第42話 作戦開始

……その手を考えなかったといえば嘘になる。


奴等は特に、若い女性を好む……村人を囮にできないので、セレナ様が囮として一番適してるという事だ。


セレナ様が一人で出ていけば、ほぼ確実にゴブリンキングがおびき寄せられるだろう。


「……却下だ」


「まだ、何も言ってません」


「言わなくてもわかる……自分が囮になるというのだろう?」


「はい、それが確実な方法だと思います。豊穣祭があるに関わらず、早期解決を図るためには……なので、私が囮になります。一刻も早く民の安寧を得るために……それが、王族である私の役目ですから」


その瞳には意志の強さがあり、俺に対して圧がかかる……そして、この方がただの女性ではない事を思い出した。

最近の年相応な雰囲気を見ていて忘れていたが、国を守るために戦争に参加を決めた強い女性でもある事を。

おそらく、これを曲げることは難しい。


「だが、しかし……」


「先輩の負けですね。セレナ様は、国王陛下の反対を押し切って戦争に参加するような女性ですよ?」


「ウォン(そんなに心配なら主人が守ってやればいいだろう)」


「アイク様! お願いします!」


三人からの視線を受けて、俺の意志が揺らぐ。

確かに、その方が確実なのは間違いない。

何より、その覚悟は尊重したい。


「はぁ……わかった、その作戦でいこう。セレナさんの身は、俺が責任を持って守る」


「は、はいっ! ありがとうございます!」


「いや、礼を言うのはこちらの方だ。そうなると、どういう作戦で行くか……」


「私が一人で山道を歩いて行くのはどうでしょうか?」


「ふむ……本能に逆らえず出てくる可能性は高いか。できれば、森の外にお引き寄せたい。皆、意見を貸してくれ」


その場にいる全員が頷き、話し合いを進める。

作戦が決まる頃には日が暮れ初めていたので、決行日は明日にすることになった。

俺達は交代で見張りをしつつ、明日に備えるのだった。






ゴブリン達も襲ってくることはなく、無事に朝を迎える。


ただし、ギン曰く……常に嫌な臭いはしたそうだ。


なので、あちらもずっと監視をしているのだろう。


そんな中、俺は村長だけに話をする。


「昨日言った通り、村長達は街に行ってくれ」


「し、しかし、よろしいのですか?」


「ああ、心配はいらない。ギンがいれば、街までは安全につけるはずだ」


「い、いえ! そういうことではなく……あなた方を置いて、我々が先に逃げるなんて」


ゴブリンキングがいるという話は、村長だけには言っておいた。

村人達には、手薄になった村に襲ってくるはずだから俺達が村に残ると言ってある。

朝一に出れば、豊穣祭にも間に合うだろう。


「気にしなくていい。たとえゴブリンキングだろうと、俺が負けることはない。必ずや、平和な村に戻してみせる。村長は、村人達が楽しく過ごせるように配慮してくれるか?」


「おおっ……感謝いたします。ええ、お任せください」


「よし、決まりだ。それでは、作戦を開始するとしよう」


そうして、先に村人達が街に向けて歩き出す。

その護衛はギンとウルフ達が勤め、順調に進んでいく。

俺達はそれを、村から少し離れた場所で確認をしていた。


「……よし、見えなくなったな」


「森の方も、これといった動きはなさそうですね」


「ああ、流石にギン達がいるから慎重になっているのだろう」


「では……次はセレナ様ですか」


「……しかし、あれで本当に良かったのか」


今回の作戦はセレナ様が考えた。

それを最終的に判断したのは俺だが、やはり不安はある。

彼女は村人の格好をして、街に向かう集団の最後尾につく。

そして忘れ物をしたという程で、一人で村に戻るという作戦だ。

村がほぼ空っぽということ、若い女性が一人でいるので、襲ってくる確率は高い。

これは実際に成功した例もあるので、可能性は高い。


「作戦が成功する心配ですか? それなら平気だと思います。ゴブリンキングに知能があるとはいえ、それはあくまでも自分の命が危険な場合ですから。この状況で我慢できるような知性までは持ち合わせていないかと」


「そこまでの知性があったなら人族など負けていただろう……それよりお前、わかってて言ってるな? 俺が作戦を心配してるなどと言いおって」


俺が睨み付けると、ナイルが含み笑いをする。

やはり、正解だったようだ。


「あれ? 違うんです? それでは、セレナ様の心配ですかね?」


「当たり前だ。彼女は我が国の王女にして……俺の大事な仲間だ」


なんだ? 今……何か言い淀んだ。

俺は何に対して、言葉を迷った?


「なるほどなるほど……それだけですか?」


「何か言いたそうだな……それ以上に何があるという。まさか、お前もあの噂を信じているのではあるまいな?」


「いえいえ、そこまでは……ただ、先輩の隣に立つ女性は俺の認めた方じゃないと嫌ですから。まあ、あの方なら良いかなと」


「おいおい、お前は俺の親か?」


「先輩は不器用な方ですから。それと、ご家族に手紙は送ったんですか?」


「ああ、一昨日に送ったさ……ほら、良いから集中しろ。そろそろ、セレナさんが動く頃だ……彼女には指一本触れさせはせん」


俺は気配を押し殺して、茂みの中に伏せる。


そして、その時が来るのをじっと待つのだった。

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