第53話 新しい朝

俺が次に目を覚ました時、そこは見知らぬ天井だった。


寝ぼけながらも起き上がり、辺りを見回す。


そこそこの広さの部屋にテーブルと椅子があり、本棚やソファーもある。


実に簡易的な部屋で、俺好みである。


「……そうか、引っ越しをしたのだな」


すると、ドアをノックする音が聞こえる。


「アイク様?」


「……どうした、セレナ」


「い、いらっしゃったのですね……!」


「うん? ここに住んでいるからいるに決まっている」


「そ、そうですよね! えっと……朝食があるので、サーラと一緒に下で待ってます!」


そう言い、部屋の外から足音が遠ざかっていく。


「一体、何だったのだ? 俺を起こしにきたという感じてもなかったし……とりあえず、待たせるわけにはいかないか」


俺は着替えや顔洗いを済ませて階段を下り、一階にある部屋に向かう。

そこはオープンキッチン付きの部屋になっていて、四六人掛けのテーブル席がある。

まさしく、家族用の食事所といったところだ。

中ではすでにセレナが座っていて、食卓に食事が並んでいた。

テーブルの脇には、サーラさんが控えている。


「おはよう、二人共」


「お、おはようございます!」


「おはようございます、アイク様。お嬢様がお腹を空かせているので、早く席についてください」


「ち、違……くはないですけど……ぅぅ」


「わかった。しかし、先に食べていれば良かっただろうに。そもそも、起きるのが早いのだな?」


俺は鍛錬があるので、他の者達よりも早く起きる。

何より、領主の館の時はセレナの方が遅かったはずだ。

そんなことを思いつつ、ひとまずセレナの対面に座る。


「そ、それは……」


「ふふ、お嬢様は緊張してあまり寝れなかったみたいですから。寝付いたものの、すぐに起きてしまったとか」


「き、緊張なんてしてません! ど、どっちかというと嬉しいというか……」


ふむ、何やら言い辛そうにしているな。

だが、良く良く考えたら仕方のないことだ。

未婚の女性が、こんなおっさんと暮らすのだから。


「いや、無理もない。やはり、領主の館に戻るか?」


「へっ? ……嫌です!」


「そうですよ、アイク様。お嬢様ってば、アイク様が起きるのを部屋の外をうろちょろしながら待ってたのですから。一緒に朝食が食べたいとか、本当に部屋にいるのかと思って」


「サーラ!?」


セレナは両手をバタバタさせて、あわあわと慌てている。


「そうか、それは悪かった。そういう時は、起こしてくれて構わない」


「は、はいっ!」


「それでは、頂きましょうか。私が、せっかく作ったのですから」


「ああ、有り難く頂くとしよう」


俺は目の前のコーヒーを口に含み、次にウインナーを食べる。

コーヒーの苦味、そしてウインナーのカリッとした食感と脂が出て、起きたての脳を覚醒させた。


「美味いな」


「ありがとうございます」


「うぅー……」


ふと視線を向けると、セレナが膨れっ面をしていた。


「どうかしたか?」


「い、いえ……私も料理とか覚えた方がいいかな?」


「料理?」


「えっと、その……アイク様は意外と食事をお食べになりますよね? 割と、規則正しくというか……」


「ああ、体が資本だからな。基本的には、朝から食べられるのは助かる。無論、美味ければ尚更だ」


「そ、そうなのですね」


そう言い、何やら一人で頷いている。

すると、サーラさんが俺の肩に触れた。


「アイク様、罪なお方ですね?」


「ん? ……何の話だ?」


「いえいえ、お嬢様も苦労しそうです。それより、お手紙を預かっておりますが……アイク様のご家族からです」


「なに? ……手紙が届くのが早すぎないか?」


俺が出したのは一週間くらい前だが、届くのは最低でも二週間はかかるだろう。

そこから送り返すとなると、一ヶ月近くはかかるはず。


「ええ、そうですね。なので、お返事ではないかと」


「そうか……食べ終わったら、見るとしよう」


俺は独り言を言っているセレナを横目に、食事を進めていく。


しかし気まずいということもなく、セレナを微笑ましく見守る。


そして先に食事を終え、自分の部屋に戻るのだった。






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