さようなら
「私は……最低なことを……」
千春は、部屋の端に座っていた。
「こんなの、謝るだけじゃ許されない……」
とてつもない罪悪感に襲われ、体が震えている。
「私は、どうしたら……」
涙を流し、頭を抱える。
そして、思いついた。
「あっ、風峰先輩……」
教室の前に春花と秋葉がいた。
おそらく、昨日何をしたか聞きに来たのだろう。
「千春ちゃんと話したんですよね……」
「ああ、話した」
「それで、千春ちゃんは!」
「俺に誤った後、急に家を飛び出して、そのあとは……」
あの後、千春と連絡を取ろうとしたが、無理だった。
「千春ちゃん、どうしたんでしょうね……」
「わからない。だけど、謝ったってことは反省したってことだ。もう悪いことはしないだろ」
「そう……ですか……」
俺たちが話していると、後ろから声をかけられた。
「風峰……。それに、春花ちゃんと秋葉ちゃん……。おはよう」
退院したのか、美咲が学校に来ていた。
「美咲、体はもう大丈夫なのか?」
「うん……。それより、ごめんね。みんなに迷惑かけちゃって……」
「謝るなよ。美咲は何も悪いことしてないんだから」
俺は、美咲の肩をポンっと叩く。
すると、急に美咲が抱きついてきた。
「お、おい! 美咲⁉︎」
「私、辛かったよ……!」
今まで我慢してきた影響か、美咲は俺に抱きつき、泣き出してしまった。
「辛かったよな……。でも、もう大丈夫だ。千春は謝った」
「ひぐっ……うん……!」
「それじゃ、そろそろ私たちは教室に行きますね」
「それじゃあ……」
春花と秋葉は、自分の教室に向かった。
美咲と一緒に授業を受け、クラスメイトと話した。
千春の嫌がらせが終わり、普通の生活が戻ってきた。
これで全ての問題を解決した。
そう思っていた。
「風峰先輩ー」
昼休み、春花と秋葉が俺と美咲の教室に来た。
「さっき千春ちゃんを見つけたんですが……」
「後をつけてたら、普段立ち入り禁止の屋上に入ってったんです……」
「屋上? どうしたんだろうね……」
「屋上……。まさか!」
俺は立ち上がり、全力走で屋上に向かうことにした。
嫌な予感がする。
「か、風峰⁉︎」
俺は、勢いよく教室から出る。
千春はかなりのショック受けていた。
もしかしたら違う可能性もあるが、急がないと、取り返しのつかないことになる気がした。
「千春っ……!」
俺と美咲の教室がある反対側の校舎から屋上へ行ける。
俺は、反対側の校舎に移動する。
階段を登り、屋上への扉を開ける。
「千春! どこだ!」
俺は屋上を見回す。
すると、屋上の端に千春は立っていた。
柵の向こう側に立っているので、少しでもバランスを崩すと下に落ちてしまいそうだ。
「風峰先輩……」
「千春! やめろ!」
声をかけるが、こちらに来る様子はない。
千春の元へ行って無理やり止めたかったが、近づいたらすぐに飛び降りてしまう可能性があったので、俺は千春に近づくことができなかった。
「私、風峰先輩に言われて気がつきました。私がやっていたことは、好きな人を傷つけた行為……」
「そうだけど、なんで死のうとするんだよ!」
俺は千春に聞く。
「風峰先輩にはとんでもないことをしてしまいました……。命を絶たないと、許されないような行為です。……それに、好きな人を傷つけたというのにこれから生きていくということが辛いんです……」
「お前が自殺ことだって、俺にとっては傷つく行為だ! それでも、お前は死ぬのか!」
「千春……」
「……私は、この学校に入学する前、無口で暗い女の子でした。ですが、風峰先輩に一目惚れしてから、私は変わりました。性格を明るくして、ちゃんと喋れるようにしました。自分を思いっきり変えてまで、風峰先輩と付き合いたかったんです。ですが、私はそこまで好きだった人を傷つけました。私が死ぬとさらに傷つけてしまうかもしれませんが、私が生きているだけで、この先ずっと風峰先輩の心を傷つけてしまう可能性があります。だったら、今死んでしまった方が……」
「……風峰先輩。死ぬ前に、お願いを聞いてもらってもいいですか?」
「……嫌だ。死ぬ前の願いなんて聞かないぞ! 千春! 死ぬな!」
俺は、千春を必死に呼び止める。
千春の気持ちが変わることを信じて。
「頼む。死ぬんじゃない……!」
「……正直、私も死ぬのが怖いです」
「えっ……?」
「地面にぶつかった瞬間、ものすごい痛みが体を襲って……。それでも、すぐに死ねればいいですよね。もし、即死じゃなかったらとても辛いですよね。たから、とても怖いです」
「じゃあ、死ななければいいだろ!」
「だけど、私にとっては死ぬより生きる方が辛いです。だから、怖くても勇気を出して死にます」
千春は、柵から手を離す。
「バカ! こっちに来い!」
千春は、俺の言うことを聞こうとしない。
「風峰先輩、本当にごめんなさい。あと、美咲先輩にも謝っておいて下さい」
「生きて自分で謝れ!」
「……すみません。私には無理です」
「千春! やめろ!」
「風峰先輩……。さようなら……」
「千春、まて!」
俺は、千春の元へ走る。
しかし、間に合わない。
千春は目を閉じ、こちらを向いたまま後ろに倒れる。
「千春!」
もう手遅れだ。
千春の体は落ちて、完全に見えなくなってしまった。
突然走って教室を出て行った風峰を見て、三人は驚いていた。
「わ、私たちも行こう!」
三人は、屋上に向かうことにした。
四階に登り、屋上のあるもう一つの校舎側に移動しようとした。
「み、美咲先輩! あれ!」
秋葉が指差す。
指先には、安全のための柵を乗り越えた千春が立っていた。
屋上の入り口側を見ていたので、誰かと話しているようだ。
「多分、風峰先輩と話してる……」
「じゃあ、私たちも行って止めた方が……」
「春花、美咲先輩! 待ってください!」
秋葉が言う。
「このまま私達が行っても、千春ちゃんを救えない可能性があります! 私に考えがあるので聞いてください!」
美咲と春花は顔を見つめ合う。
だが、二人とも秋葉の言うことを聞くことにした。
「先生!」
美咲は、職員室のドアを思いっきり開ける。
先生に注意されそうになるが、事情を話すと体育倉庫の鍵を貸してもらえた。
「みんな聞いて!」
秋葉は、自分の教室でみんなに言う。
「今、屋上で自殺しようとしてる子がいるの! お願い、みんなの力を貸して!」
「お願い……!」
体育祭練習で、二人と仲良くなった人が大勢いた。
二人の言ったことを聞いたみんなは、二人に協力することにした。
美咲は、体育倉庫の鍵を開ける。
「美咲先輩!」
3クラスほどの人を、秋葉が連れてきた。
「みんな! これを運んで!」
美咲は、綱引きの綱と、走高跳のマットを指差す。
みんなは協力して、四階まで運んだ。
そして、巻き取られている綱を引っ張る。
縄は全部で四本ある。
その四本を、春花と秋葉たちが校舎と校舎の間で引っ張る。
そして、マットを縄の上に引いた。
この作業を、なんとか千春にバレないように行うことができた。
「上手くいって……!」
美咲は、綱を引きながら上手くいくように願った。
「千春……」
千春は、俺の目の前で飛び降りてしまった。
止めることができなかった。
「……あれ、なんで……?」
「千春……?」
俺は、下を見た。
なんと千春は、死んでいなかった。
二つの校舎の間の数本の綱の上に乗せられた数枚のマットに落ちて、助かったのだ。
俺はすぐにそこに向かった。
「風峰先輩……!」
「千春ちゃんは無事です!」
「千春、今なら考え直せる! 死ぬな!」
「いや、私は死ぬべきです!」
「俺も美咲も、千春の死を望んでいない! だから、死なないでくれ!」
「美咲先輩が……? 嘘です! あんなひどいことをしたのに、美咲先輩が私の死を望んでいないなんて……!」
「本当だよ、千春ちゃん……」
美咲が、千春の前に来る。
「美咲先輩……!」
「私は怒ってないよ。千春ちゃんは、風峰が好きだったからあんなことしちゃったんだよね……。好きすぎて、正確な判断ができなくなっちゃったんだよね……」
「美咲先輩がそう言っても、私が犯した罪は大きいです! 」
「……死んだら罪を償えるの?」
「え……?」
「本当に反省してるなら、死ぬんじゃなくて生きるべきだよ! 悪いことして自殺するなんて、現実から目を背けて逃げるのと同じだよ!」
「美咲先輩……!」
「だから、本当に反省しているなら、生きて。これから間違ったことをしないように生きて!」
「千春、俺からも頼む! 生きてくれ!」
「美咲先輩……風峰先輩……!」
千春は、立ち上がる。
「私、生きます……!」
窓から廊下に入る。
そして、涙を流しながら、俺と美咲に抱きつく。
「ひぐっ……ごめんなさい……! 美咲先輩にひどいことして、自殺までしようとして先輩にこんな迷惑かけて……!」
「いいんだ。千春は好きと言う感情に支配されて、間違いをしてしまっただけだ。これから気をつければいい」
「これからは、こんなことしちゃダメだよ?」
「うわああああん! ごめんなさい!」
千春は死なず、自殺未遂で終わった。
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