第39話 桃色の追悼

 席に戻ると、客が少し増えていた。

 終電を逃した若い酔っぱらい連中十人ほどが、ホテルがわりに溜っている。

 先ほどの男もその一員のようだ。

 男たちは皆ブラック・スーツ、女は黒の礼服姿だった。葬式の帰りかなにかに違いない。

 式後にすぐ酒を飲み、ピンク映画まで見ているようじゃ死者も浮かばれないだろう。

 残されたものだって。

 私の両親は存命中だし、親しい友人など元よりいない。この年齢まで近しい者の死に出会ったことがないのだ。

 一体、どういう気持ちになるのだろう?


 その男女たちは二人(あるいは三人ずつ)一組になり、まぐわりあった。

 誰もいさめる者はいなかった。私だって、口を挟もうとは思わない。

 監督の息子は、まだ眠っていた。彼の保護者として、監督する義務にかられた。私は彼の肩をゆすり、立ち上がらせ、足元の覚束ない彼を引っ張り逃げ出した。

 ひび割れた嬌声が、劇場内に響いていた。

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