出会い
秋葉に電話で呼ばれた俺は、春花と秋葉の家に向かった。
「風峰お兄ちゃん、今度私たちとどこか行こうよー!」
秋葉が、そんなことを言ってきた。
「どこかってどこだよ」
「うーん……あ、リニューアルオープンする駅前のデパートなんてどう?」
「確か今月の月末だっけ?いいぞ別に」
「やったー!ありがとう!」
「ありがとう……!」
春花と秋葉は、とても喜んでくれた。
しかし、風峰は思ってもいなかった。
大切な彼女を傷つけてしまうことを。
俺は、春花と秋葉の家を後にし、美咲の家に向かった。
美咲の家のインターホンを鳴らすと、美咲が部屋から出てきて、俺を部屋に入れてくれた。
美咲が急に、服を買いに行きたいと言ったので、一旦美咲の家に来たのだ。
「ごめんね?寒いのに付き合わせちゃって……」
「いや、全然大丈夫だ。それじゃあ、行こうぜ」
俺と美咲は、一緒に並んで歩き始めた。
「ねぇ風峰ー。どっちの服がいいと思う?」
「ん?どっちもいいと思うが……」
「風峰がいいと思う方を選んでよー」
「うーん……」
こんな感じで、美咲の服選びに付き合った。
そして、服が選び終わった。
「よかったら金出してやるよ」
「えっ⁉︎いいよ、高いし……」
「気にすんなよ」
そう言って、俺は金をレジに出す。
店員は、そのお金を受け取る。
「ありがとう……今度何かお礼するね?」
「別に気にしなくてもいいんだけどな」
美咲は、俺が選んだ服を買った。
そして、帰ろうした時に、美咲が俺の服を引っ張った。
「ねえねえ!たい焼き食べようよ!」
美咲が、たい焼きを指差す。
「ちょっと買ってくるから待ってて!」
美咲はそう言い、店員にたい焼きを二つ頼んだ。
店員からたい焼きを受け取ると、こちらに戻って来た。
「服のお礼は今できないから、とりあえずこれ」
そう言って、美咲は俺にたい焼きを渡してきた。
「ああ、ありがとな」
俺はたい焼きを受け取ると、ベンチに座って食べようと提案した。
「……そういえば、私たちもう付き合い始めて九ヶ月になるんだよね」
美咲は、突然そんなことを言った。
「そういえばそうだな」
「二年生になった日に風峰が告白してきて……。あの時、すごく嬉しかったんだよ?」
「あー……振られるかもしれないって思いながら告白したんだよな……。すげー緊張したよ……」
俺と美咲が出会ったのは高校に入ってからだ。
そう、あれは入学式の日だった。
「ねぇ君、私と同じ島原って名字なんだねー」
自己紹介が終わった後の休み時間に、突然後ろから声をかけられた。
その女子生徒は、同じ名字の俺に興味を持ち、話しかけてきた。
その女子生徒が島原美咲だ。
「あ、ああ。それがどうしたんだ?」
「私たち、仲良くなれそうだなーって気がして……。急に声かけてごめんね?」
「あ、いや大丈夫だ」
「じゃあさ、これからもお話とかしていい?」
「あ、いいぞ……」
「ありがとう。それじゃあ、これからよろしくね」
これが、俺と美咲の出会いだった。
それから、俺たちは仲良くなった。
一緒に図書室でテスト勉強をして、わからないところを教えあったり、体育祭ではお互いすごく応援したりした。
一緒に過ごしていると、美咲の可愛さ、優しさに気がつき始めた。
そして、俺は美咲のことが好きになっていた。
付き合いたいとも思っていた。
しかし、告白する勇気はなかった。
その時、里奈先輩が相談に乗ってくれた。
面倒見のいい里奈先輩は、俺の話を真剣に聞いて、考えてくれた。
「里奈先輩……どうすればいいですかね……」
「うーん……告白しちゃえば?優しいんでしょ、その子。もし振られても今まで通り接してくれるかもよ?」
「それはそれで辛くないですか……?」
「まあ、とにかくしてみないと結果なんてわからないでしょ?勇気を出して、告白しちゃいなよー」
そう言われた俺は、学校の近くにある橋に、美咲を呼び出した。
そして、俺は勇気を振り絞って告白した。
「好きです!付き合ってください!」
俺は頭を下げた。
美咲の表情は見えない。
気持ち悪いと思っていのではないか。
付き合いたくないと思っているのではないか。
顔が見えないから、考えを読み取ることができない。
「うぅっ……」
突然、泣き声が聞こえた。
俺は顔を上げる。
付き合うのが嫌すぎて泣いてしまったと思った。
しかし、美咲は泣きながら笑う。
「ごめんね……風峰に告白されたのが嬉しくて……」
美咲は、涙を流し続ける。
「うん、いいよ……」
美咲は、そう返事をした。
そして、俺と美咲は付き合うことになったのだ。
「あの時の風峰かっこよかったなー」
「いや、かっこいいどころかダサかっただろ。あんなに必死に告白して……」
「ううん。私からしたらかっこよかったよ」
美咲はそう言うと、立ち上がった。
たい焼きは、いつの間にか食べ終えていた。
そして、俺の目の前に立った。
「だからね、これからもずっと、私と一緒にいてほしいな」
美咲が顔を近づけて言う。
顔が近くて恥ずかしかった。
「さあ、それじゃあそろそろ帰ろっか」
美咲は俺の手を握ると、腕を引っ張った。
「ちょっと待ってくれ。俺はまだたい焼きを食べ終わってない」
「あ、ごめんね?」
俺はベンチに座り直し、たい焼きを一気に食べる。
「よし、食べ終わったぞ」
俺は立ち上がる。
すると、美咲は腕に抱きついてきた。
「恥ずかしいからやめてくれ」
「恥ずかしいって言ってるけど慣れないの?」
「慣れねえよ……」
俺は、腕を引き抜く。
しかし、美咲はすぐに抱きついてくる。
そんな美咲が、俺は大好きだ。
帰る途中、美咲が告白した橋に行こうと言ったので、行くことにした。
「そうそう、ここで告白されたんだよねー私」
美咲は、辺りを見渡す。
夕日が出ていて、空が赤い。
「そういえば、告白された時もこんな感じで夕焼けが綺麗な日だったなー」
俺は、夕方に美咲に告白した。
心を落ち着かせる時間を作るために、夕方に来るように呼び出したのだ。
「ここで、気持ち悪いと思われてるんじゃないかって思いながら告白したんだよな……」
「気持ち悪いなんて思わないって風峰わかってたでしょ?私、そんなこと思う人じゃないよ」
そうわかっていたが、そう思ってしまったのだ。
「ごめんな……でも、そう思っちゃったんだ……」
「ううん、怒ってないから謝らなくていいよ」
それから、しばらく二人で夕焼けを見ていた。
告白した当時も、美咲が泣き止むまで二人で夕焼けを見ていた。
「綺麗だね……」
「ああ……」
その時、強い風が吹いた。
一月の風は、身が凍るような寒さだった、
もう少し一緒に見ていたかったが、風邪をひく前に帰った方が良さそうだ。
「そろそろ行こうか。学校がもうすぐ始まるのに風邪をひいたら大変だ」
「そうだね、じゃあ帰ろっか」
そして、俺と美咲は、美咲の家の方向に歩き始めた。
途中に自販機があったので、美咲に缶コーヒーを買ってあげた。
「ほらよ。これ飲んで温めろ」
「ありがと」
美咲は、俺から缶コーヒーを受け取る。
そして、缶コーヒーを一口飲む。
俺も自分の缶コーヒーを開けて、半分ほど飲んだ。
体が内側から温められ、少し寒さが和らいだ。
二口目で一気に飲み、空っぽになった缶をゴミ箱に捨てる。
美咲も飲み終わったようで、缶を捨てる。
「飲み終わったか。じゃあ行こうぜ」
「うん」
俺と美咲は並んで歩き始めた。
「ねえねえ、里奈先輩とどんな感じで出会ったの?」
冬休みが終わり、学校が始まった。
そして、美咲と一緒に投稿していたら、美咲が急にそんなことを聞いてきた。
「どうしたんだ、急に?」
「いや、なんとなく気になって……」
「里奈先輩かぁ……」
足が速くなりたいと思っていた俺は、放課後に学校の校庭で走っていた。
その時に、物陰から見ていた女の子がいた。
その女の子が里奈先輩だ。
ある日、俺が走っていると、思いっきり転んでしまった。
「いてっ!」
俺は地面に座り込み、膝を見た。
膝からは血が出ていた。
俺は気にせず、走るのを再開しようとした。
「これ、よかったら……」
物陰で俺を見ていた里奈先輩が、俺に消毒液と絆創膏を差し出した。
その時の里奈先輩は、俺が怪我をした時に、すぐ怪我をどうにかできるように常に消毒液と絆創膏を持ち歩いていたらしい。
「私、頑張ってる君を見てたら応援したくなっちゃって……。だから、いつも見てたんだ」
そして、俺は里奈先輩と仲良くなった。
それから、悩みがあったり困ったりしたら、里奈先輩に相談している。
「とまあ、こんな感じだな」
俺は、美咲に里奈先輩との出会いを話した。
「里奈先輩、昔っからいい人だったんだねー。好きになったりしなかったの?」
「いや、だって里奈先輩だぞ?毎日ちょっかい出してきて……。嫌いにはならなかったが……」
「そ、そうなんだ……」
「でも、私は意外と好きだったんだよねー」
俺と美咲は、声がした方に振り向く。
教室のドアに、里奈先輩が寄りかかっていた。
「い、いつからいたんですか⁉︎」
俺は里奈先輩に聞く。
「美咲ちゃんが好きになったりしなかったのって聞いた辺りから。それで、なんの話してたの?」
「風峰と里奈先輩の出会いを聞いてたんです。それより、里奈先輩今好きだったって……」
「うん、好きだよ。昔も、今も。美咲ちゃんから奪いたいくらい」
里奈先輩はそういうと、俺の顔に顔を近づける。
「付き合おう。風峰くん」
突然告白してきた。
俺と美咲は黙る。
本気なのか、と思っていると、里奈先輩は急に笑い出した。
「本気にしちゃった?嘘だよー、付き合うわけないでしょー」
里奈先輩は笑いながら言う。
「わかっただろ美咲。俺がなんで里奈先輩のことを好きにならなかったのか」
「う、うん……。里奈先輩、昔からこんな感じだったんだね……」
「ああ、中学生の時も同じことやられた……」
里奈先輩は、昔からこんな感じだった。
しかし、そんな里奈先輩を嫌いにはならなかった。
とても頼れる、立派な先輩だったから。
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