本当のお兄ちゃん

「えーっ!風峰先輩と美咲先輩一緒に寝たんですか⁉︎」


 秋葉は、急にテーブルに手をついて立ち上がる。

 その勢いで、メロンソーダの入ったコップが倒れそうになる。


「秋葉ちゃん危ないよー、急に立っちゃ」


 美咲が秋葉を注意する。

 秋葉は、大人しく座った。

 俺たちは今、学校の近くのお店に来ている。

 そして、美咲の家に泊まったことを美咲が言い、この話が始まったのだ、ら


「風峰先輩、まさか、あんなことやこんなことを……」


 春花が、顔を真っ赤にして言う。


「し、してないぞ!そんなこと……」


 俺は否定した。

 だが、実際は一緒に風呂に入り、一緒の布団で寝た。

 しかし、美咲は妹だ。

 妹と風呂に入ったり一緒に寝るのはスキンシップということになるはずだ。

 だから、いやらしいことではないはずだ、多分。


「じゃあ、ただ泊まりに行っただけですか?つまんないですね」


 秋葉は、ストローでメロンソーダを混ぜながら言う。


「つまんなくて悪かったな」


「風峰には私を襲う勇気なんてないからねー」


 美咲は、笑いながら言った。


「あ、そうだ。今日は早めに帰らないといけないんだ!ごめん、もう帰るね!」


「何かあるのか?」


「今日の今頃の時間は、スーパーの商品が安くなるの!」


 美咲は一人暮らしをしている。

 お金は、母から送られてきているらしい。

 美咲はなるべく安くなっている時にご飯の材料を買い、お金を残しておいてるらしい。


「それじゃ、俺たちも行くか」


 俺たちは、席を立った。

 そして、お会計を済ませて、店を出た。



 俺たちは、お店の前で美咲と別れた。


「あ、そうだ先輩!この後暇ですよね⁉︎私たちの家に来ませんか⁉︎」


 秋葉が言う。

 そして、袖が引っ張られる。

 袖を引っ張っていたのは春花だ。


「来てくれませんか……?」


 この後俺は特にやることがない。


「ああ、いいぞ」


 そう言うと、二人は笑顔になる。


「それじゃあ行きましょう!」


 俺たちは、春花と秋葉の家に向かった。



 春花と秋葉の家に入った俺は、二人に腕を掴まれた。

 そして、そのままリビングに連れていかれ、ソファに無理やり寝かされた。

 意味がわからない。

 なぜ、こんな目にあっているのか。

 秋葉は、俺の体の上に乗る。

 そして、真剣な顔で言う。


「風峰先輩……私からの質問に、嘘をつかず答えてください……!」


 俺は頷いた。


「それじゃあ聞きますよ……?風峰先輩は、私たちのお兄ちゃんですか……?」


「……は?」


 なぜいきなりそんなことを聞く。

 もしかしてバレてしまったのか。

 いや、バレないように気をつけていたはず。

 じゃあなぜだ。

 やはり、同じ苗字だから怪しいと思ったのか。

 とにかく、バレるわけにはいかない。


「いや、違うと思うぞ……」


 秋葉は、俺の顔を見たまま喋らない。


「やめようよ秋葉ちゃん……。多分、風峰先輩は関係ないよ……!」


 春花がオロオロしながら言う。

 しかし秋葉は、どかない。


「ちなみに、なんで俺がお前たちのお兄ちゃんだと思ったんだ?」


「日曜日に私たちの両親の家に行ったんです。そこで、写真を見ました。そして、お母さんが言ったんです。写真に写っている四人の子。左から、春花、秋葉。その隣が、風峰先輩と美咲先輩だと」


 まずい。

 どうすればいい。

 冷や汗が垂れる。

 とにかく、誤魔化さなければ。


「人違いじゃないか……?同じ名前っていうだけで、俺とは関係ないんじゃ……」


「そんなはずありません!絶対に風峰先輩と美咲先輩です!」


 秋葉は、俺の胸ぐらを掴む。

 春花はやめさせようとしたが、秋葉は離さない。


「風峰先輩お願いします……言ってください、本当のことを……!」


 春花は言う。

 しかし、言うわけにはいかない。


「だから、俺は関係ない……!」


 俺は必死に否定する。


「そうですか……じゃあ、風峰先輩の家に行って確かめてきますね。多分、昔の写真とかありますよね?」


 春花と秋葉は、俺の家を知らないはずだ。


「俺の家の場所、知らないだろ……?」


「そんなの、美咲先輩に聞きました」


 このまま家に行かせたらバレてしまう。


「家に写真なんてないぞ!」


「それじゃあ、行っても問題ないですよね?」


「いや、それは……」


「じゃあ行ってもいいですよね?春花、準備しましょう」


「ま、まて!」


 俺は、秋葉の腕を掴む。


「なんですか?」


「俺は関係ない!もし、俺が本当にお兄ちゃんだったとしても、俺は知らない!」


「だから、本当かどうかを確かめるために風峰先輩の家に行くんじゃないですか」


「そ、それはそうだが……」


「……風峰先輩。ここで本当のことを言ってくれたら、誰にも言いません」


 秋葉はそう言った。

 俺的には美咲にさえバレなければいい。

 だが、春花と秋葉が美咲に言う可能性がある。

 しかし、言わなければ確実に美咲に言われてバレる。


「どうなんですか?」


「俺は……」


 言ったら、美咲に言われる可能性がある。

 だが、そう思うということは、春花と秋葉を信じられていないということになる。

 二人の妹を信用していないことになる。

 俺は決めた。


「俺は……美咲、春花、秋葉のお兄ちゃんだ……」


 俺は、春花と秋葉を信じて、本当のことを言った。


「……やっと本当のことを言ってくれましたね……」


 秋葉の体が、俺の体の上に倒れる。


「ど、どうしたんだ、秋葉……?」


 俺は、秋葉に言う。

 その時、俺の体が抱きしめられた。


「やっと会えた……私のお兄ちゃん……!」


 秋葉は、さらに強く抱きしめる。

 今にも泣きだしそうだった。


「秋……葉……?」


 いつも強気な性格の秋葉の様子がおかしい。


「私、ずっとお兄ちゃんに甘えたかったの……」


 秋葉が顔を上げる。

 笑顔だったが、目から涙が出ていた。


「秋葉……」


「お兄ちゃん……大好き……!」


 そして再び、秋葉に抱きしめられた。



 数分後、秋葉は落ち着いた。

 そして、俺は話した。

 隠していた理由を。


「美咲先輩にフラれたくないから黙ってた……そんな理由ですか⁉︎」


「悪いかよ……」


「悪いですよ!黙っていなければ、もう少し早く甘えることができたのに!」


 秋葉は、俺の体を手でバンバン叩く。


「痛い痛い痛い!やめてくれ!」


 俺は、叩かれた部分を手で撫でる。


「でも、よかったね秋葉ちゃん……。お兄ちゃんが見つかって……」


「まあ、それもそうね……」


「それより、さっきのことは本当なんだろうな?このことは秘密にするって……」


 俺は、秋葉に言う。


「もちろんです!ただし、条件があります」


「条件……?」


「一週間に二回以上、ここに来てください。そして、その時は私たちのお兄ちゃんです」


「つまり、普段は今まで通りだが、美咲がいない時にここに来たら俺は二人のお兄ちゃん……ということか?」


「そうです!」


 それくらいなら別にいいかと思った俺は、秋葉の条件を受け入れることにした。


「それじゃあ、今からお兄ちゃんですね!よろしく、風峰先輩……じゃないか。風峰お兄ちゃん!」


「風峰お兄ちゃん……よろしく……!」


「あ、ああ……」


 春花には何度か言われたことがあるから別に違和感がないが、秋葉に言われるのは変な感じがする。

 まあ、そのうち慣れるだろう。


「さて、話も終わったし、帰るぞ。そこどいてくれ」


 しかし、秋葉はどいてくれない。


「なんでよ!もう少しここにいて!」


「ダメだ」


 俺は秋葉を抱き上げて立ち上がる。


「ち、ちょっと!何抱き上げて……」


 秋葉は足と腕をジタバタさせている。

 足が俺の足に当たって痛い。


「やめろ、暴れるな!」


 俺は、秋葉をソファに座らせる。

 秋葉は諦めたのか、帰ろうとしている俺を引き止めなかった。


「風峰お兄ちゃん、ちゃんとまた来てくれる……?」


 秋葉が聞いてきた。


「ああ、ちゃんと来るから安心しろ」


 そう言うと、秋葉はこちらに走ってきて、俺に抱きついた。

 それに続いて、春花も抱きつく。

 俺は、二人の頭を撫でてあげた。


「それじゃ、またな」


 俺は、玄関まで見送ってくれた二人に手を振り、ドアを閉めた。



 春花と秋葉に本当のことがバレてから数日が経った。


「それじゃあ、じゃあねー」


「ああ、また明日」


 俺は、美咲に手を振る。

 美咲は、自分の家の方に向かって歩いて行った。

 この後は、春花と秋葉の家に向かう予定だ。

 俺は、美咲が角を曲がって見えなくなるのを待ってから、春花と秋葉の家の方向に向かった。

 春花と秋葉の家に向かう道は、俺の家に向かう道とは違う。

 もし、美咲に見られたら怪しまれると思い、美咲が見えなくなるのを待ったのだ。



「お兄ちゃんお帰りなさーい!」


 インターホンを鳴らすと、秋葉がドアを開けて飛び出してくる。

 そして、俺に抱きついてくる。


「早く入って!早く!」


 秋葉はぴょんぴょん跳ねながら俺に言う。

 なんか、秋葉の性格が変わったような気がした。

 今まで人に甘えなさそうな性格だと思っていたのに、本当のことを知った秋葉は、すごく俺に甘えてくる。


「早くー!」


 そんなことを考えていた俺の腕を、秋葉は掴んで引っ張る。


「わかったから落ち着け……」


 俺はそう言い、春花と秋葉の家に入った。



 次の日、下校中に美咲が質問をしてきた。


「風峰……ちょっと聞いてもいい?」


「ん?なんだ?」


「風峰、最近何かあった……?最近、風峰の様子がおかしいというかなんというか……」


 美咲は言う。


「なんで俺が変だと思ったんだ……?」


「うーん……春花ちゃんと秋葉ちゃんと喋る時、なんか表情がいつもと違うというか……何かあったのかなーって」


「いや、別に何もないが……」


 言えない。

 春花と秋葉の家に行ってイチャイチャしてるなんて言えない。


「うーん……それならいいんだけど……。何かあったら、私に相談してね?」


「あ、ああ。わかった」


 美咲と話しているうちに、いつも別れている場所についた。


「それじゃあ、また明日」


「うん。じゃあね、風峰」


 俺は手を振った。



 数日後、俺は春花と秋葉の家に来ていた。


「ねーお兄ちゃーん。今度の土曜日どこかに行こうよー」


 秋葉は、俺の膝に座りながら言う。

 しかし、土曜日は美咲と出かける予定がある。


「美咲と出かけるんだが、それでもいいなら一緒に来るか?」


「美咲お姉ちゃんがいると甘えられないんだよね……でも、一緒に行く!で、どこに行くの?」


「遊園地だ」


「遊園地⁉︎あ、もしかしてデート?」


「いや、デートじゃない。ただ遊びに行くだけだ。美咲が急に行こうって言うから」


 昼休みに、いきなり遊園地行こうとか言い出すから、俺は驚いてしまった。


「それじゃ、土曜日ね!」


「ああ、わかった」


 そして、俺たちはみんなで遊園地に行くことになった。



 土曜日、俺たちは遊園地に着いた

 土曜日なので、たくさん人が来ている。

 入場するためのチケットを買うのにもかなりの時間がかかった。


「風峰!ジェットコースター乗ろう!」


 美咲が腕を引いてくる。

 この遊園地のジェットコースターは人気で、他の乗り物よりもたくさんの人が並んでいる。


「私、ジェットコースター苦手なので……向こうで待ってます……」


 春香は言う。


「あ、それじゃあ私も春花と一緒に待ってます!」


 そう言うと、春花と秋葉はベンチに向かっていった。



「一番前か……」


 俺たちは、一番前の席に座る。

 美咲の方を見る。

 とても楽しみ、という感じの顔をしている。

 しばらくすると、ジェットコースターが動き出した。

 レールを登って行く。

 一番上まで来ると、遊園地全体が見渡せた。


「怖いねー風峰ー」


 怖いと言っているのに、美咲は余裕そうだ。

 そして、ジェットコースターは急加速。

 下に向かって進んで行く。


「きゃあああー!」


 美咲は声を上げる。


「うおおっ!」


 ジェットコースターは、思っていたよりも早かった。

 ジェットコースターは猛スピードでレールの上を走る。


「はははっ!楽しいね!」


 美咲の顔をちらっと見たが、とても楽しそうだった。

 コースを一周して、ジェットコースターは止まる。

 俺たちは、ジェットコースターから降りた。


「はー楽しかったねー」


 美咲は、俺の腕に抱きついてくる。


「ちょ、やめてくれ。こんな人の多い場所で……」


「えー?いーじゃん。私たちカップルなんだから」


 そう言って、今度は体を寄せてくる。

 いつも恥ずかしいと言って腕を引き抜いているが、実は、周りの人に見られることよりも胸が押し付けられることご恥ずかしいのだ。

 美咲の胸は、大きいか小さいかだったら大きい。

 だから、腕に抱きつかれると恥ずかしいのだ。


「あ、コーヒーカップがある。春花ちゃんと秋葉ちゃんと一緒に、コーヒーカップに乗ろうよ!」


「わかった、わかったから腕を離してくれ……」


「やだー」


 抱きつく力はいつもより強く、腕を引き抜くことも美咲を振り払うこともできない。

 どうすることもできないので、そのまま抱きつかせることにした。



 春花と秋葉と合流するとコーヒーカップに乗った。

 コーヒーカップが回り出す。

 真ん中にある回せるやつを、秋葉が勢いよく回す。

 コーヒーカップの回転スピードが上がる。


「秋葉ちゃん……!速いよ……」


「それそれー!」


 しかし、秋葉は回し続ける。


「ちょ、ちょっと回しすぎ……!目が回るー!」


「ストップ!秋葉ストップ!」


 コーヒーカップが終わる頃には、みんなぐったりしていた。


「回しすぎちゃったぁ……えへへ」


 秋葉は、俺の膝に倒れてきた。


「秋葉ちゃん回しすぎ……」


「ごめんごめん」


 秋葉はそう言うと、俺の方を見てきた。

 そして、ニヤリと笑った。

 わざとだ。

 わざと回しすぎて、調子悪くなったふりをして、俺の膝に倒れるつもりだったんだろう。


「風峰ー、秋葉ちゃーん。早く降りようよー。次乗る人の邪魔になっちゃうよー」


 先に降りた美咲は言う。

 俺は秋葉を起こすと、カップから降りた。



 それから、お昼を食べて、メリーゴーランドとかに乗って、気がついたら夕方になっていた。

 暗くなる前に、俺たちは帰ることにした。

 帰りの電車のに乗ると、疲れたのか美咲と春香は寝てしまった。


「風峰先輩。美咲先輩に本当のこと言わないんですか?」


 秋葉が突然、俺に聞いてきた。


「言うつもりはない。……怖いんだ。振られるのが……」


 振られるのが怖いから、真実を隠している。


「私、本当のことを話した方がいいと思うんです。美咲先輩なら、きっと受け入れてくれるはずです……」


「ああ、美咲なら受け入れてくれるだろ。だけど、勇気が出ないんだ……」


 美咲なら受け入れてくれる。

 そうわかっているのに、言う勇気がなかった。


「このままでも、別にいいだろうって俺は思ってるんだ。このままでも幸せだし……」


「よくないですよ」


 秋葉は、きっぱりと言った。


「大好きな彼女に、妹に嘘をつき続けるのがいいことだと思うんですか?風峰先輩は最低です。美咲先輩を信じず、振られるかもしれないって思って真実を隠して……」


 秋葉は言う。

 その通り、俺は最低だ。


「ん……どうしたの?風峰……秋葉ちゃん……」


 俺と秋葉が話していると、美咲が目を覚ました。


「な、なんでもないぞ」


「なんでもないですよ……」


「そう……それならいいけど……」


 美咲が起きてしまったので、さっきの話は途中で終わってしまった。

 俺だって真実を言いたいんだ。

 だけど、振られるのは嫌なのだ。

 だから、俺は言いたくない。

 このままずっと、真実を隠したい。



「美咲、最近元気ない?」


「えっ?」


 休み時間、明音が美咲に突然そんなことを言った。


「なんか悩み事でもあるの?」


「うーん……別に……って言ったら嘘になるかなー……。一年生に島風秋葉って子がいるんだけど、風峰と秋葉ちゃんが最近変な感じがするんだよね……」


 美咲は、風峰に聞かれないように自分の悩みを話すことにした。


「喧嘩してるわけではないと思うんだけど……二人が顔を合わせるといつもと違う表情になるというか……」


「うーん……喧嘩してないんだよね……?もしかして、浮気したとか……?」


「えっ⁉︎」


 美咲は、明音の言葉を聞いて驚いた。


「……いやいや、風峰が浮気するわけないでしょー」


「いや、わからないよ。風峰は実はいい女の子を見つけたら昔の彼女は捨てて新しい彼女を作るような人かもしれないし……。もしこれが本当だったら、島原カップル終了じゃん!いや、でもその秋葉って子も島原だから……」


 と、明音は一人でぶつぶつと言い続ける。


「絶対に違うってー」


「じゃあさ、帰りに風峰にバレないように追いかけてみようよ!」


「え、でもそれってストーカー行為……」


「まあ、大丈夫でしょ!それじゃ、今日の帰りに実行ね!」


 明音がそう言うと、休み時間終了のチャイムが鳴った。



「ごめん、今日用事があるから先に帰ってて」


 美咲がそう言うと、風峰は先に帰った。

 そして美咲たちは、風峰にバレないように教室から出た。

 風峰は途中までいつも通りの帰り道を通ったが、帰りにいつも分かれるところで、違う方向に曲がった。

 美咲は、なんで自分の家に向かわないのだろうと思いながら尾行を続けた。

 しばらくつけていると、春花と秋葉の家に向かっているのではないかと予想した。



 風峰は、春花と秋葉の家のインターホンを鳴らす。

 美咲と明音は、風峰にバレないように隠れながら風峰を見張る。

 ドアが開く。

 中からは、秋葉ちゃんが飛び出してきた。

 そして、風峰に抱きついた。

 秋葉は、とても嬉しそうだ。

 風峰は秋葉に離れてもらうと、中に入っていった。


「ほら!やっぱり浮気だよ!」


 明音が言う。


「秋葉ちゃん……あんなに甘えん坊だったっけ……?あれ……?」


「ちょっ……美咲大丈夫?とりあえず、家まで送るよ」


 美咲は、明音に自分の家まで送ってもらった。

 美咲は家に帰ると、ベッドに横になる。


「風峰が浮気……。いや、風峰が浮気するはずない……」


 美咲は思った、絶対に浮気はしていないと。

 風峰を信じているから。



「ねぇ、風峰」


 登校して席に座ると、美咲は突然俺に顔を近づけてきた。


「な、なんだ……?」


「私は、風峰の彼女だよね?」


「ああ、そうだが。……急にどうしたんだ?」


 俺が答えると、美咲は顔を離す。

 本当にどうしたのだろうか。


「いや、なんでもないよ!」


 そう言うと、美咲は自分の席に戻っていった。

 俺が美咲のことを見ていると、肩を叩かれる。


「風峰、里奈っていう三年生の人が呼んでるよ」


 肩を叩いたのは、明音だった。

 俺は、教室のドアの方を見る。

 教室の外には里奈先輩がいた。


「わかった。ありがとう、明音」


 俺は明音に礼を言うと、里奈先輩の元へ向かった。



「風峰くん。浮気してないよね?」


 里奈先輩が、いきなりそんなことを聞いてきた。


「浮気?してないですよ?」


「昨日、美咲ちゃんが秋葉ちゃんが風峰くんに抱きついてるのを見たらしくて……あ、私がこのことを風峰くんに話してるって美咲ちゃんには言わないでね?」


 美咲は、昨日は用事があると言って学校に残っていたはず。

 なぜ、俺が秋葉に抱きつかれたことを見たのか。


「まあ、浮気はしてないんだよね?それじゃあ、なんで抱きつかれてたのかな?」


 甘えられて、とは言いづらい。


「秋葉が転んで、それで俺に……」


「でも、笑顔だったって……」


「気、気のせいですよ!」


 俺は否定した。


「とにかく、浮気なんかしていません!」


 実際、浮気はしていない。

 俺は本当のことを言っている。


「ふーん……。とりあえず、美咲ちゃんを悲しませるようなことはしちゃダメだよ?」


 里奈先輩は、自分の教室に戻っていった。



「なあ秋葉。これからは玄関で抱きつくのはやめてくれ」


「えー?なんでー?」


 俺は放課後、春香と秋葉の家に来ていた。


「昨日抱きつかれたのを美咲に見られて、なんか誤解されてるんだ」


「わかった。お兄ちゃんが言うなら……」


「よかった。家の中だったらいいが……いや、そもそもあまり抱きつかれるのは嫌なんだが……」


「秋葉のこと嫌い?」


「いや、恥ずかしいんだ……秋葉のことは嫌いじゃない」


 そう言うと、秋葉は笑顔になった。


「あ、そうだ。今日はこの後用事があるから帰る。それじゃまたな」


 俺は立ち上がり、家を出た。



 駅の近くにあるレストランに、俺はやって来た。

 お店の前には、里奈先輩と美奈江先輩がいた。


「あれ、美奈江先輩なんでいるんですか?」


「なんか一緒に行きたいって言うから連れて来ちゃった」


「まあ、別にいいですけど……」


 俺たちは、店の中に入った。



「それで、相談って何?まあ、美咲ちゃんのことだと思うけど」


「美咲って、風峰の彼女?何かあったの?」


「実は、秋葉がバランスを崩して俺に抱きついちゃったところを美咲が見て、なんか誤解しているようで……」


 本当は抱きついてきたのだが、バランスを崩したと言う。


「それで、もしかして浮気してるんじゃないかって思われてるのかなって……」


「あー、美咲ちゃん言ってたね。風峰くんが浮気してるんじゃないかって。でもしてないんでしょ?」


「するわけないじゃないですか!」


「まあそうだよね。風峰くんが浮気なんてするわけないよね。それで、相談って?」


「美咲を安心させたいんです。美咲、今不安だと思うんです」


「風峰に捨てられるんじゃないかとか思ってるんじゃないかってこと?」


 俺は頷く。

 だから、どうすればいいかを聞くために、里奈先輩にお願いしたのだ。


「んー、そうだねー、デートでもすれば?」


「デート……ですか?」


「うん。デートしていちゃいちゃして、美咲ちゃんを安心させればいいんだよ」


「なるほど……」


「デートだったら、映画とかいいんじゃない?ほら、冬休みに上映開始するあの映画!」


 美奈江先輩は言う。


「あー、あの恋愛映画ね。いいんじゃない?風峰くん、冬休みに行ってきなよ」


「わかりました。それじゃあ誘ってみます。ありがとうございました」


「困ったらいつでも相談してねー」


 俺は、冬休みに美咲をデートに誘うことにした。

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