第31話 FIN(ちゃんちゃん)
『人妻』は簡単な昼食を摂ると、おもむろに大量のはがきに向かった。裏にはありふれた風景写真が刷られている。彼女は一枚一枚に宛名を書いていく。全て自分宛だ。郵便屋との邂逅を祈り、それらをポストに投函するのだ。
家から帰ってくると、ようやくぬれ場らしいシーンが入った。彼女は、リビングで自らを慰め始める。パステルカラーの木綿の下着の上から、郵便局の粗品のボールペンで秘部をこねくり回す。わざとらしい喘ぎ声を上げ、鼻の穴を膨らませた。
そういう使い方をされるなんて、ボールペンを渡した側は夢にも思っていない。ボールペンを作った工場……。(いや、やめよう。つい、どうでもいいことを考えてしまうのだ)
女が忙しく湿り気を帯びた呼吸を繰り返し、眉根を寄せ、イきかけた瞬間、チャイムが鳴った。「郵便でーす」と鼻にかかったような男の声がする。女は焦りながらも、淫らな期待に胸を膨らませ、玄関へと向かった。ドアを開けると、そこに立っていたのは想い人とは違う、別の背の低い郵便夫だった。
事情を訊くと、妻が恋した男は配達エリアが変わり、もう来ることはないという。
妻は失望するが、その小男を誘ってしまい、激しくまぐわりあうのだ。(学校に通う子どもが帰ってくるのを、終始気にしながら)
とんだスキモノだ。
そこからは、さらに見るに堪えないほど退屈な内容だ。
監督の息子はぬれ場が始まってからずっと息をひそめ、釘づけになっている。
一体どこらへんに、興味深い要素があるんだ?(これが生れて初めて見たピンク映画だとしたら、二度と見に行くことはないだろう)
平板なカメラ・ワーク。
ありきたりなセリフが並ぶ。(誰が「奥さん、ここに欲しくてたまらんのでしょう?」なんて言うのだろうか?)
人妻の手淫で一発目を出し、正常位から
人妻が男に騎乗し、彼女が棒読みで「あふん、あふん」と規則的に喘ぎ、上下に体を揺すった。
いきなりカメラが切り替わったかと思うと、尻切れトンボに、男が彼女の顔面に発射をした。
女は男のふぐりに鼻を押しつけ「あぁ、こんな男っぽいニオイ嗅いでたら頭変になっちゃう」なんて、こぼしたりもするのだ。
次のカットではすでに二人は服を着ていて(ひどく間抜けに映る)小男は「また来ますよ」と残し、帰っていった。
男を見送ると、妻はまた、郵便局のペンで自分を慰める。すると、どしゃぶりの雨が降ってきて、ベランダに洗濯ものを取り込みに行く。そこで暗転し、ジャズピアノのBGMを伴いエンド・ロールが流れた。
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