出してバレないようにあっかんべーをした。


「そうですか、では名前が決まりましたら来ますね」

「かしこまりました、では今夜はこちらで寝て頂いて明日にはお家に戻って頂いて大丈夫です。」


 あれ、赤ちゃんって何日か病院にいるんじゃなかったか?

 この世界ではそういう知識は薄いのかもな。

 前世では医師でも何でもなかったから口出しなんてできねーけどな。


「わかりました、ありがとうございました」

「いえいえ、ではごゆっくりお休み下さい」


 部屋から出ていった医師を確認して母さんはゆっくりと体を横にした。

 さすがに疲れたのだろう。

 子供を産むのは、鼻からスイカを出すぐらいの痛みって言うしな。


「先生が言うほど痛くなかったわね、このままもう1人ぐらい産めるかもしれないわね」


 なにを言ってるんだこの母親は。

 なんか言ってやれ父さん!


「ならもう1人ぐらい産むか!家族が増えて賑やかになるから俺は賛成だぞ!」


 父さんも何言ってんだよ。

 母さんの体心配してやれよ。


「この子が立派に育ったら考えようかしら」

「それもそうだな!」


 この会話を最後に母さんは眠りについた。

 さすがに疲れているようだ。

 連続で2人産むってのも冗談だよな……。

 母さんが寝てからしばらく時間がたち、父さんも椅子の上で眠りにつく。

 赤ちゃんが負けるほどのギャン泣きをしてたからそりゃ疲れるよ……。

 俺はさっき目が覚めたはずなのにもう眠くなってきた。

 赤ちゃんの体は不便だなぁ。

 まぁ寝る子は育つと言うし、寝ようかな。

 そして俺はベビーベッドで眠りについた。



  ◇



 あれから1年が経ち、俺はついに言葉を発せれるようになった!

 最初に発する言葉は何にしようか。

 最初の言葉で名前が決まるから大事なところだ。

 この1年悩んだけど、やっぱり前世の名前が1番いいな。

 俺は慣れない二足歩行で父さんと母さんがいる部屋に向かい、言葉を発する。


「か……ぇ……る」

「今この子何か言わなかった?」

「だよな、なにか言ったよな?」


 あれ、まだ呂律が回らない。

 少し急ぎすぎたか?もっと喋る練習しとけばよかったな……。

 たが、もう後戻りは出来ない!

 頑張れ俺の口!

 

「か……る」


 かけるのけの文字が出てこない。

 顔の表情を変えて絞り出そうとするがやはり出ない。


「かるって言ってるよね!?」

「言った言った!かるだ!」


 あぁ、もうダメだ……。

 俺の名前が翔からカルになってしまった。

 膝から床に倒れこもうとしてるの俺を父さんがキャッチし。


「お前の名前はこれからカルだぞー!」


 俺を高くあげて回る父さん。母さんも手を叩いて喜んでいる。

 こんなに喜ばれるのならこの名前もありかもな……。

 でもこれでやっと鑑定してもらえる!

 早く行こうぜ!


「今日はご馳走よ!」

「やったな、カル!今日はご馳走だってよ!」


 あぁ、鑑定してもらうのは当分先になるかもな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る