第30話 住民のお願い

それから数日後、俺は木材を担いで家の補修作業を行なっていた。


はっきり言って、種類仕事などよりはるかにやりやすい。


何より、こういった作業は鍛錬にもなる。


普段使わない体の筋肉を使ったりするゆえに。


「よっと……」


「先輩、よくそんなに木材を持てますね。いっぺんに二、三本も……」


「これくらい大したことはない。ナイルとて、鍛えれば持てるさ」


「いやいや、無理ですって」


俺はそこで改めてナイルの全身を眺める。

俺と違い、全体的に細っこい。

サラサラの金髪に爽やかな容姿で……羨ましい。

だが、戦いには不向きだろう。


「前も言ったが、お前はもっと食った方がいい」


「いや、わかってはいるんですよ。どんな状況だろうと、食えない奴から死んでいくって教えでしたし」


「ああ、生きる糧になるからな。とりあえず、腰を使って木を持ち上げろ。自分を一本の芯がある太い棒だと思え。それが、体幹を鍛える鍛錬になる」


「先輩は、そうやって常に鍛錬してきたんですよね……よし、やりますか!」


「……随分と嬉しそうだな?」


「そりゃそうですよ。 こうして、また先輩の元で働けるんですから」


その真っ直ぐな言葉に、思わず照れてしまう。

無論、こうして慕ってくれるのは嬉しいが。


「そ、そうか」


「それに、後から来た奴に一番の後輩の座は譲れませんし」


「なんの話だ?」


すると、ロランが駆け寄ってくる。

狩りの後もへこたれることなく、真っ先に続けますと志願した若者だ。

その後の鍛錬も頑張っていて、期待の新人といったところだ。

俺に慣れてきたのか、こうして後を追ってきたりする。


「教官! 俺も手伝いますよ!」


「そうか、助かる。だが、無理はするなよ」


「はいっ! 教官の教えですから!」


ちなみに、新人達の俺の呼び名は教官になった。

アイク様とか領主様とかよりは、よっぽど良いから許可をした。

……鬼が付いてないだけマシである。


「くっ……! 今までは、俺が一番の後輩だったのに……!」


「うん? どうした?」


「俺は先輩の一番の後輩ですよね!?」


「……一番かわからないが、頼りになる男だと思っている」


すると、今度はロランが前に出てくる。


「教官! 俺はどうですか!?」


「うむ……まだ頼りないが、先が楽しみな男だと思っている」


「やったぁ! 俺、頑張りますっ!」


「お、俺の立ち位置が……君、ロランとか言ったね?」


「はい、そうです」


「ちょっと、あっちで話そうか? 男同士の大事な話があるんだ」


「ええ、良いですよ。では、行きましょう」


そして俺を置いて、二人が木材を担いで去っていく。

入れ替わりで、木材を取りに来たガルフがやってくる。


「一体、なんなんだ?」


「やれやれ、相変わらず男にモテる奴だわい」


「……今のはモテてたのか?」


「相変わらず鈍感な奴じゃな。ほれ、ワシらも行くぞ。住人が増えた分、家の整備をせんといかん」


「ああ、そうだな。だが、元から住んでいる住民達の家の補修が先だ」


「もちろんじゃ」


二人が行った方向とは反対に向かい、住民達の家を補修していく。

木を交換したり、釘で打ち込んだり。

今はまだ暖かいから良いが、寒くなってからでは遅い。

そんな中、作業をしていると住民達が集まってくる。


「りょ、領主様、わざわざすみません! 動けない我々の代わりにやって頂いて……」


「いや、気にしないで良い。こういった作業には慣れている。それより、何か生活に不具合はないか?」


「不具合……」


「アンタ、あれを聞いてみてよ」


「馬鹿言うなよ。これ以上、領主様に負担かけたら悪いだろ」


その老夫婦だけでなく、あちこちからヒソヒソ声が聞こえてくる。

何やら、言いにくいことらしい。

……やはり、俺は怖がられているのか。

だとしたら、改善をしなくてはいけない。


「何かあるなら遠慮なく言ってくれ。俺にできることなら、領主として全力で応えるつもりだ」


「おおっ、なんと心強いお言葉……それでは、一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」


「ああ、別に一つでなくてもいい。答えられるものなら答えよう」


「あの……今年は豊穣祭はやるのでしょうか?」


その聞き慣れない言葉に、俺の思考が停止する。


豊穣祭……それは一体なんだと。

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