第45話 何かを思い出す
……何かが顔に当たる?
それに、頭の後ろが柔らかい気がする?
意識を取り戻した俺が、ゆっくりと目を開けると……そこには涙を流している女性がいた。
何故か、その泣き顔には既視感を覚える。
「ア、アイク様!?」
「……セレナさんか」
「よ、良かった……本当に……ひぐっ……」
セレナ様は両手で顔を隠し、嗚咽を漏らす。
状況を確認するために首を動かすと、近くにはナイル達がいた。
そして、俺と目が合うと手を振ってくる。
「ほら、平気って言ったじゃないですか。先輩は、殺したところで死ぬような人じゃないですよ」
「おい、人を化け物みたいに言うな」
「いやいや、ゴブリンキングを単独討伐とか聞いたことないですよ。本来なら、軍隊を派遣するような相手ですし」
「確かに、以前はそうしたな。だが、ないものをねだっても仕方あるまい」
妖魔族中級上位ともなれば、軍を派遣するレベルだ。
何故なら、下手をすると国をも滅ぼす存在になりかねん。
今回はまだ、大きな群れでなくて良かったが。
「まあ、今回は俺達を頼っただけ良しとしましょう」
「……それより、セレナさん、いつになったら泣き止んでくれるのだろうか?」
「だって……血だらけで倒れていて……声をかけても反応がなくて……ぐすっ」
その泣き顔を見ていると、よくわからない気持ちになる。
困るというか、敵わないというか……以前にもあったような。
「わ、悪かった……! とにかく、無事だから泣き止んでくれ……!」
「が、かんばりまず……」
「先輩、そんなこと言っちゃダメですよ。セレナ様、先輩が倒れてからずっと回復魔法をかけてくれてたんですから」
確かに傷の痛みがほとんどない。
それに、良く良く考えると膝枕をされているのか。
おそらく、俺が目を覚ますまでずっと……参ったな。
「……感謝する」
「い、いえ……それは私の台詞です。約束通り、守ってくれてありがとうございました」
そう言い、ようやく微笑んでくれた。
どうにも気恥ずかしくなり、俺は体を起こす。
「あっ、まだ傷が……」
「いや、セレナさんのおかげで平気だ。本当にありがとな」
俺は自然とセレナ様の頭を撫でる。
「ふぇ!?」
「おっと、すまない。つい……前にこんなことをしたような気がしてな」
「そ、そ、それって……」
何故か、もじもじするセレナ様……この話題を出すと、いつもこんな感じになるな。
もしかしたら、以前に会ったことがあるのか?
……まずは、こっちの確認をしなければなるまい。
ナイル、今の時間はわかるか?」
「そうですね……実際の戦闘は二時間くらいで、先輩は一時間以上気を失っていたので、昼前といったところかと。おそらく、村人達は無事に街に着いているはずです」
「ああ、ギンがいるからその心配はしていない。ただ、豊穣祭は始まってしまったか」
豊穣祭は、朝の十時から開催だった。
俺の挨拶から始まり、次の日の朝まで飲んで騒ぐという。
仕方ないこととはいえ、領主としての仕事を放棄してしまった。
モルト殿には、迷惑をかけてしまうだろう。
「それは仕方ないですって。ゴブリンキングが出るなんて思ってませんでしたから。村長さんが、モルト殿に伝えてくれますし」
「うむ、それはそうだが……ギンを呼び戻せば、今から行っても夕方には間に合うか? しかし、この血だらけの格好では領民が心配して祭りを興ざめさせてしまうか」
「だ、ダメですよっ! 傷は塞がっても、体力や血の量は回復しないんですから!」
「わ、わかった……諦めるとしよう」
確かにセレナ様のいう通りだ。
魔法とは万能ではないと、自分でも言っていたではないか。
「そうそう。今日のところは、村を借りて休みましょう」
「お前達だけでも、今から行けば……」
「「「怒りますよ?」」」
「……すまんな」
部下達に睨まれ、己の失言に気づいた。
こいつらは、俺を放って楽しめるような奴らではない。
「全くですよ。俺達は、豊穣祭のためにやっているわけじゃないので。貴方と共にいるために。ここにきたのですから」
「わ、私も残りますからっ! 治療役として、怪我人は放っておけません!」
「そうか……感謝する。それでは、一度村に行くとしよう」
俺は立ち上がり、セレナ様に手を差し出す。
俺の手を受け取り、セレナ様も立ち上がろうとしたが……立ち上がれない。
「あ、あれ? 足が痺れて……立てません」
「……ははっ!」
「わ、笑わないでくださいよぉ……」
「いや、すまない。俺をずっと膝枕をしていたからだな。それでは……これでどうだ?」
俺はセレナ様に背を向けてしゃがむ。
「え、えっと?」
「膝枕のお礼に、俺がおぶっていこう。無論、嫌じゃなければの話だが」
「い、嫌じゃないですっ! そ、それでは……失礼しますね」
ふわりと重さを感じたので、そのまま立ち上がる。
その時、何やら懐かしさに襲われた。
……やはり、そういうことなのか?
「アイク様? わ、私、重いですか?」
「いや、羽のように軽いさ。さあ、村へと行くとしよう」
そして、俺達は森を抜けて村へと歩いて行くのだった。
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