1-13 これからどうする
ゲームの置かれた部屋のふすまをそっと閉めて、僕らは縁側のある部屋に戻った。
これからどうしようかと神妙な顔をして座る僕らと反対に、姫だけは大きなテレビの前に立って満足そうに僕らを見渡した。
「3人ともお疲れ様。これで今日の試練は全員クリアだね、これにさっきの経験値を入れてみて」
姫は僕達に1つずつ手のひらサイズの巾着袋を手渡してくれた。黒い布地に金色の四角形が幾重にも重なった幾何学模様の細かい刺繍がしてあった。
「その袋に経験値のかけらを入れるとレベルが上がっていくんだよ」
言われるがままにさっきの金平糖を入れてみる。
「次はステータスを確認してみて。そうそのテレホンカードみたいなやつ」
テレホンカード……って、何だろう? と思いつつも手にしたステータスカードを見ると、文字がもぞもぞと生きているみたいに動いて数値が勝手に書き換わった。
[名前:富田翔 職業:中学生 レベル2 HP9/11 SP0/0]
顔をあげると澪とコウゾウさんと目があった。
[名前:咲花澪 職業:中学生 レベル2 HP10/11 SP0/0]
[名前:山本耕三 職業: - レベル2 HP10/12 SP0/0]
覗き込むと、やっぱり2人のカードも更新されていて、レベルが1つずつ上がっていた。
「最後にカードの裏側を見てみて」
確認すると裏側には【スキルタイプ:回復】と書いてあった。
その下には左側に1から5の数字が並んでいて右には空白がある。
「そこに獲得したスキルが表れるよ」
澪のスキルタイプは【魔法】でコウゾウさんのは【攻撃】だった。
その時、コウゾウさんのステータスカードからピコロンッという音がなって1つだけ空欄が埋まり[1.ハエたたきアタック]となった。
「え、それが……スキル?」
思わず言ってしまう。よく見ると下に小さく[ハエたたきによる攻撃]と書いてあった。そのまんまだ。
火が出たりとか氷が出たりとか、ゲームのスキルってそんな感じじゃないのか。
なんだか、想像していたのより100万倍しょぼい。
「姫、教えてほしいんだけど、どうして俺だけレベル1のスキルが埋まったの?」
「人によってスキルの獲得方法や時期はいろいろあるんだよ、そこは個性みたいな感じかな。これから獲得していくものをヒントに自分のスキルの特徴を探ってみてね」
それにしても僕は回復タイプか。どんなスキルになるんだろう、コウゾウさんみたいに”絆創膏はりキュアー”とか”包帯まきまきヒール”なんかになるのは嫌だな。どうせならもっとこう魔法みたいなものを使ってみたい。
回復と言えば、さっきカードを見ていて気になったことがあった。
「あのさ姫、どうして僕だけちょっとHPが減ってるの?」
ステータスカードのHP9/11の部分を見せて尋ねる。
確か僕らの元々のHPは全員が初期値の10だったはずだ。
「モンスターが出現しているときに攻撃を受けるとHPが減るんだよ」
攻撃なんか受けたっけ? 思い当たるフシがない。
「スライムから逃げてた時に減ったんだよ。ほら」
姫は考え込む僕に何かを思い出させるように自分の背中を指さした。
「もしかしてあれ? スライムから逃げてるときに澪に背中バシバシ叩かれたやつ?」
「え、私そんなことしたっけ?」
「やってたよ! めっちゃとぼけるじゃん」
「えへへ、ごめんごめん、あの時ちょっと気が動転してたからさ」
澪は少しバツが悪そうに笑ってごまかした。
でもまさかあんなことでHPが減るわけないか、モンスターからの攻撃でもないし。という予想を裏切るように姫は真面目な顔で「そうだよ。HPが0になると瀕死になるから気を付けてね」と言ってきた。
え、あんな叩かれ方しただけでHPが減るの? ということは、あの10倍叩かれたら僕は”瀕死”とやらになるってこと?
そう思って急に怖くなってきた瞬間、手にしたステータスカードのHPが9から10に自動的に書き換わった。
「あれ?」
「HPやSPは時間が経つと一定の数値が自動的に回復するよ」
なるほどそういうシステムか。ということは今のところ致命傷さえ負わなければ次の戦闘までには回復できそうだな。
僕はひとまず胸をなでおろした。
「しつこいようだけど試練は必ず1日1回ね。夜の12時になっても試練をしてないと強制的に始まるからね」
念を押すように姫が言うと、僕らの間には決して穏やかでない静寂がしばらく流れた。
ステータスカードを座卓に置いたコウゾウさんは僕たちに向かって頭を下げて手を合わせた。
「ごめんね、澪ちゃん、翔くん、こんなことに巻き込んじゃって」
いやほんとだよ、あんな怪しいゲームを始めようってことにならなかったら今こんなことになってないのに。……と思う反面、誰も予想できないことだし、今のところはすごく危険な事に巻き込まれたわけでもないような気もして文句は言わなかった。
ただでスイカをごちそうになった恩もあるし、それに正直なところゲームのモンスターと戦うなんて非日常的なことが自分の身に起きたのが、少しおもしろかったのかもしれない。
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