第31話 皆を頼る

 作業を終えた俺は、一度領主の館に戻る。


 無論、豊穣祭のことを聞くためだ。


 部屋に入ると、書類仕事をしているモルト殿がいた。


「モルト殿」


「これはアイク様。家の修理や設備の点検などは終わったのでしょうか?」


「ああ、ひとまずはな。それより、住人から豊穣祭をやらないのかという話を聞いた。それについて、詳しく教えてくれないか?」


 あの後、作業を終え話はなんとなく聞いた。

 何やら、十五年くらい前には毎年やっていた行事だったとか。

 王族の方が来て、自然の恵みに感謝や平和を願ってお祝いをしていたらしい。

 良く良く考えてみると、俺が来た時も祭りがあったのは朧気に覚えている。


「……すみませんでした、私としたことが失念しておりました。もう、十五年以上は開催していないので」


「その話は聞いたし、ある程度の内容もわかっている。問題はできるかということ、そのために俺が何をすれば良いのかということだ」


「むしろ、こちらからお願いしたいところですな。そのためには、領主であるアイク様のお力が必要になります。神事でもあるので神官も呼ばないといけませんし、王族の方がいますし……そういえば民には内緒でしたな」


「王族がいないと開いてはいけないのだろうか?」


「いいえ、そういう決まりはないですな。たまたま、王族の方が来られる時に開かれていたので。皆へ挨拶や祭りの手伝いなどありますが、その役目は領主であるアイク様がやれば問題ないかと」


「わかった、俺にできることがあるならやろう」


 その後、詳しい話を聞く。

 元々は古くからある地元の神事で、それをすることで一年を健やかに生きるという願いを込める。

 時代と共にその認識は薄れ、神事でありつつも大きなお祭りといった認識になったらしい。

 そして地元の民は、それを毎年楽しみにしていたということだ。

 ただお金もかかるし王族の方が来なくなってしまったこと、戦争が起きたことで徐々にやらなくなってしまったとか。


「というわけなのです」


「ふむ、何となく理解した。つまり堅苦しい神事が目玉ではなく、それを口実に大きな祭りを開催するということだな?」


「言い方はアレですが、そういうことになるかと。ただし、久々の開催なのでしっかりやった方が良い気はします」


「神官を呼んだり、村々に周知させたりとかだろうか?」


「はい。神官手配は私がしますので、アイク様は村々に知らせて頂けると助かります。領主の顔を知らない方々もいますし、先に挨拶をしておくと良いでしょう」


「そうだな。いざ来た時に、顔を知っていた方がいいか……モルト殿、説明に感謝する。それでは、その祭りの準備も進めるとしよう。戦争も終わったし、そういう平和な行事はやった方がいい」


 開催時期は一ヶ月ほど先なので、俺とモルト殿は急いで話をまとめるのだった。


 ◇


 翌日から、俺は村を回るための準備に追われていた。


 開催まで1ヶ月しかないので、急いで村々に知らせないといけない。


 おそらく、全てを回るには数日は要するはず。


 しかしまだ家の修理も途中だし、狩りにも行かねばならない。


「午前中は狩りに行って、その後に家の修理か? いや、そうすると終わる頃には日が暮れる……そもそも、今日で終わる仕事の量じゃない。しかし、遠方から来る者もいるので早く知らせないといけない」


「相変わらずだのう」


「いやはや、ほんとですよ。相変わらず、困った先輩だなぁ」


「ウォン(全くだ)」


「お前達、いつからいた?」


 振り返ると、三人が俺を見てため息をついていた。


「お主が庭で素振りをしながらブツブツ言っている時からじゃ」


「気配にも気づかないなんて、先輩にしては珍しいですね。それほど、考え込んでたってことですか」


「ウォン(主人は、無駄なことばかり考えるのだ)」


「おいおい、俺は大事な話をだな……」


 すると、ガルフが自分の胸を叩く。


「おい、ワシらはそんなに頼りにならんか?」


「い、いや、そういうわけでは……」


「セレナ様にも言われたじゃろ、もっと甘えろと。 家の修理はワシの専門分野じゃ、任せておけ」


「確かに、そう言われたが……」


 すると、今度はナイルが胸を叩く。


「先輩、狩りに関しては俺に任せてくださいよ。きちんと、新兵達を連れて無事に生還させますから。安心してください、俺は先輩と違って無茶はしないので」


「生意気な……だが、確かにお前の生還の高さと見極めは買っている」


「でしょ? なので、先輩は自分の仕事をしてください」


「……わかった。有り難く、そうさせてもらおう」


 最後にギンが吠える。


「ウォン!(我に任せれば領地を巡るなどあっという間なのだ!)」


「ああ、お前の足に頼らせてもらおう。いや……お前達を頼ってもいいだろうか?」


「ウォン!(任せるのだ!)」


「当たり前です!」


「愚問じゃな」


「……恩にきる」


 そうだ、セレナ様のいう通りだ。


 ここには俺の意見を聞いてくれたり、俺のことを考えてくれる者達がいる。


 あまりに頼らないと、自分達は必要ないのかと思ってしまうだろう。


 ……そんなことに、今更気づかされるとはな。




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