第50話 勅命?

待て待て……何を言っているんだ?


……俺とセレナが一緒に住む?


いやいや、あの時の女の子とわかったとはいえ……相手は一国の王女だぞ?


セレナを見ると固まっていたので、仕方ないので俺が話を進める。


「……サーラさん、もう一度言ってくれるか?」


「はい。アイク様には、お嬢様と一緒に暮らして頂きます」


どうやら、聞き間違いではなかったらしい。


「……なぜだ?」


「ここは元々、王族が所有する家だったのです。なので、お嬢様が住むことに問題は無いので」


「なら、俺が他の家に行けばいい。それこそ、領主の館で平気だ」


「いえ、領主の館からは出て行ったほうがいいかと。領主が住んでいたら、住み込みで働く人達が気を使いますから」


「それは……」


確かに、その辺りは気になっていた。

最近は、人を雇って住み込みで働く人も増えた。

違う村から来ている人もいるし、四六時中上司である俺がいては気が休まらない。


「そもそも、お嬢様とは今までも一緒に住んでいたではありませんか」


「いや、それとこれとは話が別だろう。今の話を聞く限り、俺と二人きりなのだろう?」


「いえ、私もいますのでご安心ください」


「いや、そういうことでもなくて……」


「まあ、いいではないか。全く、グダグダと男らしくない」


「そうですよ、先輩。いつもみたいに毅然としてください」


終いには、ナイルとガルフまでもが、そんなことを言ってくる。

なんだ? よくわからないが、かいたことない汗が出てきた。

圧というか、敵軍に囲まれたような気分だ。


「お嬢様……アイク様は嫌だそうですが?」


「……ふえっ!? な、何が……なんか、アイクさんと一緒に住むとか聞こえた気がしました」


「だから、そう言っております。相変わらず、私生活になるとポンコツなのですから」


「そ、そんなことないもん!」


「やれやれです。ほら、アイク様に聞いてください」


そして、セレナが俺を上目遣いで見てくる。


「……え、えっと……アイクさんは嫌ですか?」


「……嫌とかではない」


「そ、そうですか!」


そう言って、パァと明るい表情になる。

卑怯だ……これで断れるわけがあるまい。


「決まりですね。そもそも、これは国王陛下の命令なので」


「……どういう意味だ?」


「面白いとはいえ……コホン……私とて、勝手にこんなことはしません」


「面白いって言ったな?」


「いえいえ、気のせいです。ともかく、お手紙を預かっております」


その手紙を受け取り、セレナと一緒に中身を見る。

そこには、こう書いてある。


「なになに……アイク殿、国王としてではなく、ただの父として娘を預ける。亡き友の息子にして、高潔な人物である其方になら任せられる。しっかりしているように見えるが、世間知らずで抜けている娘だ。其方が側にいて守ってくれると助かる……か」


「お、お父様ったら」


「とりあえずわかったのは、父上とは友だったということか。そして、それが故に俺に娘を預けると……そうなると話は別だ」


セレナは、我が国唯一の王女だ。

普段は忘れそうになるが、守られるべき存在だ。

貴族というのは同時に近衛騎士でもある。

つまり、俺にセレナの護衛につけということだろう。


「ということは、受けてくださるということですね?」


「ああ、無論だ。というか、最初からそう言えば良い。確かに安全面を考えたら、俺が近くにいる方がいい。何より、ギンがいれば最強の番犬となる」


「こっちの方が面白いと思ったので。ねっ、皆さん?」


「ふんっ、お主の慌てる顔など珍しいからのう」


「先輩、目が点になってましたよ」


「いやはや、すみませんでした」


どうやら、それも含めて全員グルだったらしい。


まったく、とんだサプライズだった。


……だが、その気持ちは嬉しいものだな。









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