5−11 VSラスボス(2)


 いや、あり得る。


 背中から地面に落ちた僕は、震える足で立ち上がった。


 もう僕には全力で戦う価値が無いと思われたのか、ラスボスは追撃の手を止めて僕を眺めて立っていた。

 

 息を深く吸って止め、全身の痛みでよろけそうになる身体に無理やり力を込める。

 両足を肩幅より少し広く開いて、腰を下ろして構える。


 次はない。

 時間的にも、体力的にも、この一撃が僕の放つことができる、最後の攻撃だ。


 ラスボスの方を向いて、集中する。


 再びラスボスは身を屈めると勢いよく地面を蹴った。


 その瞬間、世界がスローモーションのようになったかのように、異様なほどゆっくりに見えた。


 近づいてくるラスボスの腕の毛1本1本が見え、LEDの街灯に照らされた滑り台の錆びたペンキの破片も、地面にある土のひと粒ひと粒すら知覚できる気がする。


 ラスボスの赤い瞳が、僕を捉えている。

 その大きな身体を捻ってから大きくて黒い右拳を前に突き出してくる。


 ここだ!


 僕は右足を思いきり踏み出し、肘を身体の内側からすくい上げるようにして前に突き出す。

 

 右肘がカウンターの要領でラスボスのみぞおちのあたりに触れた時、時間の流れがさらに遅くなり、もうほとんど止まったように感じられた。


 前髪から流れ落ちた汗の粒が空中で水の玉になっているのが見える。


 極限状態。

 死ぬか生きるかの分水嶺に立たされて、僕の意識に語りかける声があった。


「もう心配ないってのを見せたったら、一番安心するんとちゃうか」


 思いっきり地面を踏みしめる。


「勝てるよ。勝てるに決まってる」


 突進してきたラスボスの体重が僕の肘にぐっと伝わってくる。


「もっと自分に自信をもっていいと思うよ」


 地面を蹴った反動を技に乗せる。

 渾身の力で裡門頂肘をラスボスに叩き込む。


「うぉおおお!」


 踏み込み、体重移動、地面からの力を乗せる、その全てのタイミングが寸分違うことなく打撃と一体になった会心の一撃だった。


 ドゴンッという重たい音と同時にラスボスの肋骨に攻撃がめり込んだ。

 その巨体が後ろに吹き飛び、すべり台の階段にぶつかって止まった。


 その体から色が抜けて煙になっていく。

 そして煙が再び宙で渦を巻き始める。


 今だ。


「リザレクション!」


 これが僕の考えついた唯一のラスボス攻略の方法だった。


 SPはこれで全てなくなった。体力も底をついた。

 そして3分間が経過したのか、急に体全体がマラソンを走り終えた後のようなだるさがおそってきた。


 重力に逆らえなくなった僕は公園の冷たい地面の上にうつ伏せで倒れこんだ。もう指1本だってまともに動かせない。


 頼む。


 どうか予想が合っていてくれ。


 ……頼む。

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