先祖はすごい人でした

 俺の名前が決まってから1週間。

 この1週間は父さんも母さんも浮かれっぱなしで鑑定のことなんて忘れてたらしい……。

 だが!今日この日を持って、俺は鑑定ができる!


「やけに嬉しそうだな、カル」


 コクコクと父さん腕の中で首を縦に振る。

 あれから一週間が経ったとはいえ、この体で言葉を発するのはまだ難しい。

 でも話せないことは無い。ただ今の状況に口が開けないほど驚いてるだけだ……。


「どうだカル、速いだろー」


 俺たちは今、鑑定をしに隣町まで行っている。

 だがなぜ……、なぜ走って移動してるんだよ。

 隣町まで距離が近いなら走るのも分かる……が、30分ぐらい走りっぱなしだぞ。

 俺の感覚が間違ってなければ車よりも速いし……。


「あなたー、ちゃんとカルに空気抵抗減少の魔法かけてるのー?」

「ちゃんとかけてるぞー」


 あー、だから負担がないわけだ。ありがとう父さん。

 いやそんなことより、この速さに母さんもついて来るの?

 俺を産んだ時のあの言葉、マジで実行できるんじゃないか?


 2人の体力と身体能力の高さに驚きすぎて少し混乱状態になる。

 そんな俺に対し、さらに追い打ちをかけてくる父さん。


「少しスピード上げても大丈夫かー?」

「大丈夫よー」

「ついて来れなくなったら言えよー」

「はいはーい」


 え?まだスピードあげんの?


「ちょ、ちょっとま──」


 慣れてない言葉を発する俺だがその声は小さく、父さんの耳に届くことはなかった。




「ふぅ、ついたぞー」


 や、やばい……。意識飛ぶかと思った……。

 このバカ親、俺の歳考えてんのか……?


「お?どうした、カル」

「さっきからボーっとしてるのよ。さすがにびっくりしちゃったかしら」


 絶対考えてねぇな……。俺じゃなきゃ死んでたぞ……。

 だがまぁ許してやろう!これから鑑定して貰えるんだ!

 それでチャラにしておこうじゃないか!


「か、鑑定」


 飛び掛けの意識を保ちながら言葉を発する。


「ん?早く鑑定したいのか?」


 首を激しく縦に振ってそうだと伝える。


「この子ったら1歳なのに私たちの言葉を全部理解出来てすごいわね」

「そうだなー」


 あ、まずい。

 あんまり気にしてなかったが、1歳ってまだ言葉の理解できないんだっけ。

 俺としたことが、完全にミスったな……。


「でも、私たちの子供なんだからすごいのは当たり前よね」

「それもそうだな。俺とナズの子供なんだからすごいに決まってる!」


 馬鹿親でよかったぁ。まぁ疑われたところで父さんと母さんなら真実を言ってもいいけどね。


 そんなことを考えていると、見た事のある建物に入っていく。

 確かここは俺が生まれた病院だな。


「いらっしゃいませー、鑑定ですか?」


 受付から若いお姉さんが声をかけてくる。

 

「はい、この子の鑑定をお願いします」

「わかりました。ではこちらへどうぞ」


 お姉さんに案内されている途中、父さんは俺の頭を撫でながら呟く。


「カル、少し大事な話をするぞ。今言っても分からないかもしれないがな」


 いきなりかしこまってどうしたんだ?

 俺は特に反応もせずに黙って聞くことにした。


「お前のその髪は先祖返りの証だ」


 それは知ってる、1年前の会話をちゃんと覚えてる。

 父さんは苦笑しながら話を続ける。

 

「先祖は、その、ダメ人間だったんだよ……」


 先祖がダメ人間……?なら俺はダメ人間の生まれ変わり……?

 じょ、冗談はやめてくれよ〜


「女と酒に溺れたダメ人間だったよ……」


 気持ちだけ、ため息を吐きながら天を仰いだ。

 ダメだこりゃ、期待するだけ無駄かも。

 だが俺の気持ちとは裏腹に、凄まじい事を父さんが言ってきた。


「でもな、先祖は魔王討伐のために召喚された勇者だったんだよ。全魔法を得意とし、剣術も格闘技も、戦いのことなら全て完璧な人間だったらしいぞ」

 

 父さんの言葉にハッと顔をあげた。気持ちだけ!

 召喚者!?勇者!?ロマンの塊じゃねーか!

 俺の精神は男子高校生真っ最中だ。

 先祖が召喚者とか勇者とか聞いたらワクワクしちゃうよ。

 でもなんでダメ人間になったんだ?そこ気になるな。


「そんな先祖がダメ人間になったのは理由があるらしい。なんでも、一人の女を失ったからだとさ」


 愛する人を失ったせいで女と酒に溺れた感じか。

 俺もそうなってたのかもしれないな。

 前世は彩羽と一緒に死んだから良かったが、何も言わずにいなくなったら俺も、女と酒に溺れてたのかもしれないな。

 あーやめだやめだ!過去は振り返らないぞ!過去を通り越して前世だが!不服にも彩羽が恋しくなるだけだ。

 てか先祖がダメ人間って話をしてなんの意味があるんだよ。

 彩羽のことを考えていた脳を無理やり先祖のことに切り替えた。


「ここからが1番大切なことだ」


 なるほど、さっきまでのは建前か。建前にしては衝撃が強すぎたが。


「お前確実に強くなる」


 俺は勇者の先祖返りだもんな。そりゃあ強いに決まってるよな、勇者の先祖返りだもんな!


「もしかしたら勇者に選ばれるかもしれない。だが俺はお前を勇者にするつもりは無い」


 なんでだ?自分の子供が勇者になったら誇らしいと思うはずだけど。

 父さんは深呼吸をして言葉を発した。


「勇者になったら色んな女が近づいてくる!お前には一人の女を愛して欲しい!先祖がダメ人間になる前みたいにな!」


 え?そんなこと!?

 いやまぁ確かに、勇者になったら色んな女が近づいてきてハーレムになるかもしれないけど!

 俺はハーレムなんて作らないから大丈夫だぞ!?

 自分で言うのもなんだが、一途の男だぞ!?

 

「ではこちらの部屋にお入りください」


 父さんの言っていることが分かるようで分からないまま、お姉さんに言われた部屋に入る。


 部屋の中心には台の上に水晶があり、それ以外は何も無い。

 少し不気味な部屋だ。


「それではお子さんの手をこの水晶に当て、お父様かお母様のどちらか、もしくはお二方がお子さんのお名前をお呼びください」


 水晶に近づき、父さんが俺の腕を掴んで水晶に小さな手を当てる。

 そして父さんと母さんは息を合わせて俺の名前を呼ぶ。


「「子の名はカル。我が子の能力を示したまえ」」


 うぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 呪文みたいな言葉!かっこいい!

 呑気な感想を思いながらも水晶からは箇条書きで文字が浮き上がってくる。

 

 なんて書いてんだ?言葉は聞き取れるが文字が全く読めん。

 転生物でよくある言語習得のスキルでも持ってるのか?持ってるなら文字も読めるようにして欲しいものだ。


「カル、ごめんな。さっき俺が言ってたことは全て忘れてくれ」


 ちょっとまて。忘れろってどういうことだ……?

 弱いのか?俺は弱いのか!?

 誰か教えてくれ!


「この子、本当に先祖返りなのかしら。強力なスキルもないし、一応全魔法は使えるけどあまり適性は高くないわね……」


 え、弱い?俺ってもしかして弱い?

 いやでも諦めるにはまだ早い!1つぐらいは飛び抜けたものがあるはず!


「ま、魔力量が……!ば、化け物!」


 お姉さんは腰を抜かしながら水晶から浮きでている文字を指さす。 

 化け物とは失敬な。確かに父さんと母さんは化け物だが俺は違うと思うぞ。


「あらほんと……。魔力量だけ凄いわね……」

「いち、じゅう、ひゃく…………。魔力量、7万か……」

「これはまずいかもしれないわね……」


 2人は不安そうに目を合わせてひとつ頷く。

 え、なになに。2人してそんな怖い顔してどうしたんだよ。 


「カルには死ぬほど愛情を注ごう」

「そうね、この魔力量で私たちと敵対してきたら家どころかひとつの国が消えるかもしれないわね」


 強くね?もしかして俺、めっちゃ強い?

 てかこの2人と戦ったら国が消えるって……。この2人本当に化け物なんだな……。俺もだけど。


 てか愛情がなくても親に対して敵対なんてしないよ!

 いやでも、前世の記憶がなかったら敵対するかもしれないな。

 俺を見放されてる気がして両親を恨む可能性もある。実際、前世ではそうだったし。

 心の拠り所は両親じゃなくて彩羽だったなぁ……。

 あーダメだ。もう1回彩羽と会いたい。

 俺の気持ちなんて知る由もなく、父さんと母さんは呑気に話しかけてくる。


「まぁ、愛情は魔力量関係なしに死ぬほど注ぐけどな!」

「そうね〜、私たちのたった1人の子供だからね〜」

「改めてよろしくなー、カルー」


 スリスリと俺の頬に父さんの頬をあててくる。

 まぁ彩羽とはもう会えないのは分かってるからな。それに前世とは違って幸せな家族があるし。


 てか頬をくっつけてくるのやめろ。父さんじゃなくて母さんの方が嬉しい。

 その母さんの方を見てみると、ニコニコとこっちを見るだけで近づいてこない。

 いやまぁ来ないわな。普通に恥ずかしいもんな。

 家ならまだしも公共の場で頬をあてるなんて恥ずかしいもんな。

 

「あれ、ナズは来ないのか?左の頬が空いてるぞ」


 父さんの言葉に反応して母さんがニコニコしながら近づいてくる。

 あれ、恥ずかしくないのか?父さんがしてるから「まぁいいか」って感じなのか?

 なら素直に俺も頬を差し出そう。

 俺もニコニコしながら目を閉じる。


 ──スパーン!


 大きな音にびっくりし、慌てて目を開く。

 俺の視界に映ったのは、自分の片方の靴を持っている母さんと、頭を抱えてる父さん。そして未だに腰を抜かしているお姉さん。

 

「公共の場でそういうことするのやめて。恥ずかしい」

「そう言うなよー、父さんの愛情を注いでただけだろー?」

「家でやりなさい!」


 父さんのメンタルと体は無敵なのか?

 頭を抑えてるが痛そうな素振りはひとつもない、それどころかすごい嬉しそうだ。

 嬉しそうな父さんから俺を引っ張り出して抱っこし、父さんの首根っこを掴んで歩き出す。

 

「では、ありがとうございましたー」


 母さんのお礼で我に返ったのか、お姉さんが素早い動きで身だしなみを整えて深々とお辞儀をする。


「は、はい!お気をちゅけお帰りくだしゃい!」


 俺の魔力量と母さんの怒りが相当恐ろしかったのか噛みまくりだ。

 俺も初めて母さんの怒った姿見たけど、怖ぇ。

 それを嬉しそうに受けていた父さんは相当なMなのか……。


「今日はあなたの晩御飯は抜き!」

「それは勘弁してくれぇ、悪かったからさぁ」


 少し笑顔な父さんの悲痛な叫びは母さんに届くことはなく、本当に晩飯抜きになっていた。

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