第12話 ドワーフのガルフ
……流石に腰が痛いな。
まだまだ現役だと思ったが、やはり二十代のようにはいかん。
戦争を十年以上続けていたとはいえ、少しサボっただけでこれだ。
……やはり、継続は力なりか。
「だが、これを続けていればマシになるだろう。引き続き、これを日課にするか」
「お、おおっ! なんという数だ!」
「我々が一日がかりで作る薪の量をお一人で……」
「これが英雄の力というやつか!」
いつの間にか、周りにはギャラリーの方々がいた。
というか、英雄の力とかこそばゆいのだが。
やってることは、ただの薪割りだし。
「いや、これくらいなら問題ない」
「ふんっ、ワシから見ればまたまたじゃ」
「へっ? この声は……」
懐かしい声に振り返ると、入り口に斧を背負った男がいた。
ずんぐりむっくりした体に逞しい髭、身長は160前後くらい……まさしく、ドワーフの特徴だ。
それは俺の戦友である、ドワーフ族のガルフに間違いなかった。
顔が怒りに染まったガルフが、つかつかと俺に近づいてくる。
「全く、こんな辺境にいおって。ここまで来るのが大変だったわい」
「おいおい、どうしてお前がここに?」
「それはこっちのセリフじゃ。ワシに黙って出て行きおって——はっ!」
「ぐはっ!?」
腹に拳にをくらい、思わず膝をつく。
避けようと思えば避けられたが……甘んじて受け入れる。
会えば殴られる覚悟はしてたから。
「ふんっ、一発で我慢してやるわい。どうせ、お主のことだ。ワシに迷惑をかけたくないとか無駄なことを考えていたのだろう?」
「無駄とはなんだ。お前は今では、王都に弟子を持つ鍛治職人だろうが。何も言わないのは悪かったが……こんなところに来てどうする?」
「ふんっ、彼奴らならワシが居なくても問題ない。元々、お前達に武器を送るために鍛えてきたのだ。もう、その役目も終わった……あとは、恩人のために働きたいと思って何が悪い」
「ガルフ……お前、あの時のことを?」
ガルフは元々、北の帝国から逃げてきたドワーフのまとめ役だった。
追っ手に追われているところを、十年前に俺の部隊が救出した過去がある。
だが、ドワーフ族のおかげで我が国は発展したし、俺達も十分に助けられた。
ゆえに、もう貸し借りはないと思っていた。
「当たり前じゃ! あんなのでは、我が同胞を救ってくれた礼がまだまだ足りん! だが……もし、ワシが必要ないというなら帰るがどうする?」
「……友よ、力を貸してくれるか? おそらく、お前の力が必要になる」
「愚問じゃな、ワシはそのために来たのだ」
「感謝する」
俺とガルフは自然と握手を交わす。
もう、これ以上の言葉はいらない。
それは野暮ってもんだ。
「さて……さっきも言ったが、まだまだじゃな。腰が入っとらんし、腕の力で振るっておる。お主には前に言ったろう、剣と一緒で体全体で振れと」
「わかってるよ。だが、歳のせいか体から言うことを聞かなくてな。ここに来てから痛感してるところだ。また、一から鍛え直さんと」
「ふんっ、まだまだひよっこの分際で生意気な。どれ、ワシが手本を見せてやろう」
そして俺の斧を受け取り、用意された薪に振り下ろす!
すると、『パカーン!』という小気味いい音がし、薪が綺麗に割れた。
そして、次々と薪を量産していく。
「相変わらずいい腕だ」
「ふんっ、お主には無駄な動きが多いと言ったろう。いくら図体が大きく力があろうとも、それをきちんと扱えなければ意味がない」
「……すまん、気をつける」
これに関しては何も言えん。
師匠ってわけではないが、俺の剣の見本はガルフだ。
ドワーフ族は小さい体故に、体全体を使って斧や槌を振るう。
俺はそのやり方を教えてもらい、大剣を自在に操れるようになった。
「ほれ、まだまだ薪が残っとる。ワシも手伝うから終わらせるぞい」
「ああ、そうだな」
そして、並んで薪を割っていく。
俺はガルフの動きを意識しつつ、それを真似るように薪を割る。
全てが終わる頃には、ガルフと同じ小気味いい音が響き渡るのだった。
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