第4話 到着

休憩を挟みつつ、ひたすらに草原を駆け抜ける。


ギンは魔獣の中でも最上位に近いので、力の差がわかる敵は寄って来ない。


力量の差がわからない魔獣などは、ギンの爪で一蹴されるので問題にもならない。


俺は何もすることなく、久々にのんびりと過ごす。


「……それにしても戦争の傷跡が酷いな」


「ガウ?(どうしたのだ?)」


「いや、王都付近では感じなかったが……西に行くに連れて寂れた印象を受けるなと」


「ガウ(確かに活気がない場所が多い。人々もやせ細っている印象だったな)」


今回戦争が起きたのは、我が国の王都より北に位置するガルド帝国だ。

当時国土を広げ、我が国の領土と資源を求めて侵略戦争を開始した。

この辺りは戦場ではないとはいえ、兵力や食料などを長年取られた影響かもしれない。


「まだ戦争は終わってないということか……俺にできることはあるだろうか?」


「ガウ(相変わらずのお人好しだな)」


「ほっといてくれ」


「ガウ(だが、その甘さに我は救われた。主人の気がすむようにしたらいい。我は協力を惜しまない)」


「ギン……感謝する。それじゃ、道中の村々に食料を届けながら向かうとしよう」


そうして魔獣狩りをしつつ、食べられる魔獣を村々に届けながら目的地に向かう。

そして一週間後、西の果てである目的地近くに到着した。

これでも早い方で、普通に馬で行ったら十日はかかっていたはず。

夕日の中、小高い丘の上からその景色を眺める。

奥には山々があり、西のほうには深い森、手前付近には村々と畑などがある。


「久々だな……少し景色は違うが懐かしい」


「ガウ?(そうなのか?)」


「ああ、まだお前に出会う前……十七歳くらいの時に、父に連れられて遊びにきたことがある」


「ガウ(ふむ、我と主人が出会ったのは戦争が始まってからであったな)」


ギンを拾ったのは十年くらい前で、それは戦場でのことだった。

ある作戦で殿を務めた俺は森へと逃げ込み、そこで雨の中倒れていた子供狼を見つけた。

とっさに抱え込み、そのまま一緒に近くの洞窟で過ごして世話をした。

それからは俺の良き相棒として、共に戦場を生き抜いてきた。


「もう、そんなになるか。あんなに小さかったのに、今では馬くらいあるしな……早いもんだ」


「ガウ(まだ大きくなるがな)」


「確かフェンリルの大人は三メートルを超えるって聞いたしな……さて、そろそろいくか。あちらに着く頃には、日が暮れてしまう」


俺はギンに再び跨り、丘を越えていく。

そして、一時間くらいかけて……小さな街の入り口に到着する。

ギンがいるので怖がらせないように、ゆっくりと門に近づく。


「な、なんだ!?」


「大型の魔物!?」


「騒がせてすまない、私の名前はアイクという。国王陛下の命により、この地の領主として赴任してきた者だ」


武器とギンをその場で待機させ、俺は手紙を門番に渡す。


「なになに……この者を新しい領主に命ずる?」


「そもそも、うちには領主様なんていないべ?」


「俺たちじゃ難しいことはわかんね! お前はモルトさん呼んでこい!」


「そ、そうだな!」


一人の門番が、慌てて街の中へと入っていく。

俺はその間に、雑談をすることにくる。


「そう言えば、ここにくるまで他に街とか見なかったのだが」


「もう大きな街はないんですよ。王都で政変があって、戦争が起きてから若い連中はほとんど出て行っちゃって。残ったのは、住むところがない連中や住み慣れた土地を離れたくない者達でさぁ」


「なるほど……近くに村とかは?」


「それならいくつかありますよ。ただ、大分減ってしまいましたが」


ということは、ほとんど領地としては機能してないってことか。

すると、門が開いて身長の低い初老の男性がやってくる。

白髪をオールバックにし、優しそうな雰囲気の人だ。


「お待たせいたしました。国王陛下より、この地の代官を任されているモルトと申します」


「突然押しかけてすみませんでした。お手紙にある、アイクと申します」


「これはこれはご丁寧に……ささっ、まずは中でお話をいたしましょう」


「ありがとうございます。ところで、ギン……従魔がいるのですが、中に入れても良いでしょうか?」


俺としては無理を言うつもりはない。

こんな辺境では、ギンのような魔獣は珍しいだろう。

危険がないとは言っても、それは初めての人には理解しがたい。


「へっ? あ、あれですか……いえ、構いません」


「よろしいのですか? まだ、俺の身分もきちんと示してないのに」


「このお手紙には確かに国王陛下の印があり、全権を委ねてあると書いてありますから。そこには銀狼もいるとの記載もあるので、逆に信用がおけるかと」


「そんなことが……感謝いたします。きちんと言い聞かせますのでご安心を」


「では、私の後をついてきてくださいませ」


開封をしてはいけないから、俺自身は手紙の内容を知らない。


ギンのことも知っていておかしくはないが、全権を委ねるとは俺を信用しすぎてないか?


もしかして……セレナ様が何かお伝えしていたのかもしれない。


そんなことを考えつつ、俺はギンを連れて街の中へと入っていくのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る