第49話 サプライズ……色々な意味で

 そんな会話をしながら、噴水広場まで来ると……ガルフが一人で待っていた。


「おう、きたか」


「ガルフ? こんな場所に呼び出してどうした?」


「いや、目的地はここじゃない」


「どういう意味だ? セレナは何か知ってるのか?」


「いえ、私も詳しいことは何もわからないのです。ただ、祭の後とはいえ……人を見かけないのが気になりますね」


 確かに、ここに来るまでも人は見なかった。

 てっきり、祭の次の日だから皆疲れて家にいるのかと思っていたが。


「言われてみればそうだな。おい、ガルフ?」


「ええい! 良いから黙ってついてこんか!」


「……ったく、わかったよ。セレナ、付き合わせてすまない」


「い、いえ、私にも用があるみたいなので」


「そうなのか? ……まあいい」


 仕方ないので、俺達はガルフの後をついていく。

 そして、住宅街を抜けて街の東側に向かっていく。

 そこは家が密集していなく、広い敷地面積を持つ家々が立ち並ぶ。

 と言っても、どれも老朽化が進んでいて見る影もないが。


「ここは、元々は何だったんだ? やたら、豪華そうな家が目立つが」


「ここは、元々は我々……貴族達の別荘地だったみたいです。私も記憶はありませんが、多分きていたと思います」


「そう言われると、俺も来たような気がする……ただ、景色が違いすぎるからわからないだけか」


「人が住まないと、建物はあっという間に朽ちてしまうと言いますし……あれ? あの辺りに人集りがありますね」


 セレナが指差す方には、確かに人集りが出来ていた。

 その近くには、大きな家が建っていた。

 しかし家全体を垂れ幕が覆っており、その姿は外からは見えない。


「ほれ! 早よ行け!」


「わ、わかった! わかったから押すな!」


 俺はガルフに押されるがままに、家の前の門に誘導される。

 すると、集まった人々が拍手を送ってくれた。


「アイク様! この日を待っておりました!」


「おめでとうございます!」


「ささっ! どうぞどうぞ!」


「我々もお手伝いしたんですよ!」


 すると、家の門の中からナイルとモルト殿が出てくる。

 そして、ガルフと三人で並んで……俺の前に立つ。


「おいおい、何が始まるんだ?」


「まあ、見ておれ——皆の者! 垂れ幕を!」


「「「ウォォォォォォ!」」」


 ガルフの声によって、垂れ幕が剥がされて……そこから、綺麗な二階建ての建物が現れた。

 周りの家とは違い、きちんと外壁も綺麗になっている。

 よく見れば、敷地内にある庭も整備されていた。


「これは……」


「アイク殿、こちらは貴方の家となります。ガルフ殿が、アイク殿は放っておくと働く癖があるとか……なので、領主の館とは別に家をご用意いたしました」


「ガルフ……」


 俺がガルフに視線を向けると、照れ臭そうにそっぽを向く。


「ふんっ、暇だったから提案したまでだ」


「そんなこと言って。先輩、この人ってば、『ワシがアイクに恩返しをするんじゃ!』って張り切ってましたよ」


「ば、ばかもん! そんなことは言っとらん!」


 嘘かどうかは、その顔を見れば一目瞭然だ。

 なので茶化すことはせずに、ただ感謝を込めて伝えることにする。


「……ガルフ、ありがとな」


「……うむ、好きに使うがいい。それと、周りの住民達も手伝ってくれた。材木を運んだり、塗装を手伝ったりな」


「なるほど……皆の者、感謝する」


「いえいえ! 我々の感謝の気持ちです!」


「そうですよ! お礼を言うのはこちらの方ですから!」


 俺が領民に頭を下げると、そんな声が返ってきた。

 周りの領民達も、はにかんで笑っている。


「そうか……ただ、こんな立派な家を一人で住むというのは……」


「わかっとる。お主がそういう貧乏性な性格をしていることは……後は、この二人に聞くといい」


 すると、今度はモルト殿が前に出る。


「この館を中心として、徐々に周りの家も綺麗にしていく予定です。そこにはアイク殿が連れてきた部下達や、今後住民が増えるので一度更地にしてから建て替えなどをしていこうかと」


「そうだな、新しい領民もやってくるかもしれない」


「ええ、そうなれるように頑張りましょう。さて……最後に、サーラ殿」


「はい、ここに」


 振り返ると、いつの間にかサーラさんがいた。

 やはり、この女性は只者ではない。

街中とはいえ、俺が気配に気づかないとは。


「サーラ、どこに行ってたのよ?」


「お嬢様、申し訳ありません。少しお手紙を書いておりました。それより、お嬢様……」


「どうしたの? そんな真面目な顔をして……」


「今日から、お嬢様には——この家で、アイク様と一緒に住んでもらいます」


「「……はっ?」」


 そして、俺とセレナの声が重なるのだった。


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