第34話 作戦

村の様子を見て回った俺は、暇だったので雑用に汗を流していた。


ギンは狩りにいき昼食を、セレナ様とサーラさんは村長から話を聞いている。


つまり……このままだと、俺だけ役立たずということになってしまう。


なので、無理を言って村人達のお願いを叶えることにした。


これならば、作業をしながらなので雑談もしやすいと……セレナ様が言っていた。


「ふんっ……! この水はどこに運べば良い?」


「は、はい! こちらにお願いいたします!」


「ああ、わかった」


若い女性についていき、井戸で汲んだ大量の水を運んでいく。

魔法や魔石が貴重なので、人々は基本的には井戸水を使って生活している。

きちんとした水道や風呂があるのは、この辺境には少ないのだろう。

この辺りの問題も、どうにかしたいものだ。

戦争時の経験から、井戸水は腹を壊すことも多かった。

何より、井戸水に何か仕掛けられたら終わりだ。


「水を運ぶのは重労働だろう?」


「へっ? は、はい、ですが仕方ないのです。年老いた方々にやらせるわけにもいかず、若い男性は数が少ないので出稼ぎに行ってしまうので……戦争が終わったのに、帰ってこない人も多いですから。私も、良い歳なのですが相手が見つからないので困ってます」


「……そうか」


出稼ぎの件は知っていたが、戦争の跡がこんなところにも影響するか。

徴兵により死んでしまった者、あちらでの生活に慣れてしまった者など事情は様々だろう。

ただ結果として、こうして若い女性が一人でいることになる……それは敷いては少子化に拍車がかかる。

ただでさえ戦争と貧困により、人口は減少しているのだから。


「あっ、でも……豊穣祭があれば、そういった出会いもあるかもしれません。だから、その……領主様には感謝いたします。是非、やって頂けると嬉しいです」


「……全力を尽くそう」


「あ、ありがとうございます!」


「いや、こちらこそ良い話を聞けた」


住民から貴重な話を聞けた……これはセレナ様には感謝せねばな。

こうして手伝いをして警戒心を解きつつ、作業をしながら会話すれば良いのか。

戦場では男だらけで、そういうことも気にしたことがなかった。





仕事を終えたら、獲物を持ってきたギンと、話を終えた二人と合流する。

料理はこちらで用意するので、俺達は休んでくださいと言われた。

なのでとある空き家を拝借し、お互いの話をすり合わせる。

えっ? ギンはどうしたのかって? ……子供達の相手をさせているさ。


「まずはセレナさんから頼む」


「えっとですね……生活に関して不安に思ってることは大きく二つでした。一つ目は人口の低下について、二つ目は食糧難についてです」


「やはり、その二つは急務か……豊穣祭については?」


「それに関しても二つでした。一つは道中の安全性、もう一つは行きたい者が多数いるので村を空けるのが心配だと」


「そうか、安全性については言われると思っていたが……村を空けるのが心配か」


「戦争が終わったことで仕事を無くした傭兵が盗賊になったり、逃亡兵が盗賊になったりしますから。もちろん、魔獣や妖魔の襲撃も気をつけなくてはいけないですし」


今の兵力では、領地全域をカバーすることは不可能だ。

どうしたって、足りない部分が出てくる。

何より兵士とて民の一人だ、豊穣祭には参加させてあげたい。

……まてよ? あの方法を使えば、どうにかなるのではないか?

これは、後でギンと相談せねばなるまい。


「わかった。食糧難については、地道にやっていくしかあるまい。少しずつ、領地全域に行き届くように努力する。道中の安全に関しては、帰ってからモルト殿と話し合う。村を空けることに関しては俺に案があるから任せて欲しい」


「食糧に関しては、今すぐにってわけにはいきませんよね。ではその他の二つは、帰ってから話しましょう。それで、人口の低下はどうしましょうか? 私たちにできることってありますか……あっ、いや、方法がないわけじゃないですね!」


「うん? 何かそっちで良い案があるのだろうか? もしあるなら、遠慮なく言って欲しい」


「その、えっと……わ、私達が結婚をするとか!」


「……それは、俺とセレナさんがということか?」


「そ、そ、そういうことじゃなくて! いえ、それならそれで……」


すると、サーラさんがセレナ様の肩をポンポンと叩く。


「お嬢様、落ち着いてください。それも手ではありますが、お嬢様が言いたいのはそういうことではありませんよね? 要は、連れてきた兵士達や使用人など……独身の方々を集めて、お見合いみたいのを豊穣祭の催し物でやったら良いのかと」


「そういうことか。いや、それについては俺も考えていた。若い女性から男性との出会いがないと言われたのだが、俺の部下は全員独身だし、新兵達も独身で相手はいないと言っていた」


「それ、良いですねっ! わ、私が言いたかったことはそういうことですから!」


「ああ、わかっているさ。変な勘違いをしてすまん」


「うぅー……失敗しちゃった?」


「いえいえ、まだ早いですよ。慌てなくても大丈夫です……こちらにも考えがありますから」


その後、用意された昼食を食べながら話を詰めていく。


村にいる女性に確かめると、是非とも言われた。


これから向かう村々にも確認をし、街に帰ったら案を練るとしよう。

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