デート
俺は、ベッドから体を起こし、着替え始めた。
今日から冬休み。
そして、美咲と映画観に行くのだ。
着替え終わった俺は朝食を食べて、家を出る。
「うっ、寒いな……」
冷たい風が吹く。
コートを着てマフラーも巻いている。
しかし、鼻や耳などには冷たい風が当たる。
俺は寒い中美咲を待たせないように、急いで集合場所に向かった。
「あっ、風峰ー!」
駅前の噴水の前に美咲はいた。
「待ったか?」
「ううん、待ってないよ。それより、早く行こうよ!」
美咲はそう言うと、俺の手を握って走り出した。
「……いい感じだねー」
里奈と美奈江は、噴水から少し離れた場所から、二人の様子を見ていた。
不安な美咲を安心させるデートがちゃんとできるかどうか見に来たのだ。
「それじゃあ、私たちも映画館に行きましょ。二人にバレないように」
「なんか私たちもデートしてるみたいだよねー」
「な、何言ってんのよ!私たちは二人の様子を見てるだけだし、そもそも、私たち女じゃない!」
「でも、女同士のカップルっているじゃん?」
「私は嫌よ!同性と付き合うのは!」
二人はそんな会話をしながら、風峰と美咲にバレないように後を追いかけた。
風峰と美咲は、真ん中らへんに座っていた。
そして、後ろの方には、里奈と美奈江が座っていた。
「楽しみだねー」
「ああ、そうだな」
風峰と美咲は楽しそうに話している。
そして、それを後ろから見守る里奈と美奈江。
「映画館だと、手をそっと握って、それでキュンとしたりー」
「あー、あれね。あの二人やるのかしら」
二人がどんなことをするか、見守らながら話す二人。
数分後、照明が消えた。
映画が始まるのだ。
「うっ……うう……いい話だった……!」
「ほら、ハンカチ貸すから拭けよ」
映画で感動して涙を流している美咲に、ハンカチを渡す。
「ありがとう……!ひっく……うぅ……!」
そして、里奈と美奈江は二人にバレないように反対側の出口から出た。
「よかった……あのカップルが幸せになってよかった……」
「ほら、ハンカチ貸すから、涙を拭きなー」
「里奈……ありがと……!」
美奈江は、美咲と同じように泣いていた。
「涙拭いたなら、早く二人を追いかけないと」
「そ、そうね!早く追いかけましょう!」
里奈と美奈江は、再び風峰と美咲を追いかけ始めた。
風峰と美咲は映画館を後にして、有名なパスタが食べれる店に入って行った。
それを追いかける里奈と美奈江。
里奈と美奈江は、バレないように髪型を変えてきた。
いつもポニーテールの里奈は、ゴムを外してストレートに、ロングのストレートの美奈江は、里奈のゴムを借りてポニーテールのにしていた。
そして、近くのお店で売ってたサングラスをかける。
「これで完璧ね!」
「そうだねー。それじゃあ入ろうか」
里奈と美奈江は、お店に入った。
店員に席に案内され、椅子に座る。
いい感じに風峰と美咲を見ることができる席だった。
二人をしばらく見ていたが、上手くいっているので、里奈と美奈江は見るのをやめてしまった。
「……私たち、来なくても良かったんじゃない?」
「心配だったけど、大丈夫そうだね。じゃあさ、この後二人でどこか行こうよ」
里奈は、美奈江に言う。
「別にいいわよ」
「やったー。美奈江ちゃんとデートだー」
里奈は喜ぶ。
「デ、デートじゃないわよ!ただ遊びに行くだけよ!」
「わかってるって。あ、料理来たよ」
二人が頼んだ料理が、テーブルの上に置かれる。
二人は、運ばれて来た料理を食べ始めた。
風峰と美咲は、店を出た後色々なところを回った。
そして、いつの間にか夕方になっていた。
「風峰、今日は楽しかったよ。ありがとう」
「お、おう」
そう言われた俺は、少し照れてしまった。
これで美咲の不安は取り除けたなと思った。
「あ、家まで送ってってやるよ」
「うん、ありがとう」
そして俺と美咲は、美咲の家に向かった。
里奈と美奈江は、店を出た後色々ところを回った。
が、夕方になる前に里奈の家に向かった。
「爆破ぁ!」
「ちょっ!里奈強い!」
風峰と美咲を追いかけるのをやめた二人は、家でゲームをしていた。
対戦できるアクションゲームだ。
「はっはっは。そんなんじゃ私に勝てないよー!」
里奈は、発売当時からこのゲームをやっている。
里奈ほどやっていない美奈江は、里奈に連敗するのだった。
「やっぱり、私たちはその辺ウロウロするよりもゲームしたりカラオケ行く方が楽しいわね!」
美奈江は言う。
「そんなんだから彼氏できないんじゃない?」
「あんただって彼氏いないじゃない!」
二人は画面を見ながら話す。
「私は別に彼氏いなくてもいいと思ってるからなー。美奈江ちゃんがいれば楽しいし」
里奈は言う。
美奈江は、照れて顔を赤く染める。
「私、美奈江ちゃんのこと好きだよ」
「えっ⁉︎」
その言葉に油断した美奈江は、やられてしまった。
そして、里奈はすぐにゲームを再開した。
「……ねぇ、今私のこと好きって……」
「うん、言ったよ?」
この時、美奈江は勘違いしていた。
友達として好きというわけではなく、本当に好きなのだと。
「ま、まさか女同士で付き合いたいと思ってたの……?私のことが好きだなんて……」
美奈江の声が、だんだん小さくなる。
もし、今里奈が告白したらいいよと言ってしまいそうだった。
「ん?私は女の子同士で付き合うのは嫌だよ?」
「え……?」
美奈江はフリーズする。
コントローラーを操作する指の動きが止まる。
「ん?どうしたの?」
里奈は、美奈江に声をかける。
「そ、そうよね!私も女同士で付き合うのは無理だわ!ははははは!」
美奈江のコントローラーを動かす速度が上がる。
「おっ、ついに本気?負けないよ!」
「里奈なんて叩きのめしてやるー!」
そして、二人は夜まで仲良くゲームをした。
次の日、俺は里奈先輩と美奈江先輩に呼ばれたので、里奈先輩の家に向かった。
「で、どうだった?」
里奈先輩が聞いてきた。
「いい感じでしたよ。先輩たちも楽しそうでしたね」
「うん、楽しかった……って、え?いや、なんで知ってんの?」
「美咲が俺のことを待ってる時に、里奈先輩と美奈江先輩が隠れながらこっちを見てたって言ってたので……デート中、バレないように二人で先輩たちのこと見てました」
「バレてたのね……全然気がつかなかったわ……」
美奈江先輩は言う。
「でも、お昼食べた後少ししたら帰ったから安心して。その後は見てないから」
「まあ、その後は普通に美咲の行きたい店に行っただけですけど」
「嘘つかなくていいんだよー?何かしたんじゃないのー?」
「してません!」
俺は言う。
昨日は美咲の行きたい店に連れてっただけだ。
いやらしいことなんてしていない。
「そういえば、なんで途中で帰ったんですか?」
「ん?飽きたからだけど」
「帰った後、里奈の家でずっとゲームしてたわ。気がついたら朝になってて……」
「そうそう、美奈江ちゃん寝ちゃって私の足に抱きついてきて離さないから、私もその場で寝ちゃったんだよねー」
「え⁉︎私そんなことしてたの⁉︎」
美奈江先輩は驚く。
というか、その場で寝たということは、この二人は風呂に入ってないのか。
「先輩、起きて風呂に入りましたか……?」
「入ってないけど?」
美奈江先輩が答える。
「あの……今は十時ですよ?起きて入る時間くらいあったはずなんじゃ……」
「だって、風峰くんが鳴らしたインターホンで起きたからお風呂入る時間なんてなかったんだよー」
里奈先輩は言う。
二人は今はパーカーを着ているが、よく見たら下に着ている服が昨日着ていた服だった。
「俺、しばらくその辺でウロウロしてるので、そのうちに風呂に入ってください」
そう言って、俺は立ち上がる。
「えー?私たちは慣れてるから一日くらいお風呂入らなくても……」
「そうよ!私たちは大丈夫よ!」
「入ってください!」
俺は大声でそう言い、ドアを閉めた。
「ちゃんと風呂に入るかな……」
とても心配だった。
俺は外に出ようとしたが、一旦戻った。
二階に上がると、声が聞こえてきた。
「そこよ!注意して!」
「わかってるって!はい、勝利ー!」
「風呂入ってください!」
俺はそう言い、ドアを開けた。
二人は、服だけ着替えてゲームをしていた。
「げっ、戻ってきた……!」
美奈江先輩が見たくないものを見たような顔をして言う。
「か、風峰くんこれは違うんだ……!その……ゲームが私たちを誘惑してきて……!」
里奈先輩が言い訳をする。
「そんな言い訳しなくていいんで早く風呂に入ってください!」
そして、俺は部屋の外に出た。
風呂場は湯けむりで曇っていた。
風呂には、体を洗う二人の少女。
本当は美奈江が先に入る予定だったのだが、里奈が勝手に入ってきたのだ。
「なんで勝手に入ってきたのよ!」
「まあまあ、体洗ってあげるから許してよー」
そう言いながら、美奈江の体をベタベタ触る。
「さーて、胸でも揉み……あっ……ない……」
「なくて悪かったわね!」
怒った美奈江は、シャワーから出てくるお湯を、里奈の顔にかける。
「わっ、ちょっとやめてよー!」
数秒間かけると、美奈江はシャワーを止めた。
「そもそも、胸があるのがおかしいのよ!なんでみんな膨らんでるの⁉︎」
「いやいや、ぺったんこの方がおかしい……」
「うるさい!」
美奈江は、再びシャワーから出てくるお湯を、里奈の顔にかけた。
「もう!私も怒ったよ!」
里奈は、美奈江に後ろから抱きつく。
「きゃあ!」
そして、いやらしい手つきで舐め回すように、美奈江の体を触っていく。
「あれ?美奈江ちゃん太った?」
里奈は、美奈江のお腹を掴みながら言う。
そして、美奈江は完全に怒った。
里奈を引き離し、里奈の首の後ろを掴む。
「えっ、ちょっと待って!ストップ!お風呂に沈めるのはやめて!やばいから!」
「じゃあ謝りなさい……!」
「美奈江ちゃんは太ってない!そのお腹は元々……待って!さっきより力が強い!わかったって!太ってない!」
「本当……⁉︎」
「本当だよ!」
里奈がそう言うと、美奈江は首を離した。
「ふう……殺されるところだった……」
「あんたが余計なこと言うからよ!自業自得!」
「美奈江ちゃんのお腹がぷにぷにしてるのが悪いんじゃ……」
「何⁉︎」
「なんでもありません!」
それ以降、里奈は大人しくなった。
とりあえず先輩二人を風呂に入れるために外に出たが、特に行くところがない。
コンビニに行ってお菓子などを買い、里奈先輩の家に戻った。
お菓子は、デートの提案をしてくれたお礼だ。
俺は、ドアを開ける。
「ちゃんとお風呂入りましたかー?」
俺がそう行った瞬間、いきなり美奈江先輩と里奈先輩が現れた。
下着姿で。
「ちょっ、里奈危ないじゃない!何してんのよ……」
「ごめんごめん、転んじゃった……」
美奈江先輩は床に倒れた状態で、里奈先輩は四つん這いになった状態でこちらを見てきた。
下着姿で。
「……警察行こっか、風峰くん」
里奈先輩は、表情を変えずに言う。
「あ、あんた何見てんのよ!見ないで!」
美奈江先輩は、顔を赤くして言う。
俺は、とりあえずすぐに目を塞いだ。
「……何してるんですか?あと俺悪くないですよね?警察行きませんよ?」
「警察行くのは冗談だよ、安心して」
「……とりあえず、早く着替えてください」
「そ、そうよ里奈!早く着替えましょう!」
立ち上がる音と足音が聞こえた。
二人は脱衣所に戻ったのだろう。
俺は、目を開ける。
「何してんだ……」
俺は、とりあえず二人が出てくるのを待った。
二人が着替えを終え、脱衣所から出てくる。
そして、俺たちは里奈先輩の部屋に入った。
「さあ、謝ってもらおうか!風峰くん!」
部屋に入った途端、里奈先輩が言う。
「いや、だから俺は悪くない……」
「言い訳しても無駄よ!」
「だから……」
「さあ、観念するんだ風峰くん!はっはっは!」
里奈先輩は笑う。
でも里奈先輩のことだ。
多分怒っていないだろう。
「……これも冗談だからね?わざとじゃないからね。だから許すよ。ね、美奈江ちゃん?」
「わ、私は許さないわよ!私の下着を、さ、三回も見て!この変態!」
美奈江先輩が、俺のことを睨んでくる。
「風峰くん。わざとじゃなくても謝るのが正しいと私は思うなー」
原因を作った本人が何を言ってるんだ。
だが、里奈先輩の言っていることは間違ってはいない。
「す、すみませんでした……」
俺は、頭を下げた。
「風峰くん、もっと頭を下げないと」
「里奈先輩?先輩だからってあまり調子に乗りすぎると怒りますよ……?」
「……今のは無視していいよ」
俺は、美奈江先輩に謝る。
「絶対に許さない!許さないわ!」
だが、許してもらえなかった。
「やっぱり許さないかー」
「普通先輩だったら、仕方がないわね!とか言って許すもんですよねー」
「腹立つわねあんたたち!わかったわ!だったら、これで許すか許さないか決めるわ!」
美奈江先輩は、棚から箱を取り出した。
そして、中身を取り出す。
中から出てきたのは、チェスだった。
「先に三回勝った方が勝利よ!」
そう言って、美奈江先輩は準備をする。
「わかりましたよ。やりますよ……」
俺は許してもらうために、美奈江先輩とチェスをやることにした。
十五分後、俺は一度も負けずに美奈江先輩に勝利した。
「なんで勝てないのよ……⁉︎」
「小学生の頃、里奈先輩とチェスや将棋などをやってたので……」
「私が鍛えてあげてなかったら、勝負に負けて警察行きだったかもねー」
警察には連れて行かれないだろうが、ここで負けていたら俺は許されなかった。
「というとで、許してください」
「んー……!わかったわよ!許してあげるわ!」
「よかった……」
許してもらえた俺は、安心した。
美奈江先輩を怒らせたままにすると、面倒だからだ。
「あ、そうだ里奈先輩。今日はなんで俺を呼んだんですか?報告なら直接来なくても電話とかでよかったと思うんですが」
俺は、気になってたことを言う。
「あー、暇だったから遊ぼうと思って……」
里奈先輩は言う。
「受験生が暇とか言ってどうするんですか……勉強しなくていいんですか?」
「大丈夫だよ。……多分」
「そんなこと言って落ちたら大変ですよ……?とりあえず、今日は俺帰ります」
「じゃあ私も帰るわ。まあ、私と風峰が帰っても里奈が勉強するとは思えないけどね……」
俺と美奈江先輩は立ち上がる。
そして、俺は家に帰った。
家に着いた時、携帯に電話がかかってきた。
美咲からだ。
「ねえ風峰、年越しパーティーやろうよ!みんなで集まってさ。どうかな?」
美咲は言う。
「ああ、いいぞ」
「それじゃあ……会場は私の家で、開始は七時くらいでいいかな?」
「わかった。俺は準備とか手伝うから少し早めに行くよ」
「手伝ってくれるの?ありがとう。それじゃあよろしくね」
美咲は電話を切った。
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