第39話 村の中にて

屋敷の中に戻った俺は、すぐにセレナ様の部屋を訪ねる。


そして中に入れてもらい、サーラさんとセレナ様に説明をした。


「……というわけで、セレナさんには一緒に来てもらいたい」


「は、はいっ! 私でよければ! ……サーラ、良いかしら?」


「お嬢様の思うがままに。アイク殿、お嬢様を頼みます」


「ああ、俺が責任を持って守ると約束する」


「ええ、お願いいたします」


セレナさんを連れて、屋敷を出ると……念話で呼んでいたギンがやってくる。

丁度狩りに出ていたが、そこまで遠くに行ってなくて良かった。


「ウォン!(待たせたのだ!)」


「いや、問題ない。悪いが、すぐにでも行きたい」


「ウォン!(うむ! 乗るのだ!)」


「感謝する」


俺とセレナさんはギンに乗り、街の門へと向かう。

すると、門の前にナイル達がいた。

今は馬や荷物を用意しているようだ。


「先輩! 俺達もすぐに向かいますのでお先に! 荷物等はお任せください!」


「頼む! 先に行って待っているぞ!」


そのまま止まることなく、門を抜けて目的地へと向かうのだった。




無言で走り続け、一時間くらいで目的の村が見えてくる。


村の前には門兵がいて、武器を構えていた。


俺達が近づくと、二人の門兵が気づく。


「フェンリル!? ということは……領主様!?」


「ああ、そうだ。妖魔が出たと報告があったが……とりあえず、中に入っても良いだろうか? まずは怪我人の元に案内を頼む」


「は、はい! もちろんです!」


「フェンリルさんや、セレナ様もどうぞ!」


「ええ、ありがとう」


「ウォン(うむ)」


そうして俺達は、快く受け入れられる。

これも以前、この村には顔見せに来たおかげだ。

やはり、モルト殿の言う通りやっておいて良かった。

ギンが村の中を歩いていても、住民達は怖がるどころか……。


「おっきなわんちゃん!」


「わぁーい! またきてくれた!」


「ウォン!?(ええい!? 今は遊んでる場合ではないのだ!?)」


子供達は嬉しそうにギンにまとわりつき、そのふわふわの毛に埋もれていく。

しかし、その表情の裏に隠されたモノを俺は感じ取った。

なので子供達に聞かれないように、俺は念話でギンに話しかける。


『ギン、子供達の相手をしてやれ』

『主人!?』

『怪我人や妖魔がいると知り、子供達は怯えているはずだ。その気持ちを和らげてやってくれないか?』

『……そういうことなら仕方ないのだ』

『いつもすまないな』

『べ、別に良いのだ! 遊んでやるのだ!』


俺の言葉に、ギンは意識を切り替えたのか……。


「ウォン!(待つのだ!)」


「わぁー! わんちゃんが怒った!」


「逃げろー!」


今度は子供達が追いかけ回され、ギンと追いかけっこを始める。

それを見た親達も笑顔を見せ、こちらに向かって頭を下げてきた。

俺は軽く頷き、再び歩き始める。


「ふふ、ギン君は子供相手に大活躍ですね?」


「全くだ、あいつは子供受けがいい……俺とは違って」


「そんなことないですよっ。アイク様も、子供に人気ですから」


「……そんな記憶はないのだが?」


小さい頃から体も大きく、同年代から怖がられてきた。

大人になってからも、基本的には変わっていない。


「だって、その女の子がいたじゃありませんか。その、豊穣祭で会ったっていう……」


「それは……あの子くらいか、俺を怖がらずに近づいてきたのは。今思うと、貴重な存在だな。随分とお転婆だったが、立派な女性になっているのやら」


「ど、ど、どうでしょうね!」


「……大丈夫か? 何やら顔が引きつっているが」


「へ、平気ですっ! あっ……もしかして、怪我人がいるのはあそこですかね?」


セレナ様の視線を追うと、家ではなく大きなテントが立っていた。


「はい、あちらに集めております。幸い軽傷で済んでいますが……」


「では、私はあちらに行ってまいります」


「ああ、よろしく頼む」


「はいっ」


元気よく返事をし、セレナ様はテントに向かっていく。

俺は、そのまま村長の家へと向かう。

そしてその近くに来ると、怒号が聞こえてくる。


「ええい! どうするんだ!?」


「これでは豊穣祭に行くなど無理ではないか!」


「しかし皆が楽しみに!」


「だが、ここを出て行く隙を狙ってるのかもしれない!」


その怒号は止まず、俺が部屋の中に入っても気づかなかった。

それくらい、緊迫していたということだろう。

やはり、俺だけ先行して正解だったな。


「すぅ——少し良いだろうか?」


「っ!?」


「だ、誰だ!? ……領主様!」


威圧を込めた声に、 中にいた大人達が振り向く。

俺は全員を見回し、初老の男……村長に向けて話しかける。


「ああ、遅くなってすまない。村長、俺も話に加わって良いだろうか?」


「も、もちろんでございます! ささ! こちらの方へ!」


許可を得た俺は、一番奥にいる村長の隣に座る。


「さて、挨拶は手短に済ませよう。知っての通り、領主のアイクだ。まずは一言だけ言わせてくれ——もう大丈夫だ、妖魔など俺が蹴散らす」


「……おおっ!」


「なんと心強いお言葉!」


俺の言葉に皆が安心して、表情が和らいでいく。

すると、村長が頭を下げてきた。


「アイク様、ありがとうございます……!」


「村長こそ、よく住民達を抑えてくれた。それに、領民を守るのが領主の務めだ」


「……本当に、良き方に来て頂きました。それでは、改めてご説明をいたします」


そして、改めて説明を受けた俺は、頭の中で作戦を練っていくのだった。


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