2章

2章 プロローグ 俺の彼女と後輩は妹

  「うぅ……寒いな……」


 俺、島原風峰は白い息を出しながら歩いていた。

 今は二月。

 気温は低く、なるべく外に出たくなかった。

 だが、今日は美咲に呼ばれたので、外に出ているのだ。

 美咲の部屋の前にたどり着いた俺は、インターホンを押す。


「あっ、風峰。入っていいよー」


 そう言われ、俺は中に入った。


「寒かったでしょー、風峰お兄ちゃん」


「美咲がお兄ちゃんって言うと、なんか変な感じがするな……」


「私もなんか変な感じがする……。やっぱり今まで通り風峰って呼ぶね」


 美咲は俺の彼女なのに、俺のことをお兄ちゃんと呼ぶのは変だと思うだろう。

 だが、美咲の言っていることは間違いではない。

 島原美咲は、俺の彼女であり、血の繋がった俺の妹でもあるのだ。


「風峰お兄ちゃーん!」


 ちょうどやってきた秋葉に抱きつかれた。


「風峰お兄ちゃん……!」


 秋葉に続き、春花も抱きついてきた。

 おとなしい島原春花と活発な島原秋葉は、一つ下の妹だ。

 美咲と同じで、血が繋がっている。

 二人ともとても甘えん坊で、会うと抱きついてくる。

 だが、外では妹ではなく、俺と美咲の後輩として振る舞っている。

 だから、家ではお兄ちゃんと呼ぶが、外では先輩と呼ぶのだ。

 どうしてこんなことになっているのか、それには理由があった。



 俺は、美咲が妹だと知らずに付き合い始めた。

 付き合ってからしばらくすると、父親から俺に美咲という名の妹がいることを知らされる。

 その時の俺は、妹だということがバレたら振られると思い、ずっと隠していた。

 その時、春花と秋葉が引っ越してきた。

 二人は俺が兄だと知らず、ずっと風峰先輩と呼んでいた。

 しかしある日、親戚によって兄ということがバレてしまった。

 そして、家では妹、外では後輩として振る舞うようになった。

 その後、美咲にも本当のことを言い、同じように家では妹、外では彼女として振る舞うことになったのだ。



 抱きついていた秋葉は、俺から離れた。


「美咲お姉ちゃーん!」


「ははは、ちょっと秋葉ちゃん、恥ずかしいよー」


 秋葉は、美咲に抱きつく。

 姉に甘えられて、とても嬉しそうだった。


「ねぇ、私もぎゅってしていい……?」


 春花が美咲に言う。


「思う存分ぎゅってしていいよ」


「美咲お姉ちゃん優しい……!」


 春花は遠慮なく、美咲に抱きついた。


「あ、そうだ風峰。記念に写真撮ろうよ。私たちが兄妹として集まった記念に」


「いいなそれ」


「あ、それじゃあ私準備する!」


「じゃあ手伝う……!」


 春花と秋葉が写真を撮る準備をし、俺たちは、ソファに四人で座る。

 しばらくすると、パシャっという音がなった。

 俺たちは、撮れた写真を見る。


「いい感じに写ってる!やった!」


「やった……!」


「ちゃんと撮れたねー」


「お、いい感じだな」


 その写真には、俺たち島原兄妹が笑顔で写っていた。

 この写真を見た人は、誰もが仲のいい兄妹だと思うだろう。

 そう思えるほどみんなの距離が近く、そして、一緒にいて幸せだと感じ取れる笑顔をしていた。



 今日は卒業式だ。

 一年生と二年生は、三年生の後ろの椅子に座る。

 校長が、卒業証書を用意する。

 そして、三年生が校長から卒業証書を受け取っていく。

 里奈先輩と美奈江先輩も、卒業証書を受け取る。

 全員が卒業証書を受け取ると、卒業生は退場した。



「里奈先輩、美奈江先輩。卒業おめでとうございます」


 卒業式の後、里奈先輩と美奈江先輩に会ったので、話すことにした。


「ありがとー。私たちは卒業しちゃうけど、頑張ってねー風峰くん」


 今俺に返事をした先輩、里奈先輩は、俺の頭を撫でる。

 里奈先輩は、俺が小学生の頃から仲が良く、頼りになるが後輩をいじるのが好きな先輩だ。


「や、やめてください! なんなんですか急に!」


 俺は恥ずかしくて、撫でるのをやめさせる。


「そういえば、二人は違う大学に行くんですよね?」


「そうよ。里奈と離れるのは残念だけど、将来のために頑張るわ」


 美咲に返事をした先輩、美奈江先輩は言う。

 美奈江先輩は、里奈先輩ととても仲のいい先輩だ。

 この先輩との出会いは最悪で、今でも覚えている。


「あ、そろそろ教室に行かないと。それじゃ、そろそろ教室に戻るね。また後でー」


 この後、教室で話や集合写真の撮影などがあるそうなので、里奈先輩と美奈江先輩は自分の教室に戻っていった。


「私たちも戻ろっか」


「そうだな」


 俺たちも、自分の教室へ戻ることにした。



 教室に向かって歩きながら、俺たちは話し始めた。


「私たちももうすぐ三年生だねー」


「なんか、高校生活って早いよな」


 美咲のいうとおり、気がついたら三年生になっていた。

 二年があっという間なのだから、残りの一年なんてすぐに終わってしまうだろう。


「入学してから色々あったねー……」


 入学して美咲と出会い、告白して付き合い始めて、二年生になって必死に妹だということを隠して、そんな時に春花と秋葉が転校してきて、美奈江先輩に出会って、妹だという真実を言って。


「色々あったな……」


 特に、二年生になってから。

 話しながら歩いていると、教室に着いた。

 話は一旦やめて、俺と美咲は教室に入った。



 教師の話が終わり、帰ろうとしたその時、俺と美咲は話があると言われ、里奈先輩と美奈江先輩に呼び出された。


「何ですか?」


「実は、新学期に私の妹が入学してくるのよ。名前は林道美奈理」


 入学してきた妹とも仲良くして欲しいと美奈江先輩は言う。

 俺と美咲は頷く。


「ありがとう。話はそれだけよ。それじゃ、また会えたら会いましょ」


「二人とも頑張ってね。じゃあねー」


 二人の先輩は、手を振りながら歩いていった。

 先輩の目からは涙が出ていた。

 この学校を卒業するのが悲しいのだろう。

 だが、このまま残ることはできない。

 俺と美咲は、二人に手を振り、見送った。

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