第47話 第1部 エピローグ

 翌日の朝、俺は外に出て身体を動かす。


「……よし、問題ない」


 身体強化を使ったあとは、しっかり身体を解さないといけない。

 ただでさえ、全身が筋肉痛になってしまう。


「こんな時は、ゆっくりでかい風呂でも浸かりたいものだ」


「ア、アイク様……おはようございます」


 振り返ると、木の陰からセレナ様が覗いていた。

 先程から気づいていたが、敢えて放置をしていた。

 あの女の子だとわかった今、王女というより……そっちの印象が強くなった。


「そんなところに隠れてどうした? もう、隠れんぼをするような年でもあるまい」


「も、もう! からかわないでください!」


「すまんすまん」


「む、昔みたいで嬉しいですけど……お兄さんって呼ぶのもありかな? でも、それはそれで他人行儀な感じというか……アイクさんとか?」


 すると、ギンから念話が届く。


『主人よ! 起きてるか!? そもそも無事なのだな!?』

『ギン? ああ、ゴブリンキングなら倒したさ。それでどうした? そっちで何かあったか?』

『流石なのだ! とにかく、起きてるならすぐに出かける準備をするのだ!』

『……わかった、すぐに皆を集める』

『うむ! 我もあと五分ほどで着くだろう!』


 そこで念話が切れ、セレナ様の方を向くと……膨れっ面をしていた。


「……どうした?」


「な、なんでもないですっ! うぅー……いつもタイミングが悪いんだから」


「よくわからないが……何やら、街で問題があったらしい。ギンが、俺を迎えにくるそうだ」


「……それは大変ですね。では、すぐに出かける準備をしないと」


「ああ、俺はナイル達に知らせてくる」


 そして準備を終え、ナイル達が馬を用意する頃……ギンが物凄い勢いで飛びかかってくる!

 俺はどうにか受け止めるが、押し倒されてしまう。

 そして、顔中をペロペロと舐めまわされる。


「ウォン! (主人よ!)」


「うおっ!? お、重たい! ええい! 舐めるなって!」


「ウォン!(心配かけた罰なのだ! ガルフのおっちゃんは平気だって言ってたが……)


「……はいはい、悪かったよ」


 俺はギンの頭を優しく撫でてやる。

 俺が負けるとは思ってなかったとはいえ、街に帰ってこなかったから心配をしたのだろう。

 やれやれ、図体はでかくなっても……まだまだ甘えん坊のままか。


「クーン……(もっと撫でるのだ……)」


「いや、良いけど……何かあって急いでいたのでは?」


「ウォン!?(あっ!? そうだったのだ! 主人よ! 急いで街に戻るのだ!)」


 その顔は何か不味いことが起きたというより、単純に焦っているように見える。

 どうやら、何か事件があったわけではなさそうだ。


「……まあ良い。わかった、俺を街まで連れて行ってくれ」


「ウォン!(セレナも乗るのだ!)」


「セレナさん、あなたも一緒にだそうだ」


「わ、わかりました」


「というわけで、お前たち……」


「先輩はお先にどうぞ。俺たちも、すぐに後を追いますから」


 振り返ると、他の部下達も早く行けという顔をしていた。

 ギンがウルフ達を連れてきているので、ナイル達が村を出て行っても平気だろう。

 なので、俺とセレナ様はギンに跨り……街へと急ぐのだった。





 そして、僅か一時間足らずで街の入り口に到着する。

 祭りの後だからか、正門近くに来ても静寂に包まれていた。


「……静かすぎるな?」


「みなさん、疲れて寝ているのでしょうか?」


「なるほど、それはありえるな。朝まで飲んで騒ぐという話だったが……ただ、外に門番までいないのは感心しないな」


「ふふ、そんなに目くじらを立ててはダメですよ? 人には息抜きが必要ですから」


「……そうだったな。では、中に入るとしよう」


 仕方ないので、自分で門を開けると……そこには大勢の人がいた。

 戸惑う俺に、皆が一斉に声をかけてくる。


「アイク様! お帰りなさいませ!」


「よくぞご無事にお帰りくださいました!」


「我々のために、ゴブリンキングを倒してくださったとか!」


 そんな声が、あちこちから聞こえてくる。

 そんな中、モルト殿が前に出てきた。


「アイク殿……いえ、領主様……お帰りなさいませ」


「モルト殿……これは一体? 祭りの次の日の朝だというのに、この人の集まりはどうしたのだ? もしや、俺を労うために集まってくれたのか?」


「いいえ、違います——豊穣祭は行われておりません」


「なに? ……もしや、俺のせいで中止になったのか?」


 やはり、無理をしてても帰るべきだったか?

 それとも賭けを承知で、すぐにゴブリンキングを仕留めに森に入るべきだったか?

 すると、モルト殿が横に首を振った。


「いいえ、そんなことあるわけがございません。貴方様は、我々に祭りを開催させ……その間、自分はゴブリンキングと戦うと仰ったとか……そんな中、我々だけが祭りなどできましょうか?」


「……そうか、すまない」


 そんな中、楽しめるわけがなかったか。

 緘口令を敷いたとはいえ、人の口に戸は立てられない。

 俺がいないので、何かしらあったと気づくのは当然だ。


「謝る必要はございません。むしろ、我々は感謝しております……良き領主の方に恵まれたと……皆の者! アイク様に感謝の念を込めて、盛大な拍手と雄叫びをお送りいたしましょう!」


「「「ウォォォォォォ!!!」」」


 ビリビリと大気を揺るがすような声が響く。

 それは戦場にいた頃に、よく聞いた声だったが……それとは種類が違う。

 今の俺は、暖かい気持ちに包まれていた。


「……アイク様」


「ああ、どうやら……いっぱい食わされたらしい」


「ふふ、そうみたいですね。祭は行なっていないわけではなくて……今から始まるみたいです」


「……全く」


 領民達は俺と一緒に豊穣祭を行うために、今日まで待ってくれていたのだ。

 そして朝早くから集まり、こうして俺を出迎えてくれた。

 ……戦場で勝利するとは違う、何か別の感情が湧いてくる。


「では、アイク殿……貴方様からも挨拶を。流石に神官様はおりませんが、貴方の一言があればいいのです」


「わかった……皆の者、待たせてすまない! 長々と講釈を垂れるつもりはない! ただ一言……皆の心意気に感謝する! それでは、これより——豊穣祭を開催する! 食べて飲んで歌って騒ぐがいい!」


「「「ウォォォォォォ!!!」」


 そうして、人々が散り散りになり、豊穣祭が開催された。

 ある者は屋台で飲み食い、ある者は歌い、ある者は祭のイベントに参加する。

 人が去った後、ガルフがやってくる。


「ふんっ、無事だったか」


「お前にも心配かけたな。どうだ? 俺達も一杯やるか?」


「馬鹿者、お主は隣にいる女性の相手をせい。ギン、ワシと一緒に飲み食いするぞ」


「ウォン!(うむっ!)」


「では、私も下がるとしましょう。セレナ様のお相手をする、それが貴方の仕事です」


 そうしてギンにモルト殿、ガルフが去っていく。

 この場に残されたのは、俺とセレナ様だけだ。


「え、えっと……私は別に大丈夫ですよ?」


「あぁー……いや、そういうわけにもいかん」


「アイク様?」


俺は彼女に向かって手を差し出す……出会った頃のように。


「……そういえば、昔に約束した。もし次に豊穣祭があったなら、一緒に回ってやると」


「お、覚えていてくれたのですか?」


「いや、今さっき思い出した。というわけで……、俺と一緒に豊穣祭を回るか?」


「っ〜!? は、はいっ! アイクさん!」


 そうして、昔のような笑顔を見せてくれた。


 別に追放されたことに不服はない。


 だが、自分がこれから何をしていいのかはわからなかった。


 でも、その答えは出た。


 俺は領主として、この地を元のような場所に戻してみせよう。


 姫様に、戦友、腐れ縁、そして……ここで出会った人達と共に。








~あとがき~


皆様、本作品を読んでくださり、誠にありがとうございます!


どうにか、コンテスト規約である十万字に到達いたしました。


いやー、コロナになって無理かと思ったのですが、どうにかなりました(*´∀`*)


ひとまず、これにて一部が終了となりますが、引き続き二部を書いていく予定です。


引き続き、よろしくお願いいたします🙇‍♂️

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る