第4話 自己紹介とLINE

 時の止まった店内で、女性は答える。


「私の名前は、春です。」


 言葉を発した瞬間、女性ははっとした表情をみせた、その表情をみて、本宮は、しまったと痛感する。


 急に、お客の女性の名前を聞くなんて失礼な事をしてしまった。

 不愉快にさせる行為を取り繕うとするも言葉が出てこない。

 それを感じたのか春から、話しかける。


「この本、以前読んだことあって懐かしいなぁーって思って、店員さんも読んだことあります」


 春は、そう言うと自分の顔の横に両手で本を持ち表紙を見せた。


 気を遣わせてしまった。


 そう思いながら、本宮は言葉を返す。


「ええ、俺も、あっ、私も、昔読んだことあってとても好きな本の1冊なんです、だから手に取ってもらって、嬉しくて、なんか変なテンションで名前聞いてしまって」


「私もこの本好きですよ、主人公の女性教師が憧れで、また生徒の女の子も可愛いんですよね」


 二人の中に共通の話題が生まれ、先程の気まづさが嘘のように、会話が弾みだす。


 「じゃあ、この本の続編も読まれたんですか?」


 そう言うと、春は少し気まずく答える。


 「いえ、私実は読んでないんですよ」


 この本が刊行された時は、まだでネットで本を購入するのも一般的ではなかったし、続編と言っても単体で完結している作品で、書店で見かける事は少なかった、読んでない事も頷ける。


 本宮はそう思い、一つ春に提案してみる。


「良かったら、続編読みませんか、注文できますよ」


 営業の気持ちもあるが、それにプラスして同じ本を楽しんだ者として、また続編を読んでもらいたい気持ちもあった。


 少し考えたあと、春は笑顔で答えた。


「ありがとうございます。ぜひお願いします」


「じゃあ、名前は先程聞いたので、連絡先だけ教えてもらっていいですか」


 そう言った瞬間またも、ナンパのような手口に自分で動揺してしまう。


 春は、一瞬固まるも直ぐにスマホを差し出して笑顔でこう答えた


「LINEでやり取りしていいですか?」



 真っ直ぐで大きな瞳に、本宮は、また言葉がつまってしまった。


 こうして、本宮と春の奇妙な恋が始まる。


 








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