第41話 作戦会議

ゴブリンキング。


それは下級妖魔であるゴブリンやホブゴブリンを従える存在だ。


ウルフ達にとってのギンのように、ゴブリン達はゴブリンキングに逆らえない。


偵察や囮になったり、キングを守る為に戦う。


戦争時に出会ったことがあるが、あれは中々に厄介な存在だった。


何せ、戦況が悪くなると……ゴブリンキングは手下を囮にして逃げるからだ。


妖魔である前に、同じ部下を預かる者として……嫌悪感を覚えざるを得ない。


俺は到着したナイル達を村の外れに一箇所に集めて、そのゴブリンキングがいる事を伝えた。


不安を煽るのを防ぐため、民達には知らせていない。


「何という……そうなると、前提条件が崩れますね」


「ああ、そうだ。単純に森に入って、妖魔を見つけて討伐すれば良いという話ではない。ゴブリンキングは形勢が不利と思えば、手下を置いて自分だけ逃げ出すだろう」


「はい、そうですね。そして復讐するために、この村を再び襲うでしょう」


「ああ、間違いなくな」


それが一番厄介なところだ。

手下が殺されたというより、自分が負けた事を根に持つ。

実例として逃したゴブリンキングが、更なる大軍を率いて襲ってきたという例もある。

すると、セレナ様が手を挙げる。


「えっと、その前に……どうしてアイク様は、群れのボスがいるって思ったのですか?」


「そう難しい話ではない。知能の低いゴブリンが、怪我をした村人を追って行かなかったのが気になってな。本来なら、そのまま村に襲いかかるはずだ」


「……つまり、それを制止した何者かがいると思ったのですね?」


「ああ、そうだ。そしてギンを通じて、近くの森に住むウルフ系に聞いたところ……ゴブリンや上位種であるホブゴブリンを従える、大きなゴブリンがいたと。なので、当初の予定を変更するために全員が集まってから言うことにした」


当初の予定では人海戦術を使い、ギンなどに妖魔を森の奥から追いかけてもらい、それを俺達が仕留める筈だった。

しかしゴブリンキングは、ギンを見つけた時点で逃げる可能性がある。

妖魔とはいえ、キング種にはそれだけの知性がある。


「先輩、それではどうしますか? 豊穣祭もありますし、時間をかけるのも……無論、人命や討伐が優先なのはわかってますが」


「ああ、民達は楽しみにしているだろう。豊穣祭もそうだが、時間をかけるほどに奴等は増えていく。できれば、明日にはケリをつけたい」


「……それで、その作戦はあるんですか?」


「ああ、ある——明日の朝一にお前達は村人を護衛しつつ、先に街へと行ってくれ。俺が一人で村に残って、奴等をおびき寄せる。そうすれば、流石に俺の方にくるか村の食料などを狙ってくるだろう。もし仮にお前達の方に行ったとしても、ナイル達やギンがいれば安心……なんだ?」


そこで、俺は気づく。

ナイル達がため息をつき、セレナ様が俺を睨んでいることに。

更には横で寝そべっているギンが、呆れた表情を浮かべていた。


「はぁ……先輩のことだから、そんなことだろうと思いましたよ。本当、相変わらずというか何というか」


「ウォン(仕方ないのだ、主人のこれは病気みたいなものなのだ)」


「「「ですよねー」」」


連れてきた部下達とギンが、顔を見合わせて頷く。

言葉は通じないくせに、息がぴったりだ。

すると、セレナ様がぐいっと顔を近づけてくる!

ふわっと髪が舞い、良い香りが鼻腔をくすぐった。


「な、何だろうか?」


「どうして一人で何もかもやろうとするのですか!? アイク様は、いつだってそうです! もっと私達を頼ってくださいっ!」


「い、いや、それとこれとは話が違う。こうした方が、確実な作戦が……」


「違くありません!」


「う、うむ……」


どんどんと顔が近づき、少し動けば口が触れる距離だ。

なので、流石の俺も一歩下がる。


「はい、先輩の負けです。そもそも、豊穣祭に領主が不在とか以ての外かと。それに、先輩が一人でいて、ゴブリンキングが襲ってくる保証は? 場合によっては、ギン殿から逃げる相手ですよね? それは、先輩の強さを図れるほどの知性があるのでは?」


「ぐっ……」


「ウォン(その可能性はあるのだ。おそらく、我が近づいたらすぐに逃げるだろう。主人の場合も、人族とはいえ無闇には襲ってこないと思うのだ)」


「では、一体どうしろというのだ? 誰かしらは囮にならねばなるまい。ここで、奴を逃さないために確実に仕留める必要がある……当然、村人を囮にするわけにもいかん」


「なら——私がやります」


その言葉に振り向くと、セレナ様が真っ直ぐに手を挙げていた。


そして瞳も同様に、俺を真っ直ぐに見つめていた。






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