第11話/正しく基本的なソネット

 ノートの真ん中左に、丸文字で一言、「われめちゃん」と書いてあるのだ。

 私は、苦笑いした。

 長々した意味深長なタイトルのくせに、中身はたった一行。立派なスタジアムの芝生の上に、コーン・フレークが一枚。

 それと同じだ。こんなことでて持て囃されているなんて、とんだ笑い草だ。

 この言葉に金を払う人間も。あんなの誰にだって書ける。

 そうさ、私にだって。

 私は、彼女のノートの一ページに『タッチ・アップ』と書いた。妻はしばらく口を噤み、ひどく怪訝そうな顔をした。

「これは詩として成り立ってないわ」

「は? お前のと何が違うんだ?」

 私は苛立ちながら尋ねた。自分の言っていることは、『正しい』し、道理が通っているはずだと信じて。

「あなたのは、ソネットになってないじゃない。基本よ、基本」

「ソネット?」

 私は『ソネット』を辞書で引いてみた。どうやら、『十四行詩』のことらしい。

 わけがわからない。

 そうだろう?

 なぜなら、妻の『詩』だって、まったく『ソネット』になってないのだから。

 あと、13行も足りないのだ。

 そうだろう?


 他にも、こんなのがある。

 タイトルは、『人間の屁』。



 電気マッ佐阿慈(サージ)ネズミのしゃっくり





 ひっく




                       』


 ……だそうだ。(呆れてものも言えない)

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