思い出の場所で、二人は……

「風峰お兄ちゃん、じゃあ日曜日に行こうね」


 秋葉は言う。

 この前、一緒に出かけると言う約束をしたが、いついくかを決めていなかったので、今日決めたのだ。


「風峰お兄ちゃん……。よかったらこれ食べて……」


 春花が、クッキーをテーブルの上に置いた。


「これ、私たちの手作りなんだよ!」


 俺は、クッキーを一つ手に取り、食べる。


「うん、うまいぞ」


 俺は言う。

 それを聞いた春花と秋葉はニッコリと笑った。


「もっと食べて!」


 秋葉がクッキーを手に取り、俺に渡す。

 俺は、それを受け取り、食べる。

 俺と春花と秋葉は、色々話しながらクッキーを食べていた。

 たくさんあったクッキーは、気がついたらほとんどなくなっていた。


「ねぇ、風峰お兄ちゃん。美咲お姉ちゃんにも本当のこと言っちゃおうよ。私、美咲お姉ちゃんにも甘えたい」


 秋葉が言う。

 クッキーを食べている時に、美咲の話題になったのだ。

 それで、秋葉は美咲にも甘えたいと思い、突然そんなことを言ったのだろう。


「でもな……」


「私も、美咲お姉ちゃんに甘えたい……」


 しかし、俺に言う勇気はなかった。


「……すまん、無理だ」


「ええーっ⁉︎」


 この後、ずっとお願いされたが、無理だと断った。

 俺には、真実を言う勇気なんてないんだ。



 春花と秋葉と出かけるまで二日。


「風峰ー!風峰ってばー!」


「はっ!……なんだ美咲。そんなに大声出して」


「なんでって、風峰がさっきからずっとぼーっとしてるからでしょ⁉︎」


 俺は、秋葉に言われたことを考えていたのだ。

 秋葉は、美咲に本当の事を言ってほしいのだろう。

 だから、遊園地に行った時の帰りも、真剣に俺に言ったのだろう。


「ああ、すまん。少し寝不足でな……」


 俺はそう言い、誤魔化した。


「もう……ちゃんと寝ないとダメだよ……?」


 美咲がそう言うと、休み時間の終了のチャイムが鳴った。



 春花と秋葉と出かけるまで一日。


「それじゃあ、一時に集合ね!」


「おう、わかった」


 俺は、電話を切った。

 秋葉と何時に集合して、どこによるかなどを話していたのだ。

 話を終えた俺は、ベッドに寝っ転がる。

 本当のことを言っちゃおうよ。

 秋葉の言葉を思い出す。

 彼女に隠し事をしているということは、彼氏として最低なことだ。

 でも、言ってしまったら、俺と美咲の恋人としての関係は終わってしまうに違いない。


「んん……」


 俺は、考えているうちに眠ってしまった。



 目が覚めた。

 俺は、体を起こし、着替える。

 今日は春花と秋葉と出かけるのだ。

 家を出て、待ち合わせ場所に向かう。


「あっ、風峰お兄ちゃーん!」


 俺のことを見つけた秋葉が、俺に抱きつく。

 それに続いて、春花も抱きつく。


「早く行こ!」


「行こう……!」


 二人は俺の手を握り、ピョンピョン跳ねる。


「わかったから落ち着け」


 俺は、興奮している二人にそう言う。

 そして、俺たちは店の中に入って行った。

 店内はとても綺麗だった。

 色々な店があり、二人はそれを楽しそうに見て回った。

 それを見ていた俺も、なんだか嬉しくなった。



 歩き回った俺たちは、疲れたので休むことにした。


「風峰お兄ちゃん!あそこで休もう!」


 店の外に休める場所があったので、そこにあるベンチに座る。

 二人は、俺を間に挟んで座った。


「疲れちゃったね……」


「歩き回ったからな……」


 俺と春花はとても疲れていた。

 しかし、秋葉はまだ少し元気だった。


「元気だな、秋葉」


「うん!だって風峰お兄ちゃんと一緒に出かけてるんだよ?元気でるよ!」


「そうか?」


 俺たちは休みながら話していた。


「……ちょっとトイレ……」


 春花はそう言うと、立ち上がり、トイレの方に歩いていった。


「それじゃあ、春花が戻ってきたら行くか」


「うん!」


 秋葉はそう言うと、俺の腕に抱きついてきた。


「ちょっ、恥ずかしいからやめろ!」


「いいじゃん、美咲お姉ちゃんにいつもされてるくせに」


 秋葉はそう言い、更に強く抱きつく。


「やめろって」


 俺は、腕を引き抜こうとした。

 しかし、秋葉は離さない。

 仕方ないから、腕を引き抜くのを諦めた。

 その時、俺たちに声がかけられた。


「風峰……?」


 俺の前には、美咲が立っていた。

 美咲の顔は、笑顔ではなかった。

 浮気している彼氏を見るような、そんな表情をしていた。

 美咲は、無言で走り出した。


「ま、待て!美咲!」


 しかし、美咲は止まらない。

 完全に誤解されてしまった。


「風峰お兄ちゃん……大変なことになっちゃったね……」


 秋葉が言う。

 その時、携帯にメールが届いた。

 俺は、恐る恐るメールの内容を見る。

 私と風峰が出会ったあの橋に来て。

 そこで、私たちの関係を終わらせよう。

 そう書かれたメールが、俺の携帯に届いていた。



 美咲が、秋葉が風峰に抱きついている場面を見てしまった日の夜。

 美咲は、とても不安だった。


「風峰が浮気するはずない……風峰が浮気するはずない……!」


 美咲は、風峰と別れるのを恐れていた。


「だって、秋葉ちゃんは風峰の……」


 そう思った。

 しかし、自分だってそうだ。

 自分という前例がある以上、秋葉と付き合う可能性だってある。

 怖かった、不安だった。

 しかし、風峰とデートをして、まだ私と付き合う気があると安心した。

 だが、美咲は見てしまった。

 仲よさそうにしている二人を。

 美咲は、秋葉が甘えん坊だということを知らない。

 だから、あの様子を見て二人は付き合っている。

 そして、風峰は浮気をしていると感じ取ってしまった。

 そして美咲は、その場から逃げるように走り去った。

 この時、美咲は完全に浮気してると思っていた。

 だったら別れてやろうと思い、風峰を呼び出した。



「うぅ……」


 橋から夕日を眺めながら、美咲は泣いた。

 あんなに楽しかったのに。

 幸せだったのに。

 なぜ浮気されたのか。

 私のどこかが悪かったのか。

 そんなことをずっと思っていた。



「風峰先輩……すみません、私が離れなかったせいで勘違いされて……」


 秋葉は、涙目になる。


「いや、秋葉は悪くない。美咲に本当のことを話しているれば、勘違いされることもなかった。だから、ずっと騙し続けた俺のせいだ」


 俺は、立ち上がる。


「すまん秋葉。美咲のところに行く」


 俺は決めた。

 本当の事を言おうと決意した。

 今まで別れるのが嫌だから言わなかったが、このまま黙っていても別れることになってしまう。

 だったら、本当のことを言ってしまおうと。



 橋についた。

 橋のちょうど真ん中に、美咲が立っていた。

 悲しい表情をして、こちらを見ていた。


「美咲……」


「風峰……私たち別れよう……」


 美咲は言う。


「秋葉ちゃん、あんなに風峰に甘えて、とっても風峰のことが好きなんだね……。多分、私よりも好きって気持ちが強いんだろうね……」


「……違う」


「違くないでしょ……?」


「違う!」


 俺はきっぱりと言う。

 風が吹いた。

 風は、俺たちの髪の毛を乱す。

 その風の吹いてる中、まずは隠していたことを言う。


「美咲、落ち着いて聞いてくれ……。実は、お前は俺の妹なんだ!」


 美咲は喋らない。

 沈黙が続いた。

 風の音しか聞こえない。


「……てたよ」


「え……?」


「知ってたよ!そんなこと!」


 美咲は、知ってたと言った。

 どう言うことだ。


「な、なんで知って……」


「考えてごらん?私を育てたのは、風峰のお母さん。そんなこと知ってるよ」


 俺は、今まで思ってもいなかった。

 美咲のいう通りだ。

 美咲の母が俺の親なら、美咲が知っていてもおかしくないと。


「じゃあ、美咲はそれを知った上で……」


「うん、付き合ってたよ。それくらい風峰のことが好きだったから……。でも、秋葉ちゃんは私より風峰のことが好きだろうし……。風峰も秋葉ちゃんのことが好きそうだし……」


「美咲!美咲は勘違いをしている!」


 俺は言う。

 秋葉は、俺のことが好きだ。

 でも、それは兄としてだ。

 そして、俺も秋葉のことが好きだ。

 しかし、それは妹としてだ。


「秋葉は、実は甘えん坊な性格なんだ!だから、さっきみたいに俺に甘えてたんだ!」


「えっ……?」


「その通りです!」


 俺と美咲の横から、突然声がした。

 そこには、秋葉と春花が立っていた。


「私は、風峰お兄ちゃんが大好きです!でも、あくまで兄としてです!美咲先輩から風峰お兄ちゃんを奪う気はありません!」


「秋葉ちゃんの言ってることは本当です……!」


 二人は言う。


「え……それじゃあ風峰の言ったことは……」


「本当だ。秋葉は甘えん坊で、俺のことを兄として好きなだけだ」


「じゃあ、浮気してたと思ってたのは、私の勘違いだったの……?」


「そういうことだ。それと、俺は美咲が好きだ。だから、美咲が俺の妹だとしても、今まで通り付き合ってほしい」


「あ……ああ……」


 美咲は、涙を流す。

 そして、俺に抱きついてきた。


「うわぁぁん!風峰ー!ごめんね!勘違いして……!それと、知ってたことも黙ってて、風峰も疑って……!」


「落ち着いてくれ。俺も悪かった。美咲と兄妹だってバレたら振られると思って黙ってて……それと、美咲を不安にさせて……」


 俺は、美咲の背中に手を回し、背中を撫でる。

 美咲は、より強く抱きつく。

 そして、長い間泣き続けた。



 美咲は落ち着くと、顔を上げる。


「それじゃあ、改めまして、よろしくね。風峰……あっ、私は風峰の妹か。じゃあ風峰お兄ちゃんだね。これからもよろしく、風峰お兄ちゃん」


 そして、美咲は俺にキスをした。

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