第15話 モルト殿と話をする
……何を書けば良いのだろう?
手紙を書くと決めたは良いものの、翌日になっても何を書いて良いのかわからない。
謝る? お礼の言葉? ……言いたいことはたくさんある。
「……もしかしたら、罪悪感で筆が進まないのかもしれない」
「隙あり!」
「そんなものはない」
「うわぁ!?」
後ろからきたロランの手を掴み、痒く背負い投げをする。
「せっかく後ろを取ったなら声を出すな」
「す、すみません」
「だが、一昨日よりは動きがいい。さあ、お前達もかかってこい」
そして次々と迫る若者達を軽く打ちのめしていく。
一昨日痛めつけた後、一日考える時間を与えた。
しかし、今日になって人数が減ることはなかった。
中々に根性がありそうで一安心である。
「う、上の空なのに隙がない」
「ど、どうなってんだ?」
「後ろに目でも付いてんのかよ」
「俺は自分の間合いに入ったモノを感覚的に感じている。慣れれば、飛んでくる矢を掴むことも可能だ」
「「「嘘だっ!!!」」」
彼らが一瞬起き上がり、一斉に文句を言っている。
息がぴったりで、戦いでも発揮してほしいものだ。
「……嘘ではないのだが」
「ウォン(主人はおかしいのだ。普通の兵士は、矢が飛んできたら防具や盾で防ぐのだ)」
「おかしいとかいうな。鍛えれば、誰でも出来るようになる……はず。実際に、部下の何人かは近いことが出来ていたぞ」
「ウォン(やれやれ、主人についていくのは大変だ。ナイルとかは、お主の役に立つために必死になって頑張ったに過ぎない)」
「そうか……俺の理想を押し付けるのは違うか。ギン、ありがとな、気をつけるよ」
いつの間にか、過去の部下を基準にしてしまった。
戦争をしていた彼らと、この若者達は違う。
この若者達のベースに合わせて、じっくり鍛えるとしよう。
……それはともかく、手紙はどうすればいいだろうか。
◇
そんな日々の中、ガルフは武具を作ったり、家の補修作業を行っていた。
ギンは一人で狩りに行き食材を獲ってきたり、子供達の相手をしていた。
俺のやることといえば雑務や稽古、街の人々の報告や願いを確認することだった。
「あんまり、軍時代とやってることかわらんな。ほとんど、外にいることが多いし。モルト殿には、色々と面倒をかけてしまっているな」
「いえいえ、物凄く助かっております。領主であるアイク殿が見回ったり、交流をすることが安心につながるのですから。顔のわからない統治者は、やはり怖いですからね」
「そういうものか」
そういえば、セレナ様も見回りを良くしていたな。
そのおかげか味方の士気も高かったし、彼女のことを身近に感じてる者も多かった。
本人は意識してるかわからないが、そういった利点はありそうだ。
あっ……手紙はどうする? 良く良く考えると、女性に手紙など書いたことがない。
「話は変わるのだが……その、女性に手紙を書くにはどうしたらいい?」
「女性ですか? もしや、街の中に良い人でもいましたか?」
「いや、そういうわけじゃない……王都に世話になった女性がいるのだが、何を書いたら良いのかわからん」
「なるほど。ただ、私は独身なのでお力になれるかどうか……近況報告や、相手を気遣う文章を書けば良いのではと。すると、こちらは貴女の身を案じてますよという意思表示ができるかと。それに、それに対しての返事が書きやすいですし」
「ふむ、そういうのを書けば良いのか」
それならば、俺でもどうにか書けそうだ。
俺の知る貴族とかは詩を書いたり、訳のわからん言い回しをしていた。
どうやら、そういうのはいらないらしい。
「そういえばモルト殿は何故独身なんだ? 見た目もいいし、優秀な人材だと思うが。そもそも、それだけ優秀ならば王都で士官とかは考えなかったのか?」
「私ですか? ……そうですね、そういうお相手がいなかったと言ったら嘘になりますな。ただ、タイミングと巡り合わせが良くなかったのでしょう。その機会を逃してるうちに、気がつけばこの歳になっておりました」
「タイミングと巡り合わせか……」
「はい、そうですな。もし意中の方がいるなら、逃すと次の機会はないかと存じます。それと、士官に関しては……確かにありましたが、亡き先王陛下にこの地を任されましたから」
「ああ、肝に命じておく。そうか、先王陛下の意思を守って……では、俺は国王陛下の意思を守るとしよう。モルト殿、改めてよろしく頼む」
「ええ、こちらこそよろしくお願いいたします」
少しだけ、モルト殿のことを知れた気がする。
戦場でもそうだが、互いに知らないと連携も取れない。
これからも、折を見ては何か話題を提供してみるか。
……とりあえず、今日中に手紙だけは書かなくては。
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