5−9 僕の本心

 果たしてこの作戦はうまく行くだろうか。


 僕は、守りきれるだろうか。


「ストニカ」


 澪の身体から色が抜けていき、怪訝そうな表情のまま時間が止まったみたいに石になって固まった。


 プロテクに守られた経験値の袋だけが色を残していて、僕はそれを固まった澪の手からゆっくりと引き抜いた。


 プロテクは魔法を防ぐことができるスキルだ、だからストニカの影響から巾着袋だけを守ってくれた。


 これは昼間やった実験の結果通りだった。


 一緒にここまで戦ってきた澪をだますことになって罪悪感を感じないわけじゃない。

 だけどきっと僕が一人で戦うと言ったら素直に応じないだろうし、モンスターとの戦闘時間もストニカの効果時間も同じ5分間なのでギリギリまで粘るためにはこうするしかなかった。


 僕は昼間買った防刃ベストをリュックから取り出して澪の身体に被せた。


 そして澪とコウゾウさんの経験値袋の紐を緩めて中身の全てを僕の袋に流し込む。


 ざーっと音を立てて巾着袋がぱんぱんになると、ステータスカードの数値が変わった。


[Lv620 HP603/1850 MP155/502]


 3人分ともなるとさすがにすごいレベルだ。HPの最大値も3倍以上になっている。

 そこからキュアーを連続でかけてHPを全回復させる。


[Lv620 HP1850/1850 MP85/502]


 これでよし。


 しばらくして昼間と同じように赤く点滅して警告メッセージが出る。

 残された時間が残り3分であることを示していた。

 

 僕は自分に[プロテク]をかけ、100回目となるボタンを押した。


「ねぇ姫、僕は勝てるかな」


 姫は何も言わない。


 離れたところに静かに立っていて、感情の読めない顔で僕らの行く末をじっと見ていた。


 地面にゆっくりと大きな次元の歪みができてくるのが見える。


 指示棒を握った手も、膝も、小さくふるえているのが自分でわかる。


 怖い?

 怖いよな、そうに違いないはずだ。


 でもこの震えは、きっとそれだけじゃない。

 僕の中には恐怖とは全く違った感情も渦巻いている。

 

 深呼吸をして、自分の本当の気持ちを感じる。

 思わず笑ってしまいそうになる。


 なぜならこんな大変な状況なのに、僕は少しだけ楽しいと思っていたからだ。


 なぜだろう? いや、もう理由はわかっていた。

 だって今、僕は初めて僕自身で逃げずに戦うことを決めたから。


 いつも途中で諦めてきた。


 自分が傷ついたり才能のなさにがっかりしたりする前に、予防線を張って逃げてきた。


 やらなきゃいけないことだけやって、間違えないようにだけして生きていた。


 でも本当は、ずっと心のどこかでは、諦めたくなんてなかったんだ。


 格好悪くても、失敗をしても、挑戦し続けたかったんだ。


 今から、やっとそれが叶う。


 自分が力尽きるまで全力を出し切れる瞬間がついに来たんだ。


 だからこんなに


 楽しみなんだ。

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