第14話/死刑宣告
私は、投球術を変えた。
150キロのストレートを諦めた。150キロを目指して145キロを投げるのではなく、135キロのストレートを細心の注意を払ってコーナーに投げるのだ。
私は左右に振るのは得意だったが、上下を使うのは苦手で、低めに放る一辺倒だった。
特に、顔の傍のインハイを投げるのは嫌だった。
ボールに口臭をつけられでもしたら、たまったもんじゃない。
それでも背に腹は代えられず、そのインハイも使った。ボールには悪いことをした。
だが選手総会で試合前の入念な歯磨きを訴えたので、どうにか許してもらえた。
私のプライドをかなぐり捨てた作戦は、吉と出た。
ストライクゾーンを広く使い、打たせて取るピッチングを心がけた。100パーセントとはいかないまでも、プラン通りに試合を作ることは出来るようになった。
たとえリードを許しても、野手の士気が下がらない程度の差に持ち込む技術だ。
これは、投手にもっとも必要なバランス感覚である。
その調子でさらに十年間、勝ち星を重ねた。
それにも関わらず、私と同い年の投手コーチは、私にあることを命じた。
人生そのものを大きく揺るがす事件だった。
今年の開幕戦だった。
その時点で199勝まで到達していた。200勝を祝おうと、プラ・カードを用意しているファンもいた。
チームに移籍してきたばかりの私は、低迷するチームの起爆剤としての活躍を期待され、開幕投手として選ばれた。
6回表、デッド・ボールを二回連続で与え、ツーアウトながらピンチを迎えていた。二つとも、スクリューのすっぽ抜けだった。
マウンドにコーチが上がってきた。私は彼をベンチの方に向かせ、背中を押した。
まったく、みっともない。
呆れた顔をしたコーチがマウンドに帰ってきて、私に耳打ちをした。
「もうスクリューは、投げるな」
「え?」
「もうウイニングショットに使うなって言ってるんだ」
そして、こう付け足した。
「頷けないなら、マウンドを降りろ」
頭がくらりとした。
それは、死刑宣告だった。
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