B1 巣窟盤 Part2(ゲーム)

「このゲームは攻撃側のターンと防御側のターンを交互に繰り返して進行する。

お前らが攻撃側、俺達が防御側だ。

お前ら攻撃側は、B1~B5までの防御側プレイヤーを1人ずつ倒すことができれば勝利。

俺達、防御側はお前ら5人全員を倒せれば勝利できる」


「要するに、互いに敵を全滅させればいいわけか」


「それで、倒すとは具体的にどうすればいいのだ?」


「プレイヤーの累積負傷値を敗北値以上にすればいい。

プレイヤーにはそれぞれ敗北値が設定されている。

ゲームの中でダメージを受けると累積負傷値としてダメージが蓄積されていくが、その値が敗北値以上になると、そのプレイヤーはそこで敗退する。

お前達は全員が敗北値30。

つまり、累積負傷値が30以上になると、そのプレイヤーは負けってことだ。

俺達の敗北値は各階で確かめるんだな」


「とにかくダメージを受けないようにしなくちゃいけないのか」


「それから、チームの中からリーダーがランダムに1人決められる」


水硝クリスタルがそう言うと、スポットライトが糸詠に当たった。


「ほう。

選ばれたのは人間の小僧か」


「そしてお前らの能力をもとに、自動的にステータスが決定される」


部屋の明かりがつくと、各々の前に数値が表示されていた。

巣窟盤ベースメントを作り上げた催眠系のモンスターの力で、映像として見えているのだろう。


「それは各プレイヤーの攻撃力と威力。

戦闘時に参照する」


「ちょっと待て!」


ヨーが叫んだ。


「俺の攻撃力100って、どういうことだよ!」


「俺に聞くな。

ステータスはそれぞれの能力が反映されてんだ。

それだけお前が弱っちぃってことなんじゃないか?」


「何だと!」


ヨーはむきになっている。


「まぁまぁ。

俺も攻撃力500しかないから」


彼を慰めたのは糸詠だった。


「それから…」


5人の前にそれぞれ紙が現れた。


「そこには自分の持つ効果が書かれている。

1つの効果は1回までしか使えない。

階が変わっても、この塔の中にいる限りは1回までしか使えないからな」


「ヨー、読めるか?」


「うん。文字読むの苦手だけど、俺にも分かるよ」


「(この塔の力か…)」


「効果の内容をチームメイトで共有することは禁止だ。

俺もお前らの効果は確認できないようになってるから安心しろ」


「え…。

お互いに知らない状態で戦うの?」


心配そうにする糸詠とは対照的に、采漢紳シャッハ・ジェンは余裕だった。


「(そんなルール、俺達には無関係だ。

みんな…)」


ウプシロン、シンセ、ヨーの3人はその呼びかけに応える。


「(俺の効果は…)」


モンスターの中には、声を出さずとも念のような形でコミュニケーションをとれるものがいる。

一方的に考えを伝えられる者、双方でやりとりできるようにする者、モンスターにしか話しかけられない者、人間にも話しかけられる者、近距離でしか効果を発揮できない者、遠距離でも会話できる者…。

能力を持つ者でも、モンスターによって細かな部分に差はあるが、采漢紳シャッハ・ジェンもその1人だった。

彼の場合、人間に話しかけることはできないが、モンスターに話しかければ、双方でやりとりをすることができた。

体力を消耗するので、必要のない時はこの能力を使うことはなかったが、今は出し惜しみしている場合ではない。


4人のモンスター達は互いの効果を明かした。


「(そうか、分かった。

この塔も俺のこの能力にまで干渉することはできないようだな。

糸詠と情報共有できないのは残念だが、何もしないよりはいいだろう)」


水硝クリスタルは説明を続ける。


「まぁ、仲間に具体的な指示を出すことは認められてるからよ。

せいぜいみんなで相談しな。

それじゃあ始めるか!

この階、B1の敵はこいつだ!」


向こう側から誰かが走ってくる。

暗闇から飛び出すと彼らと向かいあった。


「よぉ、久しぶりだな!

特に采漢紳シャッハ・ジェン

元気にしてたか?」


「お前など知らん。

誰だ?」


彼の返答にその獣はいらだつ。


「この俺を忘れただと?

ふざけるな!

お前に受けた屈辱、倍にして返してくれる!」


采漢紳シャッハ・ジェン

こいつは君がかつて倒した相手だ。

名は確か、スクラッチ」


「シンセ。

お前は相変わらず、物覚えがいいな。

思い出してもらって光栄だよ」


采漢紳シャッハ・ジェンはピンときていない。


「お前みたいな奴は大勢いるんでな。

俺はいちいち記憶してないんだよ」


「ならば、忘れられないようにしてやる!」


**********


<攻撃側チーム>

プレイヤー:

采漢紳シャッハ・ジェン

攻撃力1800 威力3 敗北値30

効果:???

(自らの姿を隠すため、鎧を纏っている格闘戦士。

素早い動きや跳躍で敵の攻撃を回避することが得意)


【糸詠】

攻撃力500 威力1 敗北値30

効果:???

(人間の子ども。

家族思いで心優しい少年)


【ウプシロン】

攻撃力1500 威力2 敗北値30

効果:???

(白い体が特徴のペガサス。

正義感が強く、正々堂々とした戦いを好む)


【シンセ】

攻撃力900 威力3 敗北値30

効果:???

(周囲からの信頼が厚い剣士。

知識の幅が広い)


【ヨー】

攻撃力100 威力1 敗北値30

効果:???

(まだ幼いモンスター。

泣き虫なところを直さなければならないと思っている)


<防御側チーム>

プレイヤー:

【スクラッチ】

攻撃力1700 威力4 敗北値10

効果:???

(鋭い爪で攻撃する獣。

恐れを知らず暴れ回っていたところを采漢紳シャッハ・ジェン達に成敗された)


**********


"TURN1"の文字が宙に浮かぶ。


<攻撃側のターンの順番>

采漢紳シャッハ・ジェン

 ↓

糸詠

 ↓

ウプシロン

 ↓

シンセ

 ↓

ヨー


「何だこれは?」


水硝クリスタルの声が入ってくる。


「お前らのターンのプレイヤー順さ。

さっき言った通り、このゲームは攻撃側と防御側のターンが交互に繰り返されるが、攻撃側のターンの時、ターンを進行するプレイヤーは、そこに書かれているように交代で務めてもらう。

TURN1は采漢紳シャッハ・ジェン、TURN2はスクラッチ、TURN3は糸詠、TURN4はスクラッチ…ってな要領でな」


TURN1

(采漢紳シャッハ・ジェンのターン)


「さぁ、采漢紳シャッハ・ジェン

まずはお前からだ」


「俺のターン」


「ターンプレイヤーは自身のターンで、攻撃や効果の使用・アイテムの使用ができる。

もっともプレイヤーの効果やアイテムの使用は、他人のターンでもできるがな。

どうする?」


「(俺の攻撃力は1800。

【スクラッチ】の攻撃力1700よりも高い。

ここは攻撃してみるか)

俺は【スクラッチ】を攻撃!」


采漢紳シャッハ・ジェンは飛び立ち、目にも止まらぬ速さで近づくとスクラッチを殴った。


「うわっ!」


采漢紳シャッハ・ジェン】攻撃力1800 威力3

     vs

【スクラッチ】攻撃力1700


【スクラッチ】累積負傷値:3(0+3)


「よしっ! いいぞ!」


ヨーは嬉しそうにしている。


水硝クリスタルが説明する。


「攻撃したモンスターの攻撃力が、迎撃モンスターの攻撃力、すなわち攻撃された側のモンスターの攻撃力を超えていれば、攻撃モンスターは自身の威力分のダメージを迎撃モンスターに与えられる」


TURN2

(スクラッチのターン)


「くそっ! やってくれたな!

俺のターン!

このターン、俺はアイテムを使う!」


スクラッチの手に透明のサイコロが現れた。


「これが俺のアイテム、【ダイス】だ!」


【ダイス】

アイテム:サイコロ

効果:5種類のサイコロから1種類を選び使用可能。

(各階で1回のみ)

赤色:攻撃力

青色:補助系

黒色:ダメージ系

黄色:戦闘系

白色:威力系


「俺は白のダイスを選択!」


勢いよくサイコロを投げる。

透明だったダイスは色がついて白色になっていた。

床に転がったそれは、6の目を天井に向ける。


「6の目の効果で、俺の威力は2倍になる!」


【スクラッチ】威力8(4×2倍)


「奴の威力が…」


「このアイテムは各階で1回しか使えない。

俺はこの階で【ダイス】を使ったから、もう1度使うことはできないが、これだけの効果を得られれば十分だ!」


「お前だけアイテムを使えるなんて不公平だ!」


シンセの主張をスクラッチはかき消した。


「攻撃!」


「お前の狙いは俺だろ?

相手になってやる!」


采漢紳シャッハ・ジェンが身構える。


スクラッチが采漢紳シャッハ・ジェンに向かって走る。

ところが彼の目の前に来ると、くるりと方向を変え、隣にいた糸詠を攻撃した。


【スクラッチ】攻撃力1700 威力8

     vs

【糸詠】攻撃力500


「痛っ!」


糸詠の累積負傷値:8(0+8)


「なぜ奴を狙う!」


「あれ?

説明されてなかったのか?

リーダーが敗退すると、そのチームはその時点で全滅。

全員の敗退が決定する!」


「何だと!?」


水硝クリスタル

お前、わざと説明しなかったな!」


「悪い、悪い。

忘れてたんだから仕方ないだろ?」


「(それならばここから先、糸詠は集中的に攻撃される…)」


「詫びと言っちゃあなんだが、良いことを教えてやるよ。

リーダーが攻撃された時、他の味方プレイヤーは代わりに攻撃を受け、リーダーを庇うことができる。

自分が傷ついてもそいつを助けてやりたいと思う奴は、進んで前に出るんだな」


「それを早く言え!」


「俺のターンは終わりだ。

さぁ、小僧!

お前のターンだ」


TURN3

(糸詠のターン)


糸詠は立ち上がる。


「お、俺のターン…」


突然、彼の手元に5枚のカードが現れた。


「これは…」


水硝クリスタルの声がする。


「それが、リーダーであるお前のみが使うことを許されたアイテム。

カードだ」


「カード…」


「最初のカードは5枚。

さらにお前のターンが来る度、ランダムに1枚が手札に追加される。

カードは互いのターンで自由に使えるが、プレイヤー効果と同様、手札にあるカードを仲間に見せ、共有することは禁止だ」


「そんな…俺…」


シンセは案ずる。


「(彼は明らかに動揺している。

突然ダメージを受け、その後には未知のアイテム。

無理もない…)」


「プレイヤーとアイテム、これらを合わせてユニットと呼ぶ。

ユニットをどう使うかが、塔攻略の鍵だ。

説明はここまで。

それじゃあ、頑張って俺のところまでたどり着いてくれよ」


水硝クリスタルは何も言わなくなった。


糸詠は手札をじっと見つめていたが、1枚のカードを手に取った。


「えっと…

【学習の演舞ダンス】を発動。

これで俺の攻撃力は【采漢紳シャッハ・ジェン】と同じになる」


【学習の演舞ダンス

アイテム:カード

効果:プレイヤー1人の攻撃力を別のプレイヤー1人と同じにする。


【糸詠】攻撃力1800


「攻撃!」


【糸詠】攻撃力1800 威力1

     vs

【スクラッチ】攻撃力1700


糸詠は拳を握りしめ、殴りかかった。


「くっ…」


スクラッチの累積負傷値:4(3+1)


「だがお前の威力はたかが1。

こんなもん、何でもねぇよ!」


「ターン終了…」


采漢紳シャッハ・ジェンは苛立つ。


「(プレイヤー1人の攻撃力を変えられるならば、【スクラッチ】を選び、【ヨー】と同じ攻撃力100にすれば、俺達には有利だったはず。

この子どもはまだ、勝負事に慣れていない…)」


TURN4

(スクラッチのターン)


「俺のターン!」


【スクラッチ】攻撃力2700(1700+1000)


「何!?

なぜ奴の攻撃力が!?」


「俺もお前らと同じようにプレイヤー効果を持ってるんだよ。

お前達と違うのは、俺は何度でも効果を使えるってとこだ」


「何度でも?」


「そんなのずるいぞ!」


「5対1なんだ。

これくらいハンデがなきゃやってられねぇだろ。

俺の効果はターンごとに攻撃力を1000上げる効果。

早く俺を倒さないと、どんどん不利になっていくぞ!」


【スクラッチ】

攻撃力1700 威力4 敗北値10

効果:TURN3以降、自分ターンごとに攻撃力を1000上げられる。

(鋭い爪で攻撃する獣。

恐れを知らず暴れ回っていたところを采漢紳シャッハ・ジェン達に成敗された)


「ほら、小僧!

お返しだ!」


【スクラッチ】攻撃力2700 威力8

     vs

【糸詠】攻撃力1800


「あっ!」


「糸詠!」


スクラッチが糸詠の前に行く。

獣が腕を振り上げると、少年は身をかがめた。


しかし、獣の爪はいつまで経っても彼を襲ってこない。

恐る恐る目を開けて見ると、采漢紳シャッハ・ジェンが立ちはだかっていた。


「リーダーが攻撃された場合、他の者はそいつを庇えるんだったよな?

お前の相手は俺だ」


「馬鹿な…。

人間嫌いのお前が、こいつを庇うだと!?」


「勘違いするな。

リーダーが敗退すれば、その時点で俺達も終わり。

当然の判断だろう?」


「だがお前の攻撃力は1800。

俺の敵じゃないんだよ!」


【スクラッチ】攻撃力2700 威力8

     vs

采漢紳シャッハ・ジェン】攻撃力1800


スクラッチが采漢紳シャッハ・ジェンを吹き飛ばす。


「うっ!」


采漢紳シャッハ・ジェンの累積負傷値:8(0+8)


采漢紳シャッハ・ジェン!」


糸詠が駆け寄る。


「ごめん…俺のために…」


「お前のためじゃない。

俺のためだ」


糸詠は泣きそうになっている。


「…どうした?

弟を助けたいんだろ?

お前の持つ手札。

それはお前にしか使えない。

早く効果を読み込め」


「うん…」


言われた通りに手札のカードを確認する糸詠。


糸詠の手札:

回想配置リプレイス・リマインド

【威風】

【執念のアンカー】

【イーブン】


「(考える時間くらい、俺が稼いでやるからよ)

さぁ、次はどうすんだ?」


「ターン終了!」


「こんなもので終わりか。

デカい口を叩く割には随分とあっさりしてるな」


「何だと!」


「まぁ、こんな練習試合を任されるくらいだから、大した実力がなくても不思議ではないが」


「それ以上言ってみろ!

ただでは済まさない!」


「本気なら既に出しているだろう?」


「くっ…」


「さぁ、ウプシロン。

頼んだぞ」


頷くウプシロン。


TURN5

(ウプシロンのターン)


「俺のターン…」


「(プレイヤー効果は1度しか使えない。

最後までとっておきたかったが、出し惜しみして負けるんじゃ本末転倒だ)

俺のプレイヤー効果を発動!

ユニット1つを更新し、新たな効果を加える!」


采漢紳シャッハ・ジェン

攻撃力1800 威力3 敗北値30

効果: ユニット1つを更新する。

その階の敵を倒すと効果は終了する。

(自らの姿を隠すため、鎧を纏っている格闘戦士。

素早い動きや跳躍で敵の攻撃を回避することが得意)


「バージョンアップだと!?」


「(さて、誰を更新させるか。

プレイヤー効果がそのプレイヤーの持つ本来の能力を基にして作られているのだとしたら…

博識なシンセなら、この状況を打ち破ることができるかもしれない!)

俺が選ぶのは【シンセ】だ!」


「了解!」


シンセが光に包まれると、彼の持つ剣は形を変え、立方体になった。


「これで私には新たな効果が加わった」


「何だその剣は!?

それはまるで…」


「私が新たに得たプレイヤー効果は、相手のアイテムを自らも使用できるようにする効果だ!」


「何!?」


【シンセ】

攻撃力900 威力3 敗北値30 ver2.0

効果:???

・相手の使用したアイテムを自分も使用可能。

(周囲からの信頼が厚い剣士。

知識の幅が広い)


「赤色のダイスを選択!」


シンセがダイスを転がすと、5の目が出た。


「プレイヤー1人の攻撃力を2000上昇させる!」


【ウプシロン】攻撃力3500(1500+2000)


「今だ、ウプシロン!」


【ウプシロン】攻撃力3500 威力2

     vs

【スクラッチ】攻撃力2700


「だが、攻撃を受けても俺の累積負傷値は6。

次のターンでさらに攻撃力を上げ、反撃してくれるわ!」


「【威風】を発動!」


糸詠がカードを発動する。


「なっ!」


ウプシロンを風が囲んだ。


「【威風】の効果で、上昇している攻撃力500につき1つ、【ウプシロン】の威力が上がる!」


【威風】

アイテム:カード

効果:プレイヤー1人の威力は、上昇している攻撃力500につき1つ上がる。


「【ウプシロン】の攻撃力は2000上がっている。

よって、威力は4上昇!」


【ウプシロン】威力6(2+4)


「(そうだ。

弟を守りたいなら、少なくとも俺達の足は引っ張るな…)」


ウプシロンが突進する。

スクラッチは両手で止めようとしたが、突き飛ばされてしまった。


「ぐわぁ!」


スクラッチの累積負傷値:10(4+6)


攻撃側の勝利。

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