第3話 雨音と始まり

夕方から降りだした雨は、次第に強さをまし、夜には大雨となっていた。


 こうなってしまうと、雨宿りのお客さんは増えるが、本の売上は落ちてしまう、わざわざ、雨の中本を買って帰る人など少数なのだろう。


 早く店じまいをした方がと思いながら、本宮は女性のお客さんに近づいた。


 そして、本棚の上段にある、女性客が狙っているだろう本を手に取る。


 手に取り、その表紙を見た時、本宮の一瞬手が止まる。


 その本は、本宮がまだ学生の頃に出会った本で、先生と生徒の成長を描いたノンフィクションの作品であった。

 真っ直ぐな先生と家庭や自信に問題を抱えた生徒が問題に取り組み、信頼感を気づき上げていくストーリーで、本宮はその世界に入り込み、また本の持つ力や素晴らさを感じた話であった。


「あの~」


 女性は、困った様子で話しかける、本宮のエプロンの制服で店員とは理解しているが、何故本を渡してくれないのかといった感じである。


 呼びかけにふと我に帰り、本から女性に視線を移した時に衝撃が走る。


 肩まで伸びた髪に、軽い化粧、派手ではなく、ひかえな印象、整った顔であるが、特別目立って、可愛いという感じではないが、本宮の心を掴んだのは、その瞳だった。


 目がパッチリして大きく、それに黒目がとても綺麗で大きく鏡のように、本宮を写し出す。


 本の事よりもその女性の魅力に一瞬で虜になる感覚を感じ、言葉が直ぐに出なかった。


 そこに女性が言葉を続けた。


 「その本、いいですか?」


 「あっ、すみません」


 本宮は慌てて本を差し出す。


 女性は、本の表紙を見ながら少し黙っていた。


 普通なら、いつもなら、ここで挨拶をして離れるのがだ何故か、離れる事ができなかった。


 そして、本宮本人にも、思いがけない行動、発言をしてしまう事となってしまう。



「お名前お聞きしてていいですか?」


 その言葉に呼応したように、外の雨はより一層強く降りだした。


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