第2話 現実生活とカウントダウン

 ラクヤという本屋の仕事は、ほとんど午前中に忙しさが集中しているように思われる。


 前日の入荷した本を、コミックならカバー(シュリンク)をかけ、付録のついている雑誌には、ひもで縛って、ラクヤでの雑誌やコミックといった大衆向けの本は大事な収入源なので、なるべく早い時間に棚に出すのが本宮の経営方針である。


 とはいっても、小さな本屋、昨今の電子書籍の波で経営自体はうまくいってないというのが現状である。


「店長は、やっぱり本が好きだから、本屋しているんですか」


 先ほどの失敗の気まずさと、作業の沈黙とに耐え切れず蒼井は声をかける。


「ああ、そういう事かもね。」


 本はもちろん好きだが、急に話かけられた驚きで、うまく言葉を紡ぎだす事ができなったが、なんとなしに会話を終わらせる事も申し訳ないと思い言葉を続けた。


「接客は好きだけど、人間関係は上手く行かない事もあって、ゆっくり生きたいなと思って、今の仕事を選んだんだよ。」


 そう言いながらも、結局はなかなかうまくいかない経営でゆっくりライフとはいえない現状には頭を抱えている。


 本宮は、専門学校を卒業後、地元企業に就職したが、人間関係や忙しさに離職を決意、何ヵ月か休養した後に、知人の紹介で本屋を営む事となったのである。


 好きな本に囲まれて過ごすのは楽しいが、今年から2人目のバイトスタッフの蒼井を雇った事もあり、今まで以上に人件費等のお金の事を考える事が増えていた。


 他愛のない会話を終えると、仕事に戻る。


 忙しくないとはいえ、やることはある、日中業務をこなしながら、ボチボチとくるお客の相手をこなしていく、軽い疲労感と、外がもう暗くなっている事で、手元にある時計を確認、夜の9時を回っている。


 雨も降っている、お客はもう来ないかもしれないなと思い、店内を見回すと、女性のお客さんが1人いる事を確認した。


 本棚の一番上の本を取ろうとしているのか、踵を上げ背伸びをしようとしている。


 いつもなら、近くに踏み台があるのだが、何故か今はそれがない。

 本宮は、探して渡すより自分が取って上げた方が早いと思い、女性に近づく。


 その一歩一歩は、日常から新しい日常に変わるカウントダウンなのかも、しれない。


 


 

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