2-8 これまでの記録
僕らは持ち寄ったステータスカードを座卓の上に並べた。
座布団の上に座って3枚並んだそれを見比べる。
[名前:冨田翔 レベル22 HP78/78 SP15/15]
[名前:咲花澪 レベル28 HP88/88 SP25/25]
[名前:山本耕三 レベル25 HP95/95 SP0/0]
やっぱり毎日同じように1匹ずつモンスターを倒していても、レベルやHPにそれぞれ差が出てきている。
僕は持ってきた攻略ノートを開いて数値をメモしておく。
「なにそれ」
「ゲームの攻略ノートだよ。ちゃんと記録しておかないと後で思い出せなかったら困るだろ」
今まで書いた部分を澪にさっと見せると澪は「おぉーすごい、ガチ攻略じゃん」と関心していた。
僕としては何もメモすらしていない澪の方が驚きなのだけれど。
「そういえばモンスターが落とす経験値に大きさの違いがあったよね、小さいクリスタルだとレベルが上がらなかったりしてさ。その日、そのモンスターごとに経験値が違うからレベル差が出てきてるのかも」
あのイモムシ事件の時の話だ。僕が澪に話すのを聞いたコウゾウさんは納得したようにうなずいた。
次にカードをひっくり返して裏面も確認した。
僕のカードは、スキルタイプ:回復[1ポイズンヒール]となっていてそれ以外は白紙のままだ。
澪のは、スキルタイプ:魔法[1 ミニサンダー 2 ミニファイヤー]で、コウゾウさんのはスキルタイプ:攻撃[1 ハエたたきアタック 2 発勁]と、2人ともレベル2のスキルが使えるようになっていた。
最近使えるようになった澪のミニファイヤーとミニサンダーは、どちらも指から小さな光の粒が飛んでいき相手に当たった時に小さく爆発したり
モンスターは一撃で倒せたけれど、スキルは現実の物には一切干渉ができないようだった。
試しにミニサンダーやミニファイヤーで葉っぱに火がつかないかを試してみたけれど、魔法は葉っぱを通り抜けるだけだった。
「コウゾウさんのこのスキル、これなんて読むんですか?」
僕は[発勁]というあまり見たこと無い字を指差しながらそう質問した。
「これはね、ハッケイって読むんだ」
うむ、ますます何のことかわからない。
「翔くんは八極拳って知ってる? 中国語では”バージーチュアン”って言うんだけど」
聞き慣れない言葉に首を横に振った。
「中国拳法の1つなんだけど、実はちょうど翔くんぐらいの年齢の時に中国で習ったことがあるんだ。この発勁ってのはそこで教えてもらった身体とか力の使い方だよ」
「えーっと、それって冗談……じゃないですよね?」
思わず確認してしまう。この時代に中国で拳法修行ってのは全く現実味がなかった。
「ははは、本当だよ。とはいっても俺の拳法なんか、少しかじっただけだし他の流派のも混じっちゃったなんちゃって八極拳だけどね。こないだ出てきたモンスターが人型に近かったからかな、対峙すると発勁の使い方を体が覚えてたみたいなんだ」
コウゾウさんは少し恥ずかしそうにそのモサモサした頭を掻いた。
僕は話が脱線しないように、中国拳法を習うようになった経緯について尋ねたい気持ちを抑えた。
「コウゾウさんのスキルが中国拳法のそれだとしたら、今のところ攻撃方法がスキルの開放に関係してそうですよね」
「そっか、ハエたたきアタックも発勁も実際にやった攻撃方法だもんね」
澪はノートを覗き込んで言った。
僕はメモしていたコウゾウさんのスキル名の横に赤いペンで[攻撃方法で取得?]と書いた。
「じゃあ僕らの獲得したスキルは何で決まったんだろう」
「元々決まってたんじゃない? 魔法スキルの1つめはミニサンダーでレベル15で獲得、みたいに」
「確かに普通のゲームだとそういうシステムが多いもんな」
コウゾウさんが横から「もしかして倒したモンスターの種類とかは関係したりしてないかな。ミニファイヤーを獲得した日に赤色のネズミを倒したって言ってなかった?」と言ってくれた。
なるほど、そういう可能性もあるかもしれない。
「私が最初にミニサンダーを使えるようになった時って確かうなぎみたいなモンスターを倒した時だったよね、翔」
「ああ、ビニール傘で倒したやつだな。あれってもしかしてデンキウナギみたいなモンスターだったのかな。可能性は結構あるかもしれないね」
僕はポイズンヒールとミニファイヤーに鉛筆で丸印をつけて、『倒したモンスターの種類で獲得かも?』とメモした。
じゃあ僕のスキルの獲得条件って何なんだろう。ポイズンヒールを獲得したのはあの水色の角つきウサギの時でレベルが12だったけど、うーん。
しばらく3人で考えたけど何のアイデアも出なかった。
「僕はまだ1個しかスキルがないし、手がかりが少なすぎるのでまた今度考えることにしません?」
コウゾウさんと澪も同じことを考えていたようで、うなずいて返してくれた。
「ともあれ俺と澪ちゃんのスキルが5個中2個解放で、16日目って考えると今のところ順調なのかもね。次は出現するモンスターに何か傾向があるか調べてみようか。出てくるモンスターが予想できていれば戦いやすくなるかもしれないからね。悪いんだけど澪ちゃん、翔くん攻略ノートをこっちに書き写してくれるかな」
3人で寄って見るには僕の字は小さすぎたからだろう、澪はコウゾウさんから手渡されたA3サイズの大きなカレンダーの裏に今まで出現したモンスターを書き移していった。
「ぷはは、翔、エリンギって何これキノコってこと? とどうやって戦ってたの?」
澪が表に”エリンギみたいなやつ”と書きながら笑っていた。そういえばエリンギと戦ったのは1人の時だったのか。
「そのまんまだよ。でかいエリンギの見た目でさ、小っちゃい手と足が生えてたんだ。けっこう気持ち悪かったぞ」
そう僕が説明するとと澪からふっと笑顔が消えて「キュウリって出てくるのかな」なんて真剣な顔でぶつぶつ言っていた。
そういえば澪、きゅうりも大の苦手だったな、給食で噛まずに丸呑みしてたっけ。
コウゾウさんは目を細めて表を見比べながら言った。
「こうしてみると、俺ら3人とも本当に他のどのモンスターとも特徴が被っていないんだね。同じ種類のモンスターはいないのかな」
確かに見る限りでは同じような特徴を持ったモンスターは現れていない。「ねぇ姫、この表を見て、なんでもいいんだ、モンスターのことで思い出したことはない?」
「うーん、わかんないかな」
一縷の望みにかけて尋ねてみたけれど、予想通りの答えが返ってきた。
「ううん、いいんだよ」
僕は内心、姫から情報を引き出すのはやはり難しいか、と少し落胆した。
仕方なく僕らはモンスターを「哺乳類っぽい」とか「角がある」とかで分けてみたけど、出現しているタイミングはてんでばらばらで、結局法則性は何も見いだせなかった。
しばらくの間ああでもないこうでもないと唸っていたら、コウゾウさんが突然「そうだ、今日はもらいもののシュークリームがあるのを忘れてたよ。一緒に食べなよう。お腹が空いてちゃいいアイデアは出てこないからね」と立ち上がった。
「さんせーい!」
調子の良い澪は元気に手を上げてそれに答えた。
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