1-10 最初の試練
かくいう僕もどうしたらいいか分からずに身体が固まってしまっていた。
だって誰がこんな状況を想像できるだろうか。
あれはもしかして、いわゆるモンスターってやつなのか?
僕と澪はすくむ足を引きずってなんとかトーテムポールと象の置物の間を縫って少しずつ青い物体から後ずさった。
「それはコウゾウの今日の試練のモンスター、スライムだよ」
いや確かにスライムってのはゲーム序盤での敵キャラの定番だけど、それはゲームの中の話だ。なんでそんな架空の生き物が現実に存在しているんだ。
それに、僕の知ってるスライムは何かこう目とか口があってもっと可愛げのあるやつだ。こんな生き物なのかどうなのかわからないようなやつじゃない。
「試練は呼び出したステータスカードの持ち主が倒すんだよ」
姫ははっきりとした声でそう言ってコウゾウさんを見た。
コウゾウさんは姫のその言葉に「とにかく、やってみる」と頷くと、押入れを開け赤いスプレーを取り出してきて「2人とも、離れてて!」と言うやいなや、ブシュー! と青い物体にそれを吹き付けた。
手にしたそれには【瞬間殺虫! 超速ジェットスプレープロMAX! ゴキブリ用】と書いてあった。
殺虫剤を浴びたモンスターはダメージを受けたのか、急に動きが速くなって、右にうねうね左にうねうねと動いた。
僕の服の背中の部分を持つ澪の手に力が入って「やだー怖い怖い!」と思いっきりバシバシと背中を叩いたりひっぱったりしてくる。
僕たち2人は青いそれがこちらに動いてくるたびに「キャー!」とか「うわー!」とか「ギャァアアー!」と叫んで狭い部屋のあちこちを逃げた。
スライムは円錐形の刺が内側から飛び出したり、逆に平べったくなったりして、形が安定しなくなっている。それでも一向に動きを弱める気配はなかった。
姫が一歩前に出てコウゾウさんに言った。
「スライムは物理攻撃に弱いよ」
かわいい声でえげつないことを言ってのける。物理ってことはあの個体か液体かもわからないものにパンチやキックでもしろって言うのか? いやいや無理だって、冗談だろ。
ところがしっかり姫に頷き返したコウゾウさんは、また押入れの中をごそごそとあさって何か細長いものを持って出てきた。
ピンク色のハエたたきだった。
それを振りかぶるとコウゾウさんはスライムを上からペチンと叩いた。
すると突然動きを止めたスライムは、だんだん色が抜けてモノクロになり、最後は煙になってゆっくりと消えていった。
スライムがいた畳の上には青色の金平糖みたいなものが1つ転がっていた。
僕らはしばらく肩で息をしながらその金平糖をじっと眺めていた。
辺りは殺虫剤の匂いが漂っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます