第11話 穏やかな日々

俺がアトラス領地きてから四日が過ぎた。


少しずつ生活にも慣れてきて、俺の生活リズムもある程度決まってきた。


朝六時の鐘で起きて、庭に出て体操とギンの食事を済ませる。


そこから自分の朝食を食べて、午前中は領主の私室で書類仕事をする。


税金関係や収支はモルト殿が引き続きやってくれるので、俺の仕事は住民からの意見や頼みごとを確認することだ。


「ふむ、木が足りないか。いや、正確には薪が足りないと」


「木を運ぶのもそうですが、薪を割るのも大変な重労働ですからね」


「ああ、そうみたいだな」


「……ようやく、口調が慣れてきましたね。民にも、そのようにお願いいたします」


「あっ……」


いつのまにか、敬語を使うことを忘れていた。


「それで良いのですよ、アイク殿。その方が、私としても楽ですから。何より、貴方が畏ると住民が困ります」


「……わかった、善処する。やはり、大人の男が少ないのが原因か? 子供や年の若い娘は、ちらほらと見かけたりするが」


「ええ、仰る通りです。こんなところでは稼げないので出稼ぎに出る者や、夢を追いかけて出て行く若者が多いのです」


「なるほど……まずは、若者が仕事をできる環境作りが必要か。そうなると、冒険者ギルドの誘致を目指すのが一番か?」


冒険者ギルド、それは大陸を股にかけた大きな組織だ。

成人さえしていれば種族や国籍を問わず、誰でも登録することができる。

無論、犯罪人は無理だし、在籍中に犯すと剥奪される。

仕事は雑用から護衛や討伐と多岐に渡り、それで生計を立ててる者も多い。


「ええ、それができれば一番ですな。冒険者が来れば、商人達もやってきます。そして人が集まれば、若者達も寄り付くでしょう」


「そして、人が来る前にすること……建物の整備や、街道整備が必要になる。あとは、娯楽施設や泊まれるような環境……それにも木が必要だな」


「しかし、街を守ったり見回りをする兵士達を割くわけにはいきません」


「ああ、それでは本末転倒だ。民の安全こそが第一だと思う……とりあえず、俺にできることをするか。すまないが手配を頼んでも?」


「ええ、私にできることでしたら」


その後、困惑されつつも了承を得た。

俺は引き続き書類を確認し、ひたすら作業を行うのだった。






昼食を済ませたら、ギンとモルト殿を連れて街にある作業場に行く。


そこでは人々が木を切ったり、加工したりしていた。


「さて、俺もやるか」


「しかし、良いのですか? その、領主のなさる仕事ではないかと」


「良いんだ、俺は俺にできることをやるだけさ」


「……では、私も私にできることをいたしましょう!」


何故か気合の入ったモルト殿を見送り、俺は用意された場所に行き……薪割りを始める。

これは実家にいた頃もやっていたし、兵役時代もやっていたから慣れたものだ。


「ふんっ」


「ウォン(相変わらず良い腕だ)」


「そいつはどうも。まあ、あいつに言わせたら甘いらしいが……ふんっ」


「ウォン(まあ、ドワーフと一緒にされてはかなわん……我は昼寝をするとしよう)」


ギンが昼寝をしようと横たわると、子供達が作業を覗いていた。


「ん? 君達、こんなところにいては危ないぞ?」


「あ、あの! ……おっきなわんちゃんがいるって」


「わぁ……本当に大きいや!」


「か、噛まないかな?」


……どうやら、ギンの噂を聞きつけたらしい。

おそらく、大人達が止めていたのだろうが……ここ数日の行いで、ギンが危険じゃないと判断されたのかもしれん。

そうなると、ここで悪印象を与えるのは良くない。


「噛まないから平気だ。ギン、子供達を連れて広場に行きなさい」


「ウォン!?(主人!?)」


「お前もタダ飯ぐらいは良くない。午前中だって、日向ぼっこして寝てたろ」


「ククーン……(ぐぬぬっ……我は高貴なるフェンリルぞ)」


「いや、よだれを垂らして腹を出して寝てた奴が言うなし。あんまり怠けてると、ブラッシングはしてやらん」


すると、ギンがこの世の終わりのような表情になる。

俺はおかしいのを堪えて、真面目な顔に徹する。

ここで甘やかしてはいけないと。


「ウォーン(あるじぃぃ)」


「そんな顔をしても無駄だ。ほら、お前も仕事してこい」


「……ウォン(……仕方あるまい)」


「そうそう、人生は諦めが肝心だ」


「ウォン(流石追放された男は言うことが違うのだ)」


「うるさいっての」


ギンは諦めて、子供達の元へと向かう。


「おっきいわんわん!」


「すげー! カッケー!」


「ふわふわ!」


「ウォン!?(待て!? 毛を引っ張るでない!)」


「「「わぁーい!」」」


「ウォーン!?(ええい! 聞いとるのか!)」


……ギンよ達者でな、強く生きろよ。


ギンを見送ったあと、俺は薪割りに精を出すのだった。

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