第13話/誰にでもある衰え(と自慢)
さて。投手の武器と言ったら、針の穴を通すようなコントロールや七色の変化球(古びた言い回しだ)といったものが挙げられる。
身体的な能力でいえば、強靭な足腰や連投をものともしない肩、ストレートを投げおろす高身長などだろうか。私は特別背が高いわけでもないし、筋力もプロ選手としてはせいぜい十人並みといったところだろう。
では一体、私の売りは何か?
それは肩甲骨だ。
歯を磨かずに眠る日はあっても、肩甲骨のトレーニングだけは怠らなかった。
胸を弓のように張るのが投球の正しい姿勢とされているが、私はそれよりさらに反らせ、左右の肩甲骨同士がくっつくほど胸を反らせて投げた。
球速は平凡だったが、手元でのノビはなかなかだった。
特にサウスポーとあって、左打者にはめっぽう強かった。
私のウイニング・ショットはスクリューだった。
二十二年間、球種は増えたり減ったりを繰りかえした。しかし、スクリューだけは私とともにいた。
右打者相手ならアウトコースに舌を出して逃げていくし、左打者に対しては懐へ牙をむき出して迫った。
最もボールがキレていた頃(もっとも、それはたった半年しかなかった!)私のスクリューに触れることができるものはそうそういなかった。
くるとわかっていても、だ。
それ以外の時期でも、プロレベルのウイニングショットとしては十分水準を満たしていたはずだ。
だが、プロを十二年続けたあたりから、指の具合が変わった。ボールが抜けることが増えたし、ストレートの走りも目に見えて悪くなった。一応、思ったところにボールはいくのだ。
ただ、軽々と打たれた。
元々速球派ではなかったが、それでも球威の衰えには、やはり背を丸めずにはいれなかった。ストレートが死んでしまったような気がした。
しかし、私は冷静に考えた。
9回の裏1点差、ノーアウト2、3塁のときと同じように。
そうだ。加齢による力の衰えだ。誰にでもある。仕方ない。もちろん実際にはすぐに割りきれるものではない。
それでも、仕方ないのだ。
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