3-16 体育大会
フォルティスクエストの残り日数が40日を切った。
昨夜の試練が終わった時点でのステータスを思い出す。
僕[レベル97 HP213/330 SP88/88]
澪[レベル185 HP753/753 SP215/215]
コウゾウさん[レベル195 HP820/820 SP0/0]
やっぱり何をしてもレベル差は開いていくばかりだった。
ステータスでは唯一SPに関してはコウゾウさんよりも多くなっていたけれど、これはコウゾウさんのスキルがSPを一切使用しないためそもそも必要ないからだろう。
焦りはあるけれど、どうしたら良いのかはわからないままだし、何をやっても変わらない現状に僕のレベルを上げることに対する積極性は少しずつ失われつつあった。
自分以外の2人はいつも一瞬でモンスターを倒せているのだから、ラスボスも2人に任せていればきっと大丈夫だろうという他人任せな安心感にすがるしかなかった。
そして当たり前のことだけど、そんなこととは全く関係なしに日常は進んでいくし学校行事だって当然行われる。
今日は体育大会だった。
天気予報では降水確率40%だったので期待していたのだけれど、残念なことに雨は全く降っていなかった。
いざ体育大会が始まってみると小学校の運動会とは違って親はほとんど見に来ていないし、生徒のために行われるイベントという印象が強かった。
プログラムも紅白じゃなくてクラス対抗になっていて、400mリレーやスウェーデンリレー、綱引きや騎馬戦が行われる予定だ。
誰が決めたのか生徒は誰1人例外なく何かの競技に出場しなくてはならず、僕はこの前のくじ引きで騎馬戦に当たってしまった。
僕のようなくじ運の無い者達が集まってなし崩し的に結成されたチームは、上に乗る役に背の高いサッカー部の杉本を置いて、僕は騎馬の右側を担当することになっていた。
ドーンとお腹の底に響く太鼓の音が運動場に響いて、騎馬を組む。
裸足にグラウンドの砂が少し食い込んだ。
先にあった2年生の試合を見ていると、相手の帽子を取られるだけじゃなく騎馬が崩れても負けというルールがあるからだろう、とにかく激しくぶつかり合っていた。
試合終了後に救護テントへ3人も足をひきずって行くのが見えた。
こんな危険なルールで誰一人として文句を言わないのってやばくないか。かくいう僕も黙って従っているうちの1人なのだけども。
ちらっと運動場の端を見ると放送マイクの置いてある席にあのいけ好かない内海先輩がパイプ椅子に座っているのが見えた。
きっと生徒会だか吹奏楽部だかで役割があるから競技に参加していないのだろう、体操着が綺麗なままだった。
しかしあの大人びた顔立ちなのに体操着姿ってのはどうにもへんちくりんな感じだ。
よそ見をしていると、ドドーンと太鼓が鳴って試合が始まった。
たくさんの騎馬が動くので砂埃がそこらじゅうに舞っているし右側からでは前があまり見えないので何が起きているのかよくわからないけど、どうやら敵のチームと接敵したようで上にいる杉本が動いているのが感覚でわかった。
がんばれ杉本、僕には何もできないけど。
杉本が帽子を取られないように後ろに避けたようで僕の方にぐぐっと体重がかかった。
それと同時に相手のチームが体当たりをしてきたらしく、勢いでこちらが潰されそうになった。
その時、踏ん張る姿勢になったからか身体が勝手に崩れないように抵抗できていることに気づいた。
あ、わかった。これ、八極拳の練習の時と同じだからだ。
そのままほぼ自動的にいつもやっているように体重を移動させてさらに踏ん張る。右足の裏が地面にこすれてじりじりと痛んだ。
とにかく僕は持ちこたえるしかなかった。
味方と相手の体重がのしかかってきて関節がぎちぎちと軋んだ。
なんとか他のやつらも頑張っていて騎馬は崩れずに踏みとどまってくれていた。
杉本が何度か上半身を立て直そうとしてくれているのが感覚でわかった。
その起き上がるタイミングに合わせて僕は貼山靠の要領で肩と背中を当てて味方ごと押し返した。
「うおっと」
杉本はいきなり下が反対方向に動いたから驚いたようだったけれど、なんとか帽子を取られずに持ちこたえてくれたようだ。
そしてこちらが起き上がった瞬間、相手の騎馬がバランスを崩したのかこちらに寄りかかるようにして倒れた。
「よっしゃー! 次は谷野のとこ回り込むぞ!」
上の杉本から声がかかった。
だけどその後あっさり他のチームに後ろから帽子をとられてしまい、僕らの出番はあっけなく終了した。
「ナイス富田! いい踏ん張りだったぜ」
杉本は僕の肩をばしばし叩いてきた。
他の奴らもクラスの席に戻ると「なー、1キル1デスだから、仕事したよな、俺ら」「冨田のおかげだな」とねぎらってくれた。
「いや僕は何も、立ってただけだよ」
褒められ慣れてないせいか、照れてしまった。
体育大会はその後予定通りに終了し、最終的にうちのクラスはいい成績とはいえなかったけれど、なんとか自分が足手まといになること無く体育大会が終わったことに正直かなり安堵した。
その日、制服に着替えて家路についた僕は、疲れてはいたけれどコウゾウさんの家に寄ることにした。
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