第23話 少年に教えられる

 それから数日後、予定通りに武具が揃う。


 部下や新兵達に装備を装着させ、庭に集合させる。


「皆、よくぞ鍛錬に耐えた。ひとまず、及第点は与えられると判断したので、これより実戦演習に入る。結局、実戦に勝る鍛錬はないからな」


「先輩、質問をしても良いですか?」


「ああ、構わん」


「演習には、全員で向かうのですか?」


「良い質問だ。いや、これは文字通り実戦を想定している。故に班を二つに分けて、片方は外に赴き、片方は守りとして残す。後日、交代で同じことを行う」


 戦いにおいて大事なのは、守りと攻めの配分だ。

 戦いに勝ったところで、守るべき場所が取られていたら意味がない。

 何より、民の安全が第一だ。


「なるほど、ありがとうございました」


「そういうわけで、熟練二人と新人六人で分ける。それを、俺が率いる形だ」


「アイク様、私はどうしたら良いでしょうか?」


「セレナさんには、救護役として付いてきてもらう。ギン、お前には大事な役目があるのでついてきてもらう。ガルフは、万が一に備えてここに残ってくれ」


「ウォン!(任せるのだ!)」


「うむ、任せるが良い」


 その後、編成を済ませて半分を残して館を出ていく。

 今回の目的は実戦もそうだが、もう一つの目的がある。

 通りを歩いていると、人々が集まっていて……俺達に熱い視線を注いでいた。


「領主様! お気をつけて!」


「楽しみにしてますっ!」


「ああ、全力を尽くそう」


 今日の演習は事前に通達してある。

 今日の目的は実戦と狩りだ。

 俺に届く嘆願書に、子供に栄養のある物を食べさせたいという意見も多かった。

 確かに肉が足りてないのか、住民達は痩せている者が多い。

 なので、まずは定期的に肉を提供できるようにせねばならない。


「おじちゃん! 僕も連れてって!」


「こ、こら! 領主様でしょ! うちの子が申し訳ありません!」


 俺の前に親子が立ち塞がる。

 すると、セレナ様が俺に微笑む。


「アイク様、ここは笑顔で頑張ってくださいね」


「あ、ああ……善処しよう」


 おじちゃん……いや、間違ってないしな。

 俺はなるべく怖がらせないように、子供の前で膝をついて目線を合わせる。

 おそらく、十二歳前後だろう。


「坊主、どうした? 君の年齢では、まだ戦いには連れていけない。まだ、身体と精神が出来上がっていないからだ」


「僕だって戦えるんだ!」


「もうやめなさ……領主様?」


 俺は母親の言葉を手で遮り、子供と目を合わせる。

 その目は真剣で、遊びで言ってるわけではないとわかったから。


「どうして戦いたいんだ?」


「その、お腹いっぱい食べたい」


「そうか……お腹空いてるか?」


「うんっ……でも、僕は良いんだ。でも、弟や妹はまだ小さいんだ。だから、お腹いっぱい食べさせてあげたい。その、うちにはお父さんがいないから僕がやらないと」


 それは、とても懐かしい言葉だった。

 俺が戦争に行くのも、家族に楽をさせたいのと、体の弱い兄のために参加したのだから。

 あの時の俺は、家族と喧嘩をしたくらいに本気だった。

 ……そういえば、家族とは十年以上会ってないのか。

 きっと、俺に対して怒っているだろうな。


「良いお兄ちゃんだ。そのために戦いたいと……だが、だめだ」


「どうして!?」


「君が家族のためを思うように、家族も君の事を思っているからだ。君を心配して家族は気が気ではないだろう。自分達のせいで、君に何かあったら悲しむと思う」


「それは……」


 我ながらよく言えたものだ。

 当時の俺は、そんなことも考えることなく無理矢理戦争に参加した。

 ほとんど、家出に近い形で……きっと、俺を心配したに違いない。

 今更、この少年に教えられるとは。


「だから、俺が領主として約束しよう。君の弟や妹、その他の住民の為に獲物をとってくると」


「ほんと?」


「ああ、男と男の約束だ。だから君は、ここにいて家族を守ってやると良い……出来るか?」


「うんっ! 頑張る!」


「よし、良い返事だ」


「えへへ、それで領主様?みたいな強い男になる!」


「その気持ちがあれば、俺なんかより強くなれるさ」


 俺は少年の頭を撫でる。


 そして決意した……きちんと家族に手紙を書こうと。


 今の俺、当時の俺が思った事をありのままに伝えようと。

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