第52話 名案?

日が沈み、外が暗くなる頃……引っ越しがひと段落したようだ。


同時にギンのお風呂にも終え、ギンは大層ご機嫌な様子だ。


「ウォン!(気持ちよかったのだ!)」


「そうか、そいつは良かった。ただ、今は暖かいからいいが寒くなったら大変かもな」


「ウォン!(そしたら、魔石に火属性を込めるのだ!)」


「ふむ……ギンのため以外にも、領民のために魔石を集めねばならないか」


後ろには未開の山々があり、魔石が眠る洞窟や鉱山があってもおかしくない。

それに竜種などは、魔石を集める癖もある。


「森の開拓と同時に、山にもいかないといけないか」


「おい、アイクよ。どうやら、飯の支度もできたようだわい」


「では、予定通りにここで食べるとしようか。ここでなら、ギンも一緒に食えるし」


「ウォン!(やったのだ!)」


そしてセレナやサーラさん、ナイル達も合流して庭で簡単なパーティーを開く。

ナイル達は豊穣祭にはほとんど参加できなかったので、丁度いいタイミングでもあった。

ちなみに、メニューはデビルベアーの味噌鍋だ。

柔らく栄養が豊富で有名なので、体を作るにはもってこいの食材だ。

そのでかい鍋を庭の真ん中に置き、それを囲むように椅子やテーブルを用意した。


「さあ、先輩! 挨拶してください!」


「はよせい! ワシは腹が減ったぞ!」


「野次を飛ばすなって! ……えー皆の者、昨日はご苦労だった。皆の協力もあり、少し形は違うが無事に豊穣祭を終えることができたかと思う。そして、俺のために家を用意してくれてありがとう。さて、今回は祭ではないのでのんびり食事を楽しむとしよう……乾杯!」


「「「乾杯!!!」」」


俺はギン寄りかかり、庭で騒ぐ人々を眺める。


「ふむ、皆が楽しめてるようで良かった」


「先輩の一番は俺だから!」


「いえいえ! すぐにナイルさんを追い抜いて、教官の右腕になりますし!」


「……ただ、あの争いはなんとかならんのか」


ナイル達は、ロラン達新兵と飲み交わし、交流を深めている。


「ふむ、お主……実はいけるクチか?」


「ええ、たしなみ程度ですが」


「ふんっ、涼しい顔して何を言っておる」


「ほう、珍しい組み合わせだな」


ガルフは意外にも酒肴であるモルト殿と飲み比べなどをしていた。

俺はギンに寄りかかりつつ、そんな皆の姿を眺める。

すると、セレナとサーラさんがやってくる。

サーラさんの手には、鍋からよそったであろう器がある。


「あ、あの、隣いいですか? できたので、お持ちしました」


「ああ、無論だ。そうか、わざわざありがとう。ギン、セレナもいいか?」


「ウォン(構わんのだ)」


「ギン君、ありがとう。それでは失礼します……ふわふわ」


セレナはギンに寄りかかり、そのもふもふに身体を預ける。

そして、顔がにやけていた。


「だろう?」


「ウォン?(何故主人が自慢気なのだ?)」


「俺の手入れがあってこそだ。なんだ、しなくていいのか?」


「ウォン!?(そんな!?)」


「冗談だよ」


そんな俺たちのやり取りを見て、セレナが微笑む。


「ふふ、なんだか幸せですね……それにしても、本当に良かったのですか? 」


「うん? ……ああ、一緒に暮らす件か。国王陛下の勅命では断るわけにもいくまい」


「そ、そうですよね! 仕方のないことです!」


「お嬢様、まずは食べましょう」


サーラの一言で話を中断し、俺も器を受け取る。

そして、スプーンですくい……湯気のだった肉を口に含む。

すると、濃厚な味噌の味とパンチの効いたベアーの肉が合わさり、全身が幸せになる。


「あぁー……美味いな。肉はほろほろだし、外で食べるのはいい」


「ふふ、キャンプみたいで楽しいですね。それに、とても美味しい……そういえば、冒険者を誘致したいのですか? ガルフさんが、先程言ってましたけど」


「ああ、そうだ。だが、ここに呼べる理由がない。何か彼らにとって魅力のある物を提示できれば良いのだが」


すると、セレナがおずおずと手を挙げる。


「……あの、一つ案があるのですがいいですか?」


「なに? ……もちろんだ、遠慮なく言ってくれ」


「安定した仕事をしたいという冒険者を集めるのはどうでしょうか?」


「……どういう意味だろうか? 冒険者と安定は縁遠い言葉かと思うが」


「えっと……冒険者になる人って色々いると思うんです。仕方なくなった人や、自らなった人……その人達の中には、安定した職につけなくてなった人や、家族を養うためになった人もいるのかなって」


そうか、冒険者とは兵士とは違い自由な職業だ。

それを求めてなった者もいるが、そうじゃない者もいるということか。

本当なら、安定した職に就きたいと言う者もいるかもしれない。


「ふむ……」


「……すみません、うまく説明できなくて」


「いや、何となく言いたいことはわかった。つまり、その人達が安心して来られるようにすれば良いってことか」


「は、はい、そんな感じかなって」


「いや、助かった。それなら、何とかなりそうだ」


「えへへ、お役に立てたならよかったですっ」


そう言い、満面の笑顔を見せる。


月の光の中で銀色の髪も輝き、とても綺麗だった。


……そうか、俺はこの綺麗な女性と一緒に住むのか。


そんなことを、今更ながらに思うのだった。

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