第3話 英雄は旅立つ

 城を出て宿に帰った俺を、ナイルが出迎えてくれた。


「先輩! どうでしたか!?」


「うむ……それがな」


 俺が簡単に説明すると、ナイルの顔が怒りに染まっていく。


「なっ!? わざわざ、あんな僻地に……実質、追放みたいなものじゃないですか! いくら子爵位を得たとはいえ……」


「ああ、そうだろうな。だが、俺としては良いと思ってる」


「どうしてですか? ここにいると邪魔になるからですか?」


「それもある。俺には権力闘争など無理だし、前も言ったが平和を乱すことは本望じゃない。俺がいることで、貴族の間で諍いが起きてはいけない」


 正直言って、王都のドロドロに巻き込まれるのもごめんだ。

 そんな暇があったら、体を動かしたいし。

 というか、静かに過ごさせてくれ。

 俺は家族と民のために戦ったのであって、別に英雄になりたいわけではなかった。


「先輩、あんたって人は……俺もついていきます!」


「だめに決まってるだろ。お前は伯爵家の次男だが有望株だ。軍の方でも引く手数多だろう?」


「で、ですが……まだ何も返せていません。貴方には、何度も助けられてきたというのに」


「部下を助けるのは上官として当然だ。それに、俺はお前に期待してるんだ。さっき言ったが、その権力を良い方向に使ってくれ。それこそ、平和を維持するため」


「先輩……」


 気心しれてるナイルがいれば、それはものすごい助かる。

 だが、その場合は周りが許さないだろう。


「大丈夫だ。俺は俺で、お前はお前で頑張ろう。何処にいようと、俺はナイルのことを仲間だと思っている」


「先輩……わかりました!」


「ああ、期待してるさ。それじゃあ、また会える日を楽しみにしてるぞ」


「はいっ! こちらこそ!」


 ナイルと固い握手を交わしたら、すぐに部屋を出て行く。

 湿っぽいのは、お互いに嫌だろうから。




 宿を引き払った俺は、旅をする準備をする。


「さて、武器はこれがあれば問題ない。防具も、今のままで良いだろう。元々身体は丈夫だし」


 俺が持っている剣はアロンダイトといい、親友であるドワーフが打ってくれた大剣だ。

 斬れ味はそこまででじゃないが、決して折れることはない頑丈さを持つ。

 これがあったから、俺は戦場を生き抜いてこれたと言っても過言じゃない。

 

「さて……さっさと出ていくとしよう」


 知り合いに挨拶したいが、きっと引きとめられてしまうから。

 それならまだ良いが、俺のことについて上に文句を言う可能性もある。


「そんなことになったら、折角の平和が台無しだ」


 不義理は承知で、俺はひっそりと門を出ていく。

 すると、少し離れたところで……草原から相棒が駆けてくる。

 銀の毛並みと馬並みの体躯を持つ、銀狼フェンリルだ。

 魔獣の一種だが、俺と契約を結んでいるので意思疎通ができる。


「ウォン(主人よ)」


「ギン、遅くなってすまない」


「ガウ(問題ない。それより、どうなったのだ?)」


「ひとまず、ここを急いで離れよう」


「ウォン(うむ、それなら背中に乗るが良い)」


「ああ、助かるよ。とりあえず、この街道に沿って進んでくれ」


 馬に乗るようにギンに跨ると、ギンが結構な速さで草原を駆け抜ける。

 その速さは圧倒的で、街道を走る馬車を簡単に追い抜いていく。

 俺は気持ちいい風を感じながらも、今の状況をギンに伝えた。


「ガウ?(ふむ、左遷? 追放か? 厄介払いか?)」


「まあ、どれでも正解かな。でも、俺の目的とも一致してるから良いさ。ただ、お前にまで付き合わせて悪いとは思ってる」


「ウォン(戦い漬けの日々には疲れたと言っていたしな。主人が文句ないのなら我は気にしない)」


「そうか……まあ、田舎だからお前が駆け回るには良いかもしれない。俺も、そこでのんびりと過ごすとしよう」


「ウォン(決まりだな。では、急ぐとしよう)」


 俺がしっかり捕まると、ギンが速さを上げていく。


 そしてあっという間に、王都が見えなくなっていくのだった。

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