第12話 過去と児童書

 ファミレスで、明太子パスタを食べながら、向かい会って座る、本宮をみて蒼井は面接をした日を思い出していた。


 約一年ほど前、蒼井咲良は、当時は、17歳で高校は行っていなかった。


 年の離れた姉と妹がおり、父は会社員で母はパートで働く、ごくありふれた家庭で育った彼女であったが、幼い頃からなんとなく、周りに合わせる事が苦手で、その頑張りは中学で限界を迎え、学校に行くことが出来なくなってしまったのだ。


 特に理由がなかったので、解決する事もなく卒業を迎え、親の理解もあり、進学せず自宅で半年ほど過ごしていた。


 そんな時、このラクヤを偶然訪れて、なんとなく、立ちよった児童書のコーナーである一冊の本に目が止まった、メロンの男の子らしいキャラクターが剣と盾をもっている本。


 『たべものくにのメロンくん』


 本の内容は、たべものの国の話、登場人物メロンくんが、果物なのか野菜なのか悩みながら成長する内容の本である。


 「幼い子から、小学生くらいまでで楽しめる贈り物にぴったりです。」


 振り返ると男性のスタッフが立っている名札には本宮と書かれていた。

 男は話を続けた


 「結構、内容も深いですよ。」


 蒼井は、ページをめくり、本に目を通し、それから本の購入を決めた。



 本を通し、一歩を踏み出す勇気を手に入れる事が出来、その数日後に、本宮の元に面接をする事となる。


 「もう一年だね」


 本宮の不意の言葉に意識はまた、蒼井の意識はファミレスに戻る。


 「あの時の本『メロンくん』って、プレゼントじゃなかったんだよね」


 「本宮店長、覚えてるんですか、私がお客さんで来たときの事」


 「ああ、覚えてるよ、あの後すぐに面接きてくれたのは印象深かったし」


 その言葉で、蒼井はとても嬉しく思うのであった。

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