期待過剰な自意識過剰

@nagaresasa

第1話 本屋の男と日常

 11月も下旬というのに、まだまだ暑さの衰えない南国の沖縄。

 その沖縄の中心にある国際通りから、少し裏道に入った場所にある本屋『ラクヤ』、50坪程度の書店には所狭しと本が並んでいる。


 店主の名は、本宮総司。


 29歳の彼は、2年ほど前にお店を開店させて、ほぼ毎日のように、本に囲まれて過ごしている、長身で整えられた髪型の彼は、汗を拭いながら台車に乗せている入荷したばかりの本を、本棚に丁寧に並べている。


 正確にスムーズに動く手が一瞬止まり、本棚にある本を一冊抜き取り、作者の名前に目を移す。


 作者の名前は、今野と記載されいるが、本の仕切りは、ア行である事から、この本を入れたスタッフは、今野を「こんの」と呼ばずに「いまの」と呼びこの場所に入れた事、そしてだれが行ったのかも容易に想像できた。


「蒼井さん、本の位置間違ってますよ」

 

 少し離れた位置で作業をしていた女性スタッフに声をかけ間違いを指摘する。


「著者名が今野なのに、ア行のところにありましたよ、この読み方はこんのですので、カ行にいれて下さい」


 蒼井と呼ばれた女性スタッフは申し訳なさそうに、苦笑いを漏らして返事をする。


「すみません、毎回毎回、どうしても『いまの』って読んじゃうんですよね、やっぱり学校きちんといってないからから」


 少し学歴にコンプレックスを持つ彼女の発言に総司は、気にしないでいいという返事をし、作業に戻る、なんのこともない日常の風景、彼は、それが少し心地よく感じ、できれば自分の人生はこのまま穏やかに過ごせればと思っていた。



 しかし、そんな日常、人生というのは、ふとしたきっかけで、大きく動くことになるとはこの時の彼には、思いもしなかったのである。



 これは、そんな彼の物語である。

 

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