第39話 村の中にて
屋敷の中に戻った俺は、すぐにセレナ様の部屋を訪ねる。
そして中に入れてもらい、サーラさんとセレナ様に説明をした。
「……というわけで、セレナさんには一緒に来てもらいたい」
「は、はいっ! 私でよければ! ……サーラ、良いかしら?」
「お嬢様の思うがままに。アイク殿、お嬢様を頼みます」
「ああ、俺が責任を持って守ると約束する」
「ええ、お願いいたします」
セレナさんを連れて、屋敷を出ると……念話で呼んでいたギンがやってくる。
丁度狩りに出ていたが、そこまで遠くに行ってなくて良かった。
「ウォン!(待たせたのだ!)」
「いや、問題ない。悪いが、すぐにでも行きたい」
「ウォン!(うむ! 乗るのだ!)」
「感謝する」
俺とセレナさんはギンに乗り、街の門へと向かう。
すると、門の前にナイル達がいた。
今は馬や荷物を用意しているようだ。
「先輩! 俺達もすぐに向かいますのでお先に! 荷物等はお任せください!」
「頼む! 先に行って待っているぞ!」
そのまま止まることなく、門を抜けて目的地へと向かうのだった。
◇
無言で走り続け、一時間くらいで目的の村が見えてくる。
村の前には門兵がいて、武器を構えていた。
俺達が近づくと、二人の門兵が気づく。
「フェンリル!? ということは……領主様!?」
「ああ、そうだ。妖魔が出たと報告があったが……とりあえず、中に入っても良いだろうか? まずは怪我人の元に案内を頼む」
「は、はい! もちろんです!」
「フェンリルさんや、セレナ様もどうぞ!」
「ええ、ありがとう」
「ウォン(うむ)」
そうして俺達は、快く受け入れられる。
これも以前、この村には顔見せに来たおかげだ。
やはり、モルト殿の言う通りやっておいて良かった。
ギンが村の中を歩いていても、住民達は怖がるどころか……。
「おっきなわんちゃん!」
「わぁーい! またきてくれた!」
「ウォン!?(ええい!? 今は遊んでる場合ではないのだ!?)」
子供達は嬉しそうにギンにまとわりつき、そのふわふわの毛に埋もれていく。
しかし、その表情の裏に隠されたモノを俺は感じ取った。
なので子供達に聞かれないように、俺は念話でギンに話しかける。
『ギン、子供達の相手をしてやれ』
『主人!?』
『怪我人や妖魔がいると知り、子供達は怯えているはずだ。その気持ちを和らげてやってくれないか?』
『……そういうことなら仕方ないのだ』
『いつもすまないな』
『べ、別に良いのだ! 遊んでやるのだ!』
俺の言葉に、ギンは意識を切り替えたのか……。
「ウォン!(待つのだ!)」
「わぁー! わんちゃんが怒った!」
「逃げろー!」
今度は子供達が追いかけ回され、ギンと追いかけっこを始める。
それを見た親達も笑顔を見せ、こちらに向かって頭を下げてきた。
俺は軽く頷き、再び歩き始める。
「ふふ、ギン君は子供相手に大活躍ですね?」
「全くだ、あいつは子供受けがいい……俺とは違って」
「そんなことないですよっ。アイク様も、子供に人気ですから」
「……そんな記憶はないのだが?」
小さい頃から体も大きく、同年代から怖がられてきた。
大人になってからも、基本的には変わっていない。
「だって、その女の子がいたじゃありませんか。その、豊穣祭で会ったっていう……」
「それは……あの子くらいか、俺を怖がらずに近づいてきたのは。今思うと、貴重な存在だな。随分とお転婆だったが、立派な女性になっているのやら」
「ど、ど、どうでしょうね!」
「……大丈夫か? 何やら顔が引きつっているが」
「へ、平気ですっ! あっ……もしかして、怪我人がいるのはあそこですかね?」
セレナ様の視線を追うと、家ではなく大きなテントが立っていた。
「はい、あちらに集めております。幸い軽傷で済んでいますが……」
「では、私はあちらに行ってまいります」
「ああ、よろしく頼む」
「はいっ」
元気よく返事をし、セレナ様はテントに向かっていく。
俺は、そのまま村長の家へと向かう。
そしてその近くに来ると、怒号が聞こえてくる。
「ええい! どうするんだ!?」
「これでは豊穣祭に行くなど無理ではないか!」
「しかし皆が楽しみに!」
「だが、ここを出て行く隙を狙ってるのかもしれない!」
その怒号は止まず、俺が部屋の中に入っても気づかなかった。
それくらい、緊迫していたということだろう。
やはり、俺だけ先行して正解だったな。
「すぅ——少し良いだろうか?」
「っ!?」
「だ、誰だ!? ……領主様!」
威圧を込めた声に、 中にいた大人達が振り向く。
俺は全員を見回し、初老の男……村長に向けて話しかける。
「ああ、遅くなってすまない。村長、俺も話に加わって良いだろうか?」
「も、もちろんでございます! ささ! こちらの方へ!」
許可を得た俺は、一番奥にいる村長の隣に座る。
「さて、挨拶は手短に済ませよう。知っての通り、領主のアイクだ。まずは一言だけ言わせてくれ——もう大丈夫だ、妖魔など俺が蹴散らす」
「……おおっ!」
「なんと心強いお言葉!」
俺の言葉に皆が安心して、表情が和らいでいく。
すると、村長が頭を下げてきた。
「アイク様、ありがとうございます……!」
「村長こそ、よく住民達を抑えてくれた。それに、領民を守るのが領主の務めだ」
「……本当に、良き方に来て頂きました。それでは、改めてご説明をいたします」
そして、改めて説明を受けた俺は、頭の中で作戦を練っていくのだった。
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