第38話 急変

それから更に数日後、俺は庭に出てとある物の仕上げに入る。


三週間前くらいから自分で木材を運びこみ、仕事の合間をぬってギンへのプレゼントを作っていた。


ノコギリを使って木を切ったり、その切った木を釘などを打ち付けて繋げたり。


「ふぅ、ここ数日は雨で作業が遅れてしまったが……大分、完成が近づいてきたな。祭りも明後日に迫ってるし、今日のうちに完成させたいところだ」


「おっ、やっとるのか」


振り返ると、ガルフが俺の作業を覗き込んでいた。

どうやら、集中して気づかなかったらしい。

いかんいかん、これはギンにバレてはいけないから気をつけないと。

まあ、ギンが近くにくれば魔力でわかるのでそこまで問題はない。


「ああ、プロの目から見てどうだろうか?」


「ふむ……悪くはない。継ぎ目もしっかり止めてあるし、揺らしてもカタカタ言わない。初めてにしては上出来というやつじゃな」


「そうか、それなら良い」


その言葉にホッと一安心する。

ガルフの悪くないは、そこそこ良いということを知っているからだ。

ちなみに俺が作っているのは、ギン専用のお風呂である。

と言っても、ただの大きな桶といったところだが。


「それで、いつ知らせるのだ?」


「出来れば、完成まで黙っておきたいところだな。やはり、サプライズが良い」


「……ああ、そうじゃな。であれば、早く作ると良い。少なくとも、豊穣祭が終わる頃には」


ガルフが、何やら含みのありそうな言い方をした。


「ん? 何か理由があるのか?」


「……ギンの奴だって、いつまでもご褒美がないとうるさいのではないか?」


「あぁー……それは言えてるな。というか、既に言ってる」


干し肉やブラッシングなどもしているが、頑張ったから何か特別な物が良いとか。

なので、こうして作っているわけだが……確かに急いだ方がいいか。


「どれ、ワシが少し見てやる。何、お主の一人で作りたいという気持ちは否定せん。ワシがするのは、仕上げをする際の監修じゃ。お主とて、何か不備があったら困るじゃろ?」


「……すまん、よろしく頼む」


「うむ。では、さっさと手を動かすんじゃな」


俺一人で作りたいというのは、ただのわがままだ。

ガルフが手伝ってくれた方が、良いものができるに違いないし早く作れる。

だが、ギンへのご褒美に人の手を借りるのは嫌だった。

俺はガルフの指示を受けて、急いで作業を進めるのだった。



そして、作業がひと段落したので休憩にする。


俺は作っているモノを庭にある倉庫に隠し、そのまま庭にあるテーブル席に着く。


「よし、これでほぼ完成と言って良いだろう」


「うむ、そうじゃな。あとは、タイミングか……豊穣祭の後の方が良いのではないか?」


「うん? 早い方が良いとか言ってなかったか?」


「い、いや……豊穣祭が終わった方が、ゆっくり時間も取れるじゃろ」


「それはそうだな。ギンの身体を洗うのも一苦労だし、全部終わってからにするか」


そうして、俺とガルフがのんびり過ごしていると、門の向こうから騒がしい声が聞こえてくる。

俺とガルフは顔を見合わせ、すぐに声のする方に向かう。

すると、そこには息を切らしたナイルの姿があった。


「せ、先輩、大変です!」


「落ち着け、ナイル。いつも言っているだろう? どんな状況だろうと、まずは冷静になれ。深呼吸をしてゆっくり、そして正確に報告をしろ」


「は、はいっ! すーはー……報告いたします。東に行ったところにある山沿いの小さな村の住人が、森で採取や狩りをしていたら妖魔に襲われたようです。ゴブリン程度だったので怪我で済み、生き残った妖魔も人里には降りてないとか。しかし、それも時間の問題かと思われます……如何なさいますか?」


ここ最近、そういった報告は多かったが……いよいよ人里近くまで現れたか。

おそらく、我々が森を開拓してることも無関係ではない。

ギンが頼んでくれたウルフ系魔獣も無限ではないので、どうしても手薄なところは出てくる。


「まずは、報告ご苦労だった。嫌な予感がするので、今回は精鋭だけを連れて行く。ナイルは俺の部下達を集めて、すぐにでも出れるように。俺はセレナさんを連れて、ギンに乗って先に行く。住民の送迎のために、新兵を置いていく。もう、それくらいはできるだろう。そして、いざという時の街の守りはガルフに任せたい……良いだろうか?」


「はっ! すぐに用意してきますっ!」


「任せておけっ!」


「感謝する。豊穣祭は予定通り開催させてみせる……俺に力を貸してくれ」


すると、二人が力強く頷いた。


俺はそれを頼もしく感じつつ、自らも行動を開始するのだった。


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