第9話 実感する
……ん? しまった、寝てしまったか。
「ウォン(起きたか)」
「すまん、ギン。俺はどれくらい寝てた?」
「ウォン(精々、三十分といったところだ)」
「そうか、疲れが溜まっていたのかもな。ともかく、見張りをありがとな」
「ウォン(気にするでない)」
「それじゃ、探索再開といきますか」
水筒に煮沸した水を入れて、再び森の中を進んでいく。
そして山菜や果物を取りつつ、更に一時間ほど経つとギンが立ち止まった。
「ウォン(主人よ、待つのだ。おそらく、この近くに生き物がいる)」
「なに? ……わかった、それでは出来る限り気配を消して進もう」
俺はギンを先導させ、慎重に歩いていくと……俺の視界に大きな生き物が入る。
大きさはギンより少し小さく、短い手足に太い胴体をしていた。
でかい鼻と二本の牙が特徴的な魔獣……ワイルドボアだ。
「ブルルッ……」
「大きいな。俺の知るワイルドボアより、一回り以上でかいぞ」
「ウォン(うむ、我が住んでいた森の個体よりも大きい。よほど、良いものを食べていると見える)」
「天敵である人や妖魔が少ない故か。しかし、奴らは大食漢だ。いずれにしろ、放っておいたらいくら自然が豊かでも危ない」
俺の住んでいた場所でも作物を荒らすことから、見つけ次第討伐するという決まりがあったくらいだ。
すぐに数を増やすし、奴らは気性が荒いから家畜にも向かない。
「ウォン(あれなら食いでもある……やるか?)」
「ああ、そうだな。あれを持って帰るとしよう……ギン、俺がやっても良いか? 鈍った体を、少々動かさんといかん」
「ウォン(うむ。ならば、我は逃げないように回り込む)」
「ああ、頼む。それじゃ、俺はここで待機しよう」
俺は草むらの陰に身を潜め、じっと機会を伺う。
そして、数分後……ギンの動きが止まった。
用意ができたの合図なので、俺はワイルドボアの前に飛び出す。
「ブルァ!?」
「よう、ワイルドボア。すまんが、相手をしてもらおうか」
「ブルルッ!」
「グラァ!」
振り返り逃げようとするワイルドボアの後ろに、ギンが立ちふさがる。
やつは俺とギンを見比べ……俺の方へと突進を仕掛けてくる!
「俺の方が与し易いと見たか——なめるなよっ!」
「ブルッ!?」
「グヌゥゥゥ!」
二本の角を両手で受け止め、押し合い状態になる。
俺は足と腰に力を入れ、どうにかその場に踏み止まる!
身体強化の魔法を使っても良いが、ここは敢えて肉体のみの力で!
「ウォン!(主人! 手伝うか!? もう若くないのだ! はやく魔力を使うのだ!)」
「いらん! 引退を考えていたとはいえ、まだまだ魔獣には負けん——ゼァ!」
「ブァ!?」
相手の角ごと身体を持ち上げて、横投げで木に叩きつける!
相手はすぐに起き上がるが、その体はふらついていた。
「ふんっ!」
「ブルルッ!? ……」
その隙を突き、背中の大剣で上段斬りをし……首だけを切断する。
すると、ワイルドボアはゆっくりと地に伏せた。
「ぜぇ、ぜぇ……やはり歳だな、少し戦場を離れたらこれだ」
「ウォン(魔力を使ってないとはいえ、明らかに身体が鈍っているな)」
「情けないことにな……これは、一から鍛え直さんといかんな」
「ウォン(やれやれ、ゆっくりするのではなかったのか?)」
「なにを言う。健康に過ごすためには、健全な肉体がなくてはいけない」
とか言い訳してみるものの……結局、体を動かすことが嫌いじゃないんだなと実感する。
適度に動き、適度に働き、適度に遊ぶ……そういう生活を目指すのも良いかもしれないな。
「ウォン(それより、早く処理をするのだ)」
「そうだな、早くしないと味が落ちてしまう」
「ウォン(汚れるのは嫌だが、我の背中に乗せると良い)」
「ああ、すまん。それじゃ、先ほどの川に急いで戻ろう。なにも気にしなければ、十分ほどで着くだろう」
そして俺とギンは、来た道を急いで戻っていくのだった。
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