第13話 ガルフの仕事
薪を割り終える頃には夕方になり、ガルフを伴って屋敷へと戻る。
そして、モルト殿にガルフを簡単に紹介する。
俺の友で、今日からアトラス領地のために働いてくれると。
「モルト殿、悪いがこいつの部屋を用意してくれるか?」
「ええ、もちろんでございます。ガルフ殿、よろしくお願いいたします」
「うむ、よろしく頼む。無骨者ゆえ、礼儀作法は勘弁してくれると助かる。その代わり、ワシには畏まった言葉遣いはいらん」
「いえいえ、構いませんよ。わかりました、そうしましょう。さあ、こちらの部屋にどうぞ」
二人が屋敷の中に入り、俺も中に入ろうとすると……ふらふらとギンが門からやってくる。
「ウォン……(ひどい目にあったのだ……)」
「おっ、帰ってきたか。おいおい、泥だらけじゃないか」
「ウォン!(主人よ! 酷いではないか! こんなの、あのエルフにもみくちゃにされて以来なのだ!)」
「あぁー、そういやあいつはお前が好きだったもんなぁ」
戦友であるエルフは、ギンの小さい頃を知っている。
故に、ギンは頭が上がらない。
いつも、もみくちゃにされてたっけ。
「ウォン(ま、まさか、ドワーに続いてこないだろうな?)」
「流石に来ないだろ。というか、あいつは何処で何をしているのかわからん。風のまま気の向くままに生きるような奴だったし」
「ウォン(う、うむ、そうだったな)」
「それに俺達とは時間感覚が違う。また会いましょうと言われたけど、果たして俺が生きてるうちに会えるか……エルフは五百年を生きるしな」
エルフは本来なら人前に出ることはない。
その美貌と不老長寿から、人族に狙われてきた。
誰にも捕まらずに、元気でやってるといいが……。
その後、夕飯を済ませたらガルフとモルト殿と話し合いをする。
「ガルフ、改めて歓迎するよ」
「うむ、こちらこそ世話になる」
「えっと、まずはお二人の関係を聞いてもよろしいですかな?」
「「腐れ縁だ」」
俺とガルフが同時に言い、お互いに顔を見合わせてニヤッと笑う。
俺達の関係は友であるが、別段仲が良いという訳ではない。
お互いに尊重しあって、無理に付き合うことはしない。
ある意味で、一番気を使わない存在でもある。
「なるほど、アイク殿と似たタイプですか」
「それを言われるのは心外じゃな。此奴みたいな不器用な男と一緒にせんでくれ」
「おいおい、それはこっちのセリフだっての。言葉足らずでよく揉めてたろうに」
「上司に噛み付いて前線送りにされてた奴が何を言うか。まったく、もっと上手く立ち回らんか」
「うっ……それについてきてくれた奴は誰だったかな?」
「……ふんっ、物好きな男もいたものよ」
怪我をして戦場を去るまで、俺と一緒に戦場に出ていた。
あの時は俺も未熟で、ガルフには良く助けられていた。
「ほほ、良い関係ですな。さて、本題に入りましょう。ガルフ殿は、どういったお仕事をしてくれるのですか?」
「ワシは鍛治職人じゃが、土魔法を駆使して建築関係の仕事も出来る。アイクがお主のことを信頼しているみたいじゃし、ワシも出来る限り従おう」
「感謝いたします。そうなると、やはり武器が先でしょう。そして開拓をし、木や鉱石などを集めて街を整備するのが良いかと」
「了解じゃ、まずは鍛治の設備を整えるとしよう。そうだと思い、一式は持ってきた」
「おおっ、それはありがたいですな!」
正直言って、ガルフが来てくれてめちゃくちゃ助かる。
これで武器防具は作れるし、街の家々も整備してもらえる。
あとは手伝える人材を確保して、ガルフに指揮を執ってもらえばいい。
「そうなると、俺の仕事は……鍛錬か」
「まあ、そうなるじゃろ。ワシが武具を作り、お主が扱えるように鍛える……出会った頃と、やることは同じだ」
「よし、わかりやすくていい」
「くく、久々に腕がなるわい」
当時、新人の兵士には武具を与えて俺がしごいていた。
彼らが生き残れるようにしたが、きっと俺に良い印象はないだろうな。
……それでも、僅かでも生き残ってくれたからいいが。
「モルト殿、募集をかけてくれ。無理強いはせずに、有志の方々でいいので」
「いいのですか? 領主権限を使えば人は沢山集まるかと思いますよ? 無論、お優しいのはいいことですが……」
「いや、優しさで言ってるわけではない。無理に来てもモノにはならない……ただ、死亡率を上げることになる」
戦場において一番困るのは、やる気のない味方だったりする。
逆に一つの意思を持った集団は、時に力以上の戦果を発揮するのだ。
「これは失礼しました。その辺りについてはアイク殿の方が詳しいですな」
「うむ、此奴に鍛えられた兵士は強者揃いじゃった。そういえば、あいつらはどうしてる?」
「おそらく、王都で何かしらの役職についているだろう。皆、優秀で立派な人が多かった。俺を反面教師にして、上官と揉めてないしな」
「それは単に、お主が我慢してるから皆も我慢していただけで……いや、それは今はいい。とにかく、ワシの仕事はわかった。明日から、早速動くとしよう——というわけで飲もうぞ!」
「ああ、たまにはいいな」
そして俺とガルフは酒を飲み交わし、昔話に花を咲かせる。
もう直接言うことはないが……来てくれてありがとうという感謝を込めて。
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