第6話 セレナ視点

……はぁ、うんざりだわ。


さっきからずっと、貴族達の相手をしているけど……皆、言うことは同じ。


私を口説くか、息子を紹介したり、戦場に出ていた者を批判したり。


「おおっ、お綺麗ですな。やはり、貴方は戦場なんかにいるよりドレスを着ている方がよろしいかと」


「そもそも、女性が戦いに赴くのが間違いですな」


「そんなものは、下々の男共に任せれはいいのです」


「それより、この後お時間はありますかな? よろしければ……」


「いえ、疲れたので夜風に当たってきますね」


自分の機嫌の悪さを隠しきれそうになく、私は一人でバルコニーに出る。

そこから中を見ると……

彼らは戦争に出ることもなく、ただ国内でじっとしていただけなのに。

それならまだしも、こちらのすることを邪魔したりもしていた。


「本来、ここにいるべきは彼らじゃない。死に物狂いで前線で戦った方々を祝うべきなのに」


なのにアイク殿はもちろん、下級貴族達も出席していない。

末端の兵士達は、未だに仕事をしている。


「……私は何をやっているんだろ?」


連日のようにパーティーに呼ばれ、下世話な話と下卑た視線を向けられて。

それに皆、アイク殿の悪口ばかり。

何故彼が命令違反をしなければならなかったのか、その理由を考えたことがあるのだろうか?


「彼はただ民のために、仲間を死なせないために頑張っていただけなのに」


それを彼に手柄を立てて欲しくない連中が無理な作戦をしたり、彼を後方に回そうとしていた。

そのせいで、どれだけの兵士が犠牲になったことだろう。


「……まあ、そういった上官のほとんどは亡くなってしまいましたが」


それを自業自得と思うのは、よくないことでしょうか。

そんなことを考えていると、側近であるサーラが慌ててやってくる。


「お嬢様、大変でございます」


「サーラ、どうしたの?」


「アイク殿が王城に呼ばれたそうです。そして、辺境の地に飛ばされたと」


「……何ですって? アイク殿だったら、近衛騎士や、王都で高位貴族か将軍になってもおかしくない手柄を立てたはずですが」


「ええ、私もそう思います。かの将軍を倒したのはアイク殿であり、それが敵国が終戦すると決めた決定打でしたから」


サーラの言う通りだ。

我が国を長年苦しめてきた敵国の将軍が生きていれば、未だに戦争は終わっていないはず。

それだけに、アイク殿功績は大きい。

間違っても、辺境に飛ばされるなどあってはならない。


「……すぐにお父様の元に向かいます」


「わかりました。それでは、すぐに先触れを出しておきましょう」


「ええ、お願い」


サーラが出て行った後、私も何人かの人に挨拶をしてパーティー会場を後にする。





そして着替えを済ませ、サーラと合流をしてお父様の私室に向かう。


「お父様!」


「ノックをせんか」


「す、すみませんでした! ですが!」


「お前の言いたいことはわかっておる。ひとまず、席に着くといい」


私は深呼吸をして、対面のソファーに座る。


「何故、アイク殿を辺境に? しかも、私に黙って……彼の功績はきちんと伝えたではありませんか」


「うむ、わかっておる。理由はいくつかある……まずは、彼が王都に残ったところで何ができる? 武力を使わない権力闘争に勝てるのか?」


「そ、それは……」


確かにアイク殿は実直な人柄の持ち主です。

優しいし真面目で誠実な人で、個人的には好感を持てる男性……しかし政治の世界において、それは役にたつとは言えない。

むしろ、足を引っ張る要因にしかならない。


「そういうことだ、権謀渦巻く王都には英雄の居場所はない」


「で、ですが……」


「それに、辺境とはいえアトラス領地だ」


「えっ? ……小さな頃に一度だけ遊びに行った?」


記憶はほとんどないけど、とても楽しかったという思い出があります。

自然の中を駆け回ったり、優しいお兄さんが遊んでくれた。


「うむ、まだお前は五歳くらいだったか。戦争が終わった今、あそこに行く機会もある。なので、信用のおけるアイク殿を派遣したまでだ。あそこは王族の避暑地にして、我々の祖先が生まれた場所だ」


「……そうでしたか。それで、あえて信用のおけるアイク殿を送ったのですね。まさか、お父様がそこまで信用してくれてるなんて」


「くく、お前の手紙にはアイク殿のことしか書いてなかったではないか」


「そ、そんなことはありません!」


「いえ、お嬢様。私の方に来たお手紙にもアイク殿のことばかりでしたよ? アイク殿が活躍した、アイク殿がそっけなくて寂しいとか」


「うぅー……」


そんなに書いたかな?

きちんと報告書を書いだつもりだったんだけど……確かにアイク殿を褒めたりはしたかも。


「さて、話を戻そう。アイク殿は私が直々に領主に命じた。つまり、何人たりとも手出しは出来ない。彼は敵も多いし、少しはゆっくりしたいであろう」


「……お父様は、アイク殿を守るために?」


「そんなにいいものではない、私が彼をあの地に追いやったのは事実だ。それでも、王都にいるよりはマシだと思ったのだ」


「それは……その通りかもしれません」


ただ、そうなると私は……まだ、全然話せてもないのに。

このまま話すこともなく、誰かのお嫁に行くのは嫌です。


「……しかし、彼一人では不安なのも事実だ。あそこは我が王家にとって大事な場所で、国力を回復させるためにも必要な場所の一つだ」


「お父様?」


「何処かに暇な王族はいないものか。そうすれば、彼の手伝いとして派遣をするだが」


「わ、私がいきますっ!」


「ふむ……ここにいても、結婚させろと言う貴族達がうるさいか。私自身も、断るのは面倒だ。何より、今までは戦争という言い訳ができたからな」


そう、そうなのです。

今年で二十三歳になった私は、本来ならお嫁にいく年齢だ。

でも戦場にいることで、それを断ってきた。


「私が結婚すると権力争いの元にもなりますしっ!」


「急に元気になりおって……まあいい、それも嘘ではないしな。わかった、国王として命ずる。アトラス領地に行き、アイク殿を助けてあの地を復興させよ」


「はいっ! お任せください! えへへ……これでお話しできますね」


「これで亡き友との約束は果たせるか。あとは、見守るのみだ。親子揃って世話をかけてしまうとは……情けない限りだ」


「お父様?」


「いや、なんでもない。ほれ、急ぐのだろう?」


「そ、そうでした! サーラ! 部屋に戻って準備します!」


アイク殿、すぐに行くから待っててくださいね!







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