第51話 冒険者を誘致するために

 その後、あれよあれよと話が進んでいく。


 領民達が俺の荷物などを運んでくれたり、セレナは自分の部屋の整頓をしたり。


 ちなみに俺自身の館にある部屋は、万が一の時の為取っておくそうだ。


 時には徹夜だったり、缶詰にされるような忙しい日もあるからと。


「つまり、お主は暇なわけじゃな?」


「暇とかいうな。そもそも、今日は休みだっての。というか、手伝いたいが……ダメと言われてしまった」


 領主様は庭でのんびりするのが仕事だと言われてしまった。

 仕方ないので、庭の椅子に座ってガルフと話していた。

 ついでに軽食を食べ、外の風と気持ちのいい日差しを浴びる。


「ふんっ、お主は放っておくと永遠と働くからのう。ワシは、監視役といったところだ」


「そんなことは……あるか。そう言えば、ギンを知らないか? 念話をしても届かない範囲にいるみたいだが」


「そうじゃ、それがあった。ギンには、お主の夕食用の獲物を頼んである……お主の祝いをするという名目でな」


「名目……ああ、そういうことか」


「うむ、そういうわけじゃ。というわけで、帰ってくる前に仕上げといこう。すでに、この屋敷の庭に運んである。この庭の広さなら、満足に水浴びができるだろう」


「ああ、そうだな」


 ちょうど手持ち無沙汰だったし助かる。

 俺は庭の物置から、ギンへのご褒美を取り出す。

 それは俺が以前から作っていた、ギン専用のお風呂だ。

 木を加工して、四角い大きな箱のような物を用意した。

 そこに井戸から水をすくい、なみなみと満たしていく。


「よいしょっと……ギンが寝そべっても問題ないくらいの大きさはあるよな?」


「うむ、問題あるまい。ワシが見たところ、強度的にも平気じゃ。こうして井戸の近くに置いておけば、入れるのも難しくはあるまい」


「そうだな。そういや、冒険者ギルドを立ち上げたいのだが……どうしたらいいと思う? 俺は冒険者になったことがないから、何が一番欲しいのかわからん。ガルフは鍛冶屋だし、冒険者とも繋がりはあるだろう?」


 冒険者、それは大陸を股にかける組織だ。

 成人さえしていて、尚且つ犯罪者でなければ基本的に誰でもなれる。

 仕事は護衛から討伐、荷運びや雑用と多岐にわたる。

 上から白銀級ミスリル黄金級ゴールド銀級シルバー、鋼級《スチール》、銅級ブロンズ鉄級アイアン石級ストーンと階級がある。

 ミスリルともなれば、国から仕官しないかと誘われるほどだという。


「ふむ、冒険者は良くも悪くも名声や報酬を求める。中にはろくでもない者から、高潔な人物までいるが……この領地にくるような奇特な冒険者はいないかもしれない。例え、特産品を作ろうともな。どちらにしろ、途轍もなく時間がかかることじゃ」


「やっぱり、そうなるよな……森を開拓するって言っても、まずは街道整備とかしないとだし……その街道整備や森の開拓をするために、冒険者が必要……鶏が先か卵が先かみたいな事か」


「難しいところじゃな。条件さえ揃えば、ワシが王都にいる者に掛け合うとしよう」


「ああ、その時は頼む。おっ……丁度帰ってきたか」


 俺の感知内に、ギンが入ってくる。

 そのまま物凄い勢いで、屋敷の庭に飛び込んできた……何かでかい生き物を咥えて。

 しかも身体中は泥だらけだし、あちこちに血が付いている。


「ウォン!(主人よ! どうだ!? この立派な獲物は!)」


「……待て待て、お前それ……デビルベアーじゃないか!」


 デビルベアー、それは俺とギンにとっては因縁の相手だ。

 ギンの母親の仇にして、一度俺の元から去った理由でもある。

 その強さは中々で、先程言った冒険者ランクでいうと銀等級だ。

 それこそ、ゴブリンキングと同等程度の強さだ。

 ちなみにギンが成長すれば、白銀級らしい。


「ウォン!(うむ! 随分と探したが、森の奥にいたのだ! 主人へのお土産だ!)」


「お前……ありがとな」


「ウォン!?(べ、別にそれだけじゃないのだ!? 我もたまには強敵と戦わないのと、どんどん腕が鈍っていくのだ!)」


「それは……俺もそうだな」


 この間の、ゴブリンキングとの戦いで痛感した……

 無論、戦争が終わって気が抜けたことや、鍛錬不足や歳の所為もある。

 だが、何より……命の危険を感じる戦いをしなくなってしまったからだ。

 戦争時の俺なら、ゴブリンキングとはいえ手こずることはなかった。


「ふんっ、ギンの方がよっぽどわかっておるわい。平和を享受するのはいい、お主にはその資格がある。だが、このまま老いて弱くなっていいのか?」


「……いや、もう一度鍛え直す。いざという時に、大事なモノを守れるように」


「よし、ならばワシも手伝うとしよう……その前に、あれを見せてやれ。休息が必要なのは、間違いないのだから」


「ああ、そうだな。ギン、俺もお前にプレゼントがある。あそこにある木の箱を見てくれるか?」


「ウォン?(なんなのだ?)」


 獲物を置いたギンが木の箱に近づき……すぐに、その尻尾がゆらゆら揺れた。

 すると、嬉しそうな顔をして……俺の方に振り向く。


「ウォン!? (我のお風呂か!?)」


「ああ、ご褒美をあげてなかったからな。これで、いつでも風呂に入れるぞ」


「ウォーン!(やったのだ! 早速入るのだ!)」


「はいはい、そう言うと思ったよ」


 俺は家の引っ越しの準備をする人々を見ながら、ギンを丁寧に洗うことにする。


 お陰で時間も潰せたし、ギンもご機嫌になって一石二鳥ってやつだ。


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